覚醒する才能
お雪には俺が選ばれし者かどうかを確かめるアテがあるらしい。
どこにいくのかは皆目見当がつかない。世間では才能ある者のもとにはダンジョン財団から黒い封筒が届き、それによっていわゆる”選ばれし者”は自分が特別な存在なのだと自覚するんだとか。それも噂レベルでしかないので、実際に黒い封筒なんてものが存在するのか定かではな。そもそも、ダンジョン財団はどうやってその人間にダンジョン探索者の適性があるかどうかを調べている。すべては未知のままである。
少なくとも、今年で23歳になった俺のもとにはまだ黒い封筒は届いていない。どれくらいの年齢の人間に届いているとかは詳しく知らないので、なんとも言えないが、封筒をもらってない以上、俺は特別な才能とやらをもっていない可能性が高いだろう。
そうと知っているので、正直、今回のお雪の提案は徒労に終わる可能性が高いことを俺は承知している。狐であるお雪は人間社会のことに馴染みがないだろうから、もしかしたらダンジョン財団にまつわる有名な黒い封筒の噂を聞いたことがないのかもしれない。だから、徒労に終わろうとも、彼女が納得してくれるのならば、審査でも、検査でも、アンケートでも、受けようと思っている。
ゆさゆさ揺れる白い尻尾と、巫女装束に包まれた華奢な背中についていく。
「着きました。ここです」
「一瞬だったな。というか家の裏だが」
どこへいくかと思えば、裏手の山が目的地だったのか。
「ダンジョン財団の施設とかに行って検査してもらうとかじゃないのか」
「わたしはダンジョン財団というものについて明るくありませんので、オリジナルの方法で」
「オリジナル?」
「お狐なので特別な力があるのです」
「お狐だから特別ってあたりの理論はガバガバな気がするが、人間に化けたりしてるし、否定はできないな」
「お稲荷神が祀られたお社の近くならば、わたしの仙力は強化され、赤宮さんの眠れる潜在能力を覚醒させることができます」
お雪と一緒に裏手の山へ入り、獣道を歩くことしばらく。人間の気配などまるで感じられない野生の世界に、ぽつんっと小さな祠があるのを発見した。赤い小さな鳥居をもつ、人に忘れられて久しい祠だ。朽ちて荒れてしまうだろうが、奇妙にも小綺麗に手入れされている。
「わたしが日頃手入れをしているのです」
「お雪はまめなんだな」
「いえいえ、これも狐の仕事ですから。ささ、そこに座ってください」
祠のそばの石垣に腰を下ろす。
お雪は向かいに腰を下ろし、目を瞑る。
「フォックスマジック!」
言って、キリッと手を向けてくる。
フォックスマジックか……まさかの横文字。だが、なにも言うまい。赤宮としては、もっと仙術とか、陰陽術みたいなの期待してましたけど。ええ。
「どうだ。何か俺の力は目覚めそうか」
「フォックスマジックは気合いを入れるおまじないです。特に意味はないです」
「あ、そう……」
「ここから潜在能力を解放させまする。はぁ……仙法・
お雪の体から白いオーラが溢れ、一瞬、眩く輝いた。同時に白く細い彼女の手が俺の胸を思いきり押してくる。ほとんど突き飛ばす勢いだ。小柄な少女の力とは思えない衝撃波に押され、俺は獣道をゴロゴロと転がった。
「い、いでえ……殺す気か……っ」
「潜在能力の解放は荒療治ですからね。多少、乱暴になることは避けられません。なにせ本来は時間をかけてゆっくりと覚醒へ至る才能を、無理やりにこじ開けるのですから」
「ん? なんだこの感覚……」
全身の毛穴が開いたような奇妙な感覚がある。
なんだろう。老廃物がすべて抜け出ていくというか、詰まっていたものが開通し、風通しが良くなったような。身体の風通しというのも訳がわからないが、とにかく感じたことのない解放感がある。
「このお雪をもしや、ただの可愛い狐とお思いですか。のんのんのん。それは間違いでございます。このお雪はわかっていたのです、赤宮さんに眠る特別な力の正体に。だからこそダンジョンを恩返しの品として贈ったのでございます」
「この解放感……もしかして、俺には特別な才能が?」
「今ならばステータスを確認できるかと」
俺は未だかつて感じたことのない高揚感に包まれていた。体が熱い。心臓がバクバク言っている。今朝まで朽ちて終わるだけだった燃え尽きた炭のような俺は、いま赤々と燃える火を手に入れたのだ。
運命が動き出す音が聞こえた気がした。なんの取り柄もない俺の人生は、ようやく変わり出したんだのかもしれない。お雪との出会いはまさしく運命だったんだ。
興奮のままに自分のステータスを確認する。
────────────────────
【祝福状況】
赤宮禅
段階:零
体力 十/十
魔力 十/十
防御 零
筋力 零
技量 零
知力 零
抵抗 零
敏捷 零
神秘 零
精神 零
【特殊技能】
無し
────────────────────
「うええええ!? す、す、すげええええ!!」
うおおおおお、涙が、涙が出てきた……っ。
俺に、俺に、こんな立派な……祝福状況……? まあいい、とにかくすごい力が……! 空間に、半透明の光が出現してる、特別な力だ、俺の、俺の、初めての特別……っ! 圧倒的スペシャル……っ!
これまでの平凡すぎる人生では考えられない。感動と興奮、とうに失ったと思っていた未来への期待と希望、嬉しさは限界突破し、1秒ごとにうつ病が治っていくのを感じた。
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