第10話 固有魔法の話を聞きました
「それで、お前の固有魔法だが、見せられるものなのか?」
「どういう意味か分かりませんが、見せられると思いますよ」
固有魔法という存在を今日、ようやく理解することができた俺としては、よくわからないとしか言いようがない。
「固有魔法から説明すべきか?」
「ご教授、お願いします」
知識に貪欲でなければ、この弱肉強食の世界では生き残れない。そう思えば自然と身が入る。
「単純に固有魔法の理論から説明するか」
マリス先輩としても固有魔法のことを細かく説明することなど初めての経験だろう。この世界に生きている人間は、全員が感覚で知っている本能的な部分なのだから。何故、人が立って歩き始めることができるのかなど、説明できる人間が少ないのと同じである。
「人間は生まれてきた時から固有魔法を扱うことができる。正確には持って生まれてくるだけで、生まれた瞬間から固有魔法を発動できるわけではないが」
自我が無ければ魔法は撃てない。赤ん坊のころから固有魔法の才能自体はあっても、それを発動させることは誰にもできないということだろう。
「あくまで一説に過ぎないが、個々人の持つ魔力には見えない特色が存在していて、その特色に応じた魔法が発現し、それが「固有魔法」と呼ばれている……らしい。だから、似ている固有魔法を持っている奴がいても、全く同じ固有魔法を持っている奴はいない」
ここが固有魔法の不思議な所なのだ。
原理が似ていたり結果が酷似していたりとする固有魔法は存在しても、全く同じ固有魔法を持っている人間は歴史上一人も確認されていないとされている。
過去の人間の固有魔法も同じ事で、固有魔法を持っている人間が死ぬと、その固有魔法を持つ者は未来永劫生まれてこない。
そういう風に世界ができているのだと、誰もが理解している。
「貴族では、固有魔法は神から授けられた才能と言われることもあるらしいな」
「それは、そうですね」
平民出身のマリス先輩には噂話程度の認識なのだろうが、子爵家に生まれた俺には身の覚えのある話だった。固有魔法を持って生まれなかったのは神に愛されなかったからだ、と。
「お前が今日まで固有魔法を発動できなかったことだが、私は突然固有魔法が生えてきたのではなく、ただ使い方を知らなかっただけなのではないかと、考えた」
「使い方を……知らなかった」
それはもしかしたら、俺の前世の記憶が身体に刷り込まれているからかもしれない。と言うか、それ以外にこの世界の人間との違いが思い浮かばない。
魔法が存在しない世界に生まれ、三十年近く生きていた感覚が抜けていなかったから固有魔法が使えなかった。そして、命の危機に瀕した時にようやく身体の使い方を理解できた。
つまり俺は、この世界でようやく息の仕方を覚えたばかりの赤ん坊、ということだ。
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