第3話 手紙を貰いました
「お坊ちゃま、これを」
「……手紙? なんだこれ?」
無気力に天井を見つめる俺を見かねたのか、アーノルドが手紙を持ってきた。かなり質のいい紙で書かれているのか、手触りがとてもよかった。
「貴方の母……メリスナ様から預かっていたものです」
「お母様から? なんで今更……」
お母様が死んだのはもう10年も前の話だ。今更、故人から手紙など貰ったところでなんの価値があるというのか。
やさぐれた気持ちのままアーノルドから促されるまま手紙を開く。とても綺麗に整えられた字で綴られている手紙を、目で追っていた。
「……お母様は、帝国の出身だったのか?」
「はい。そして、貴方様が15になって家に居場所がなかった時、帝国魔法学園に入学できるように、とメリスナ様から預かっていました」
王国の子爵家に嫁いだお母様が帝国の出身であるということに驚いたが、何故お母様は、家の中に居場所がなくなることに気が付いていたのだろうか。
「メリスナ様は、お坊ちゃまが固有魔法が覚醒していないことを知っていました」
「固有魔法……覚醒していない?」
「はい。お坊ちゃまには覚醒していないだけで、固有魔法が存在するのです」
絶句、と表現することしかできない。固有魔法がないから廃嫡された人間に、固有魔法が存在するというのはどういう冗談だろうか。
「信じられないのも無理はありません。しかし、お坊ちゃまには確かに才能があるのです……それを発揮できる場所が、帝国魔法学園だとメリスナ様は考えられたのです」
「……才能、か」
「帝国魔法学園に入学すれば、お坊ちゃまは自らの魔力の使い方を知り、必ずや固有魔法をものにすることができるはずです」
あるのなら覚醒してほしい。そうでなければ、愛を持って帝国魔法学園へと入学できるようにしてくれたお母様に、合わせる顔がなくなってしまう。
「わかった。俺はもう一度自分の才能を信じてみるよ」
「ありがとうございます。メリスナ様、ようやくライトお坊ちゃまにお渡しできました……」
涙を流すアーノルドに大袈裟だなと思いながら、自らの身体の内に渦巻く魔力へと意識を向ける。
固有魔法が存在するのならば、俺はまだ生きていける。この世界は実力主義社会なのだ。どんな過去を持っていようが、力さえあればなんとかなる。
お母様が、アーノルドが信じてくれた自分を、もう一度だけ信じてみようと思った。
ここから先、地獄が待ち受けているとも知らずに、なにも考えていない俺はまた歩き始めるのだった。
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