第2章 灼熱の魔術師
20××年、6月7日 00
――はぁ、はぁ……ッ
「る、ルルッ!!」
晴喜は、真っ赤な炎の中を駆け抜けながら、大切な友人の名を呼び、炎の中から見つけた彼女に急いで声をかける。
彼女の声に気づいたルルは振り向くと、彼女の身体中には返り血のようなものがついており、そして笑っていたのだ。
しかし、その笑いは悲しげに笑っており、晴喜は全てを悟る。
急いで晴喜は腕を掴み、彼女を引っ張る。
「逃げようルル!私が絶対に逃がすから!」
「……いいの、もういいんだよ晴喜……わかってたの。逃げられないって……晴喜のそばに、これ以上いられないって、わかっていたはずなのに……居心地がよくて、晴喜が優しくて……」
「私だって、ルルの事好きだ!初めてできた友達だから!あいつら、炎使って逃がさないようにしてる……けど、私が絶対に逃がすから!」
「そ、そんな事したら晴喜が……だって、彼らは晴喜の家族……」
「あんなの家族じゃない!友達を傷つける奴らなんか、家族でもなんでもないし、そもそも、私嫌われてたからね、あいつらに」
笑いながら答える晴喜に、ルルの表情が変わる。
ルルの手を強く握りしめながら、まずはこの炎から抜け出さなければならないと、道を作らなければいけない。
自分の中にたまっている魔力でありったけの炎を全身に纏うようにしながら、晴喜はルルの手を強く握りしめ、息を吐く。
――絶対に、ここから抜け出してみせる。
晴喜とルルの周りにある炎は、彼女の一族が放った魔術だ。
家族すらも敵に周ってしまったことに嫌気を覚えながら、晴喜はルルと一緒に一歩前に出ようとした時、突如ルルが声をかける。
「晴喜」
「何、ルル?」
「……晴喜、お願い。私の力を受け取って……『契約』してほしい」
「……え?」
突然ルルは、自分に対して何を言っているのだろうと思いながら視線を向けると、彼女の両目には静かに涙が零れ落ちている。
ルルのては相変わらず冷たく、人の体温ではない――彼女が『化け物』だという証だった。
そしてそれと同時に、彼女はこれから自分に起こる事が分かっているかのように、笑っていたのだ。
晴喜は唾を飲み込み、問いかける。
「……ルル、もし、『契約』してしまったら、ルルはどうなるの?」
「……終わる。長かった、『生』と言うものがおわり、私は全てから解放される……もう、苦しまなくていいんだって思うと、とても気が楽になる。けどね……」
一度言葉を飲み込むようにしながら止まり、ルルはそのまま晴喜を優しく抱きしめる。
手が、体が、強く震えながらも、ルルの瞳から涙が静かに零れ落ち、悲しげな表情を見せている。
「一つだけ、後悔している事があるの……私、二度と、二度と……晴喜と会えなくなってしまう……ッ、でも、私は死なないと、きっと、晴喜までもが居なくなってしまうから……」
涙を流し、後悔しているような言葉で晴喜に訴えている。
晴喜だって、同じだ。
ルルが死んでしまったら、きっと晴喜自身、壊れてしまうのかもしれない。
晴喜はルル以外、友達もいない。
家族すら、嫌悪されているのに、また、たった一人ぼっちになってしまうと思うと、それが辛くてたまらない。
この手を、この体を、話したくない。
「嫌だ、そんなの嫌だ……ルル、逃げよう……私、弱いけど、絶対に守るから……」
「どこに逃げると言うのだ、はる」
聞き覚えのある声が、晴喜の耳に響いている。
振り向き、ルルを庇うように前に出ると、そこには真っ赤な髪をした一人の男性が姿を見せる。
晴喜にとって、一番恐怖している人物――なぜ、彼がここに現れるのか、晴喜には理解出来ない。
晴喜の事を、『はる』と呼ぶのは、ただ一人だ。
「……
赤い長髪の髪、漆黒の瞳、全身を黒い服装で纏っている、
晴喜の兄であり、緋炎家では最強と言われる炎の魔術師が目の前に立ち、しっかりと睨みつけるように晴喜の前に立つ。
息をのみながら、晴喜は目の前の男、真桜を睨みつける。
「どうして、真桜兄さんが出てくるわけ……」
「……妹を誑かした吸血鬼が真祖だとなると、俺が出てこないわけにはいかないだろう。諦めろはる、その吸血鬼を捨てて、俺の所に戻ってこい。今ならまだ奴らを説得してやる」
「嫌だ!真桜兄さんは感謝しているけど、私は家族よりルルを選んだ!だから、私はもう二度と、そっちには戻らない!」
「晴喜……」
「……はる、そこまで堕ちたか」
鋭い瞳に殺気が強くこもっている。
だが、それを向けられているのは晴喜ではなく、晴喜の後ろにいるルル・ウィングだ。
真桜にとって、そして真桜たちの一族にとって、吸血鬼と言う『怪物』は排除する存在だ。
そんな一族の一人が吸血鬼に誑かされたなど、真桜にとっては許されない行為。
晴喜はありったけの魔力をぶつける為、ルルを守るために最強と言われている兄に立ち向かう。
目の前の男を倒さなければ、逃げ出せないからだ。
「晴喜、もう良い、良いから……」
「だめ、絶対に、ルルは私が――」
「――貧弱なたかがの人間が、守れると本気で思っているのか?」
兄の声ではない、別の声。
瞬間、晴喜の身体に無数の痛みと、胸が何かを貫き。
次に見えたのは、真桜の驚いた顔と、泣き叫ぶルルの姿。
「いやぁああああぁああッ!」
ルルの悲鳴が聞こえ、真桜の伸ばされた手が移り、最後に。
静かに笑う、一人の少年がこちらを見ていた。
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