20××年、6月7日 01


「……!」


 次の瞬間、晴喜は飛び起きるように体を起こす。

 それと同時、目の前にアクアの姿を発見したので、目を見開きながら目の前の少年に視線を向ける。

「えっと……おはようございます、はるくん」

「……ああ、おはよう、アクア」

 とりあえず、アクアに挨拶をした晴喜はゆっくりと眠気を感じながら、体を伸ばす、そのまま立ち上がる。

 少し心配そうなアクアの表情に気が付きながらも、不安そうな顔をしている彼の頭を優しく撫でながら、晴喜は着替えるためにクローゼットから制服のシャツを取り出す。

 白いシャツを脱ぎ、制服に袖を通しながら時間を見てみると、ちょうど八時になったという事を理解した。

「うぉ、見事に三時間も寝てねぇや……眠ィ……」

「……眠んですか、はるくん?」

「ああ。眠い……まぁ、俺元々夜行性だから、夜に目が覚めるタイプなんだわ…・…まぁ、寝れない理由もあるけどな」

「……?」

 晴喜はそのように良いながら、笑った後、近くに置いてある鏡に視線を向けた。

 ちょうど自分の胸に視線を向けながら、晴喜は右胸の方に手を置いて、静かに心臓が動いているのを感じながら。

「……生きてる、な。今日も」

 ――生きている、それがルルの願いの一つでもあった。

 ルルは死ぬ前に、晴喜に対して生きてほしいという願いを行いながら、自分の身を犠牲にして吸血鬼にした。

 それと同時に、晴喜はあの夢を見てしまった。

 ルルを守るために、友達を信じ、家族を裏切ったあの時の記憶。

 あの記憶は時々呪いのように夢の中に出てきて、まるで悪夢のようで、自分の胸を抉るための攻撃のように、襲ってくる。

 ルルの泣き叫ぶ姿、兄の真桜が手を伸ばし、自分を助けようとする姿、そしてそんな中で一人、うっすらと笑みを見せながら血まみれの右手を見せてくる、一人の少年。

「……あれから、一年か」

 思い出すだけで悪夢だと認識しながら、晴喜は制服を着た後、部屋を出る。

 アクアはその後をついていくかのように後ろから追いかけてきた。

「さて、朝食……アクア、お前何か食べるか?」

「いちじかんまえ、におきました。そのとき、れいぞうこ、のなかにあった、よーぐるととくだもののりんごを、たべました」

「おお、結構食べてるな」

「でも、きっとはるくんのちのほうが、おいしいと、おもいます」

「……反応に困るぞそれ。俺はお前の食糧じゃないからな?それと血を飲みたくなかったら、これを飲めって前から教えてるだろ?」

「……まずい、から」

「好き嫌いはいけねーぞ、アクア」

 晴喜は制服のポケットに予備として入っていた『血液錠剤タブレット』を見せるが、アクアは不安そうな顔をしつつ、静かにそのように答えるのでため息を吐きながら返事を返した。

 確かに生き血の方がおいしいかもしれないが、この世界ではそのように言ってられない。

 だからとて、自分の血の方がおいしいと言われても、嬉しくもないし教育が間違っているとしか考えられないため、もう一度『血液錠剤タブレット』を見せながら話を続ける。

「人を襲って生き血を吸っちまえば、明菜ちゃんに粛清されたって文句は言えねェ……生きたいなら、まずこれを飲んで渇きを抑える事だ」

「……わか、りました」

「うん、わかっていただければ、よろしい」

 再度頭を優しく撫でた後、晴喜は水を一杯、その中に『血液錠剤タブレット』を入れて一気に飲み続け、飲み終わった後冷蔵庫の中にあった林檎を一つ取り出し、齧るように口の中に入れる。

 そして、アクアが食べそうなものを簡単に確認し、大丈夫だと認識した後、冷蔵庫を閉めた。

「お昼、お前が食べれそうなやつはタッパーの中に昨日入れてあるから、それを電子レンジで温めて食べろ」

「はい」

「俺はこれから学校に行って、その後帰りにスーパーに行くから、いつもより遅くなる。もし、何かあれば連絡を……この前明菜ちゃんから携帯もらったよな?」

「はい、もらいました」

「うし、大丈夫だな」

 アクアを引き取ると断言した次の日に明菜が携帯電話と『血液錠剤タブレット』、その他色々用意してきてくれたので、ありがたくもらっておくことにした。

 特に携帯は何かあれば連絡が取れるように、最後までアクアに明菜が教えてくれたことに感謝しかない。

 左耳にピアスがちゃんとしてあることを確認した後、アクアは玄関に向かい、その後を再度アクアがついていく。

 玄関に靴を取り出し、履きながら、アクアに声をかける。

「じゃあ行ってくるけど、何かあれば連絡しろよ?」

「はい」

「それじゃ――」

「はるくん」

 背を向けて出ていこうとした時に、アクアが声をかけてきたので振り向いてみると、少し恥ずかしそうにしながら、アクアは答えた。


「……いってらっしゃい、学校頑張ってね」


「…………お、おう」

 少し笑いながら、それでも恥ずかしそうな顔をしているアクアの姿を見て、晴喜はその場で立ち止まってしまったが、軽く手を振ってくるアクアに少しだけ胸が打たれそうになりながら引きつった顔をしながら玄関の扉を閉める。

 閉めたと同時、晴喜は強く胸を抑えるようにしながら、ため息を吐く。

「……不意打ちすぎだろ、おい」

 これは絶対にいただけないやつだ――と感じながら、晴喜は胸を抑えながらそのままマンションを出ていった。

 学校に登校するために。

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