第29話 断りました

「そうか。フラれてしまったか」

「ふ、フラれたって……人聞きが悪いこと言わないでくださいよ」


 固有魔法研究室へと入ったことで生徒会には入れないことをマリス先輩に伝えると、大袈裟に肩を竦められてしまった。

 生徒会に誘われたことは光栄なことだと思うが、俺はやはり自分の夢を追いたかった。


「ただ、気を付けておけ」

「何をですか?」


 やはり生徒会に誘われておきながら断るというのは学園的にまずかったのだろうか。折角自分と志を同じにする者、と言ってもいいかもしれない仲間を見つけたのに、俺が学園から追い出されては意味がない。


「リリアナ殿下に、だ」

「殿下に、ですか?」


 品行方正で文武両道。まさに優等生と言った感じのリリアナ殿下に対して気を付けろというマリス先輩の意図が見えない。


「あの方は基本的には温厚で人情的だが、一度執着心を見せると地獄の果てまで追いかけてくる、蛇の様なお方だ……お前はもう、目を付けられているぞ」


 あんなに綺麗で優しそうなリリアナ殿下が、蛇に例えられたことが俺は信じられなかった。望んだ物を与えられて生きてきただろうが、だからと言って手に入らないとはいえ俺のようなつまらない人間に執着するのだろうか。


「忠告はしたからな。研究、頑張れよ」

「は、はい! マリス先輩、ありがとうございました!」

「あぁ……次に会う時が生徒会仲間として、なんてことはやめてくれよ」


 マリス先輩の中では、リリアナ殿下がこれからも俺を生徒会に引き込もうとすることは確定のようだ。

 世話になった先輩の忠告なのだから、頭の片隅へと留めておこう。


 マリス先輩と別れた俺は、そのまま固有魔法研究室へと向かった。ぼろいドアを開けて中に入ると、部屋から溢れてきた白い煙で視界が埋め尽くされた。


「わっ!? な、なんですかこれ!?」

「ら、ライト君かね!? 大至急換気をしてくれ!」

「は、はい!」


 声だけ聞こえてきたフリム教授の指示に従って、急いで窓と扉を全開にする。それだけでは全く煙が消えないことから、これがただの煙ではないことを俺は察した。


「風を起こします!」


 煙の中で起きている状況を確認する為、俺は『模倣』を使った。思い描くのはルドラの固有魔法である『風の刃』の構築式。今回は物を斬り刻むためではなく、煙を払うために風を纏う。


「はっ!」


 身体の周囲で留めていた風を一気に解放して、部屋中を覆っていた煙を掻き消した俺は、そこにいるフリム教授とアリスティナの姿を確認して安堵の息を吐いた。

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