第28話 研究室、始動しました

「この『翼』もしかして飛べるのか?」

「感覚で分かる? 練習すれば飛べるよ」

「練習すればね」


 俺の『模倣』はあくまで相手の固有魔法の構築式を真似るだけなので、こういう感覚的な部分であったり、使いこなさなければならない部分は真似できない。現に、アリスティナが自分の翼をゆらゆらと自らの意思で操っているのに対して、俺の翼の動きは、フリム教授が笑うのを必死に堪えている程度にはぎこちない。


「フリム教授の固有魔法はどうなんですか?」

「あ、あぁ……私の固有魔法は『交換』だ」

「交換……」


 またなんとなく分かり難いような分かり易いような固有魔法である。


「範囲内の物と物を入れ替える能力と言うと少し語弊が、ある気もしないでもない。概ねそのような固有魔法だ」

「それで交換ですか」


 なんとなく抽象的な説明だが、実際にフリム教授は机の上に置かれていた砂時計と、手に持っていた紙の場所を入れ替えて見せた。続けて移動させた紙と机の上にあったペンを入れ替え、最後に俺とアリスティナの位置を入れ替えた。

 範囲は詳しく理解できなかったが、入れ替えるものに触れる必要もなく、事前動作もない固有魔法は便利だと思った。


「……難しい構築式をしていますね」

「そうだろう? 私は生まれてきてから50年以上、この固有魔法を研究し続けていたのだ。簡単には『模倣』できまい」


 固有魔法の第一人者と呼ばれるだけあり、フリム教授の『交換』の術式がとても複雑に絡み合っていた。複雑であるはあるが、どの術式にも全く無駄を感じさせない構築式だったため、フリム教授がいかに優れた魔法師であるのかを実感させられる。

 研鑽された固有魔法を見ると余計に、固有魔法は使うものではなく、研鑽させるものなのだと思う。


「あ、できた」

「ほー……実際に自分の固有魔法を使われるのは新鮮な気分だ」

「ですよね? 私も『翼』を模倣されて少し感動しちゃいました」


 二人は固有魔法の研究者としての立場で語っているから、新鮮だとか感動したと言うが、実戦重視の魔法師としてはたまったものではないだろう。


「ともかく、これで君は数も関係なく、構築式さえ理解していれば固有魔法を『模倣』できると証明した訳だ。ようやく我が研究室も忙しくなるぞアリスティナ君!」

「はい! ずっと待ってましたよ!」

「……お願いします」


 この二人のテンションの高さに俺はついていけるだろうか。少し不安だが、固有魔法研究室での活動は非常に楽しみだ。

 固有魔法が発現したことで、ようやく手に入れることができた居場所。


 何故、母が俺に固有魔法を持っていることに気が付いていたのかは知らないが、そのお陰で俺は居場所を手に入れることができた。

 死んだ母の墓に、会いに行ってみるのも悪くないかもしれない。

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