20××年、4月5日 02
「……お前、本当にバカだよな晴喜」
「本当にバカだよね、はるくんって」
「……」
二人の友人の言葉に、晴喜は全く返す言葉が出ない。
彼らの言う通り、晴喜はバカで勉強が嫌いなだけの生活を送っている毎日なのだ。
晴喜の教室の机には大量に置かれている数学のプリントが目に付く。
先ほど、安藤明菜教師が晴喜の為に用意し、置いていったプリントでもあり、『これをやって反省しろボケェ』という言葉を置き土産として残してくれた。
めんどくさがりの晴喜にとって、苦痛である。
プリントを静かに何回か見つめた後、机に再度置く。
「無理、絶対に出来るわけねーじゃんこんな量。明菜ちゃんは俺に死ねって言ってるのかな?」
「自業自得でしょうはるくん?はるくんは学校に何しに来ているのかな?」
「…………寝るため?」
「本当にお前、バカとしか言いようがないぞ、晴喜」
友人の一人、
「はるくんはやっぱり面白いよね!知ってるはるくん?結構人気あるんだよ?隠れファンがたくさんいて……もちろん、私もはるくんのファンの一人だからね!」
「……いや、別にいいし」
頬をかくようにしながらため息を吐いていたその時、机の上に置いてあったプリントを一枚、手を伸ばす男の姿があった。
黒い眼鏡をかけた黒髪の青年、
彼も晴喜の友人の一人でもある。
プリントを一枚手に取った後、海は何も言わず隣の席に座り、筆箱をカバンから取り出し、シャープペンシルを用意し、プリントに書き始める。
「お、おい、黒雪……」
「早く終わらせたいのだろう?手伝ってやるからさっさとやれこのど阿呆」
「……」
「フフ……黒雪君ははるくんの事大好きだもんね!じゃあ私もお手伝いしてあげる!」
「仕方ない……友人を見捨てるわけにはいかないからな。ささっとやって終わった後は遊びに行こうぜ!」
「…………」
四郎も美智子も一枚ずつプリントを持ち、自分の席についた後、プリントの問題を解き始める。
手伝ってくれとも言わなかったのに、彼らは積極的に晴喜の手伝いを行ってくれた。
言葉が出ず、何も言えない。
同時に、ここから動けなくなってしまったのだ。
実はプリントなどしないでそのまま帰ってやろうかと思っていた晴喜だったが、友人たちが予想外の動きをしたので、静かにため息を再度吐く。
(……流石に帰れないよな、これじゃあ)
そう思いながら、先ほどのプリントに視線を戻し、一枚手に取った後、あまり開けることのない筆記用具の中にある鉛筆を取り出し、問題を書き始める。
問題文を解き始めているとちゅ、ふと隣に座って同じように問題文を解き始めている友人、黒雪海に視線を向ける。
(そういえば、黒雪って何考えているかわかんねー男だもんなぁ……)
そもそも、どうしてこうして話すようになってしまったのか、こうして友人と言う存在になってしまったんか、晴喜は思い出せない。
いつの間にか彼は、晴喜の隣に居たからである。
(そう、いつの間にか……)
手の動きを止め、晴喜は思い出す。
あの日の光景。
あの日の残像。
あの日の――惨劇を。
(俺は、これからも絶対に、忘れることはない)
晴喜が晴喜でなくなってしまった、『あの時』から。
晴喜は。『人』でいられなくなってしまった時から。
もう二度と、『人間』になれないという現実をつき付けられたとしても。
(この『運命』を受けら入れたのは、俺……私だしな)
――じゃあ、『
晴喜はこれからも、大切な友人の為に生き続けなければいけないのだから。
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