第4話 いじめられました

 帝国魔法学園の教室で、複数人の男子生徒が集まって1人の男子生徒を蹴っていた。

 勿論、蹴られているのは俺だ。


「おら! この才能無しが!」

「や、やめてくれ……」

「口答えしてんじゃねぇよ無能!」


 ニヤニヤと笑いながら俺の身体を蹴るのは、この教室の主である帝国貴族オックス男爵家の嫡子であるルドラ・オックス。彼は学園でもトップクラスの固有魔法を持っているエリートで、蹴られている俺は王国子爵家から廃嫡された固有魔法を持たない無能者。当然、加担する者はいても、庇う者も助ける者もいない。


 そう。結局、アーノルドの言葉を信じて帝国魔法学園にやってきて半年。俺は、未だに固有魔法を覚醒させることもできずにいた。魔法学園と呼ばれるだけあり、完全なる実力主義で貴族でも平民でも関係なく入学することができるが、固有魔法を持たない落ちこぼれ以下の無能などなんの価値もない。なにせ、固有魔法を持たない存在などこの世界には俺しかいないのだ。


「おいライト。最近また調子に乗ってきたんじゃないのか?」

「そんなことは」

「そういう態度のことを言ってんだ、よ!」


 怒鳴られると同時に腹を蹴られる。半年前にお父様から受けた『衝撃』の固有魔法に比べれば対したことないただの蹴りだが、教室の全員から嘲笑や侮蔑の視線を向けられながら何度も蹴られるのは、心も痛い。


「固有魔法も使えない無能が、調子に乗るんじゃねぇって言ったよな!?」

『大した金も稼げない癖に口答えするなって言ったわよね!?』

「お前は大人しく、俺らの玩具になってればいいんだよ!」

『あんたは黙って金を渡しなさいよ!』


 脳裏に、前世の母親の声が響く。

 酒ばかり飲んで、ギャンブル中毒で、碌な食事も与えてくれないロクデナシの声と、ルドラの声が重なる。


「死ね!」

『死ね!』

「あはははは! やめてやれよルドラぁ」

「ぎゃはははは!」


 誰もが俺のことを無能だと笑っている。

 誰も俺のことなど助けてくれない。

 こんな世界は間違っていると、叫ぶような力も意思も俺には存在しない。


「……くたばれ」

「あぁ!?」

「こんなふざけた世界ごと……くたばっちまえ」

「てめぇ……ぶっ殺す!」


 世界は俺に優しくない。

 それは世界が変わってもそうだ。


 俺の物言いにブチ切れているルドラが、固有魔法を発動させた。

 彼の持つ固有魔法は『風の刃』と名付けられた。性格まんまの黒い風を発生させ、その風によって生まれた刃で相手を切り裂く、単純で明快な固有魔法。故に強い。


「死にやがれ!」


 顔を真っ赤にして固有魔法を放つその姿が、やけにはっきりと見えた。

 同時に、彼の放とうとしている『風の刃』が、酷く簡単な魔法に見えた。

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