第39話 生徒会書記ザリード2

「……マジですか?」

「大真面目だ!」


 無防備な身体に『風の刃』を叩き込んだと思ったが、全身から火を放つザリードによっていとも簡単に無効化された。と言うより、風と言う概念を燃やされた。


「それがザリード先輩の『燃焼』ですか」

「流石に知っているか」


 ザリード・クスヌバルクの持つ固有魔法『燃焼』の効果は単純。全てを燃やし尽くす魔法である。当たったはずの『風の刃』は風ごと燃やし尽くされたから届かなかった。自らの放出する魔力を燃やしているから、手から炎が放出されているように見えている。実に単純な魔法であるが、だからこそ厄介だ。


「悪いが、お前の使ってる『風の刃』は、俺には届かねぇ」

「相性が悪いですか」

「そうだよ相性だ。固有魔法の相性だけで魔法師の戦闘はひっくり返る。そういうもんだ」


 優れた魔法師同士の戦いは、固有魔法の相性によって勝敗が決まる。これはこの世界の常識だ。だからこそ、数多の手札を持つ俺の『模倣』は他の魔法師にとって脅威にしかならない。ただし、その手札の枚数が多ければの話だ。俺の中にある攻撃の手札は『風の刃』だけだ。


「終わりだ!」


 そう、ザリードが思い込んでくれている。

 背後から放たれた炎を見えない壁で防ぎ、手から雷撃を放った。


「馬鹿なっ!?」


 向かってきた雷撃を『燃焼』で防いだザリードは、一気に距離を取った。彼の頭の中は困惑が広がっていることだろう。相手の必殺である『風の刃』を完封した上で、油断もなく自分の必殺の技を放ったはずなのに、それを見もせずに防がれた。いや、そもそもザリードの放つ必殺技は見ることもできないはずなのだ。


「お前……俺の魔力の糸が見えてやがったな。精霊眼持ちか?」

「いえ、ただザリード先輩が魔力の糸を伸ばすのが見えただけですよ」

「それを精霊眼だって言うんだよ!」


 必殺を防がれても容易に攻めかかってこない優秀さは、やはり生徒会役員ならではだろう。と言うか、ザリードは俺が『風の刃』以外の武器を持っていることを絶対に頭に入れていた。帝国魔法祭に参加しているのに、なんの準備もせずに参加するはずがないと。


「逃げるんですか?」

「作戦考え中だ!」


 逃げるザリードを追うために、俺は『翼』を起動して追いかける。範囲内に入れば『翼』を解除して『風の刃』を放つ。背後から向かってくる『風の刃』を視認してから、手を突き出して『燃焼』を発動させるのを見て、俺は風を霧散させて『翼』を発動する。


「……よし、これでもお前をぶっ倒す」

「脳内作戦会議は終わりですか?」

「あぁ……首洗って待ってろよ」


 空を自由自在に飛ぶ俺に対して、ザリードは不敵に笑っていた。

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