第9話 魔力量が桁外れでした

 魔力を特定の部位に流し込むという行為は、現代魔法師には難しい行為となっている。理由の一つとして、生まれた時から持つ固有魔法があげられる。俺のように固有魔法を使えなかった人など存在しないため、誰もが固有魔法を扱うこの世界では、魔力など固有魔法を放つための触媒でしかない。

 そんな世界でも、固有魔法を持たなかった俺は魔力を精密に操ることができる。数少ない自慢できる分野だった。


 指定された魔道器具へと魔力を流し込む俺を、リリアナ殿下が楽しそうに眺めていた。正直やり辛くて仕方ないが、皇女に向かってそんなことは言えないので黙っている。


「魔力を流すのが上手い、が……なんだこの魔力量は」

「え? 少ない、ですか?」

「桁外れに多い」


 顔を顰めたまま呟くマリス先輩に不安そうに問いかけてみたが、返ってきたの言葉は逆のものだった。

 魔力量が桁外れに多いと説明されたが、人間の目には魔力は見えないのでイマイチピンとこない。なんというか、君は人並み以上に情熱があるね、みたいな曖昧な感じである。


「マリス先輩に比べて、どれくらいですか?」

「私と比べて? そうだな……五百倍くらいか?」


 いやそれは多すぎるだろう。先輩も落ちこぼれでいじめられていた俺を気遣っているのか思ったが、真面目な顔で紙に記録している。

 本当に先輩の五百倍だとしたら、恐ろしい値になっていると思われる。自分の正確な魔力量を知るのが少し怖くなってきた。


「測定が終わったな」

「ど、どうですか?」

「この魔力量なら……お前一人で帝都の消費魔力を補えるんじゃないか?」

「え、そこまでではないですよ……頼みます。そう言ってください」


 マリス先輩が大袈裟に言っているぐらいでないと怖くて仕方ない。前世も小市民でしかなかった俺が、帝都の消費魔力に匹敵するとか、胃が痛くなってくる。

 先輩が魔道器具をしまうのを横目に、俺は頭を抱えたい気分になっていた。


「ま、まぁ……自分の持つ魔力量を正確に知っている奴など多くはないんだ。気にするな」

「気にしますよ。どうしてくれるんですか」


 視線を逸らしたまま言っても、気休めにもなりませんよ先輩。どうしてくれるんですかこれ。リリアナ殿下は楽しそうに笑ってますけど、ただ事じゃないですよ。


「特殊な目を持つ人間以外には魔力なんて見えないんだ。そこまで気にするな。この件は終わりだ」

「無理やり終わらせましたね、先輩。恨みますよ」

「許せ。私は魔法が得意なだけの平民なんだ。貴族のように頭は使えない」


 身分を言い訳にできるなら、既に廃嫡されている俺も平民なんですよ先輩。

 皇女殿下は「王国がこんな良い魔法師を捨ててくれてよかった」とか呟いてるし、何度も言うけど本当になんか怖いんですけど!

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