武器を手に入れ、いざダンジョンへ

 たぬきたに案内されたバックヤードは棚が敷き詰められており、ガラス戸のなかには素人目にも質の良さそうな武器が飾られていた。


「これ全部がダンジョン産武器?」

「全部ではないけど、半分くらいはダンジョン産だなも。確かこのあたりにしまったような━━あー、あっただなも。これだなも」


 たぬきたは奥の戸棚を開く。

 厳重に施錠された黒い金属の箱が出てくる。

 たぬきたは慎重に蓋を開いた。箱のなかから、眩い輝きをもつ見事な”扇子”が出てくる。殿様が口元を隠しているあれだ。


「これがとっておきの武器ですか」

「ボクが持っている中でブッチぎりで品質が高いものだなも」

 

 どれ。ちょっと触らせてもらって詳細を見ようか。


━━━━━━━━━━━━━━━━

『濃霧の扇子』

 品質★★★★★★★

 基礎攻撃力 物理 刺突 0

          斬撃 0

          打撃 0

 耐久力 100,000/ 100,000


 補正値

 防御 −B 筋力 −B 技量 −B

 知力 −B 抵抗 −B 敏捷 S

 神秘 −B 精神 −B

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「な、なんだこれは、基礎攻撃力0って……それにどういう補正値なんだ」

「この武器は特殊ななかでも特に特殊だなも。敏捷ステータス補正が非常に高い代わりに、それ以外のステータスで武器の攻撃力が下がるだなも」

「つまり敏捷ステータスが高くて、他のステータスがクソ低い……個性的なステータスの持ち主だけが扱えると?」

「そんな変態はなかなか見つからないだなも」


 ここにひとりいます!


「この扇子は君を待っていたようだなも。これも何かの巡り合わせ。運命だなも」

「それじゃあ、もしかしてただで譲ってくるとか親切心を見せてくたり」

「赤谷がビッグな男になることを見込んで1億で売っておくだなも。支払いは後日で構わないだなも」

「冗談だよな? 1億なんて……俺が死ぬまでダンジョン潜って返済できるがどうか……というか、武器ひとつにそんな高値がつくのか?」

「先日オークションで過去最高値7,300億で異常物質の武装が取引されていたのを知らないだなも?」

「人類を滅ぼすスイッチか何かかよ」

「遠からず、と言ったところだなも。まあ超大型ギルドの出品だったし、国家と財団が関与していたから特殊な事例だけど……とにかく、1億でこれほどのダンジョン産武器を手に入れられるのはお買い得だなも」


 なんか騙されている気がしないでもない。

 だが、この変態的な武器は俺のためにあるようなもの。

 感じる。武器が語りかけてくるのだ『俺を手にとれ、赤宮』と。


「キャッシュはない。出世払いと言うことでひとつ頼む」

「では、契約書と契約を破棄された場合の保証人の連絡先を聞いておくだなも」

「ちゃんとしてて怖いな……」


 軽く試用したのち、俺は購入を真に決意した。

 たぬきたと契約を結び、晴れて『濃霧の扇子』は俺のものとなった。

 店をあとにし、お雪とダンジョンへ潜ることにした。


 潜るダンジョンは決まっている。

 実はダンジョンビレッジにはダンジョンは1つしかない。

 唯一のダンジョンの名は『黒覆いのダンジョン』と呼ばれており、複数のダンジョンが融合し、溶け合わさり、さまざまな地形やモンスターが生息するやばい異次元空間ができ上がっているのだ。

 なのでアタックするダンジョンは『黒覆いのダンジョン』以外に、そもそも選ぶ余地がなく、俺たち探索者が選ぶ余地があるのは”ダンジョンの入り口”である。


 入り口によって難易度が変わる。

 『黒覆いのダンジョン』のどこの区画にいけるのかが変わるためだ。

 

 今回は比較的優しいとされているルーキーたち向けのゲートから入ることにする。

 

 ただ、ダンジョンゲートはすぐに入れるものではない、

 順番待ちなのもそうだが、何より手続きが必要だ。

 ダンジョンビレッジでは『ハウス』と呼ばれる組織がダンジョンを建前上管理している。こいつら『ハウス』はヤクザのようなものだ。『ハウス』は縄張り内でダンジョンが出現すれば、その入り口に陣取って、ダンジョンに挑む探索者たちから仲介料を持っていくのだ。


 ダンジョンに入る手順は以下の通りだ。


 ①その地区を治めるハウスで受付

 ②入場料を納めてダンジョン内へ

 ③退場料を納めてダンジョン外へ


 まあクソだ。入場料はまだわかるけど、退場料ってなんだよって感じだ。

 システムが出来上がって時間が経っているため、割と洗練はされていて、用紙とか用意されてるし、受付での人の列の流れとか誘導も手慣れている。

 

 ハウスのルールに逆らうと、袋叩きにされて追い出される。

 たぶんその縄張りに近寄ることすら許されない。

 最悪は……まあ普通に息の根くらいは止めるだろう。


 無法の中での法。それが最悪の統治者”ハウス”たちだ。

 そんな無法の王様気取りヤクザが6つも派閥を持って、しのぎを削ってダンジョンビレッジでの覇権を争っているというのだからたまらない。このハウスたちのせいで無法地帯はさらなる混沌を極めているのだ。

 

「ひゃっはっは、たまらねえな、実際にダンジョンに入らなくてゲート見張ってるだけで湯水のように儲かりやがる、ダンジョンビレッジ最高だぜ」


 受付の奥でひそひそハウスの連中が話しながら白い粉を吸っている。

 

「秩序を作っているふりをしながら混沌を撒き散らす……そればかりか、自分達はリスクを冒さず、他人に稼がせる。コソコソと卑しいハウスのやつらめ」

「悪い人たちですね。男子たるもの堂々と戦い、堂々と胸を張って身を立てるべきです。そうですよね、赤宮さん。……赤宮さん?」


 

 ━━お雪の視点



 ダンジョンゲートまで残り15m。あと30秒ほどもすれば待機列は進んで、私たちの入場の番が来るというのに、赤宮さんは姿を消していました。足元にはいつものように脱ぎ捨てられた服が。あーまた!(察し)

 

「う、うわああああ!!!」

「変態が出たぞおおおおおー!!!」


 見なくてもわかります。全裸です。絶対に全裸です。

 振り向きますよ……はい全裸っ!


「以前からこのハウスという仕組みが気に入らなかった。他人に働かせ、自分達は甘い蜜を啜る。笑止千万、悪党制裁」

「て、てめえは何者だ!」

「━━お狐全裸、ただいま参上」


 わたしの主人がすぐ脱ぐことに羞恥心を感じずにはいられませんが……悪党にたちむかうその姿はまさしく誇るべき英雄の背中です! 

 頑張れ、お狐全裸……っ! 負けるな、お狐全裸……っ!

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