第39話 デートの続き

 スイーツバイキングを堪能して次にショッピングモールへ向う。


 男性物のアパレル、女性用のアパレル、アクセサリーショップなどが立ち並ぶフロアにやって来た。


「紫都香さんは男の人が着る服でこういう服着てる人好きだなって思うものとかありますか、例えばニットとか、ジーンズとか……」


「あんまり気にしないかな……。わたしは何を誰が着るのかじゃなくて誰が何を着るかだと思ってるから」



 男性物のアパレル店に入って紫都香さんに服を選んでもらう。


 紫都香さんは服を手に取ると俺が服を着たらどんな風になるかをイメージする為に俺の前に服を提げて照らし合わせる。


「どうですか、似合ってますかね……」


 紫都香さんは何度か服を替えながら照らし合わせる。


「この服とあとこの帽子を合わせたら……うん! 凄い良い感じ。一度このジャケットも羽織ってみて」


 紫都香さんは手に持っていた服を戻してデニムのジャケットを俺に手渡すとバケットハットを頭に被せてくる。


「うん! 良いね。鏡で自分でも見てみて」


 紫都香さんに鏡を見てみてと言われたので普段帽子を被らない俺はイメージができないまますぐ側にあった縦鏡を見る。


「自分ではどれくらい合ってるのか分からないんですけど、良いですかね」


「わたしは好きだよ」


 恥じらいもなしに真面目な顔をして紫都香さんはそう言ってくれる。


「じゃあ、これ、買ってますね」


「いいよ、わたしが選んだ服なんだし。これくらいわたしに奢らせてよ。悠くんはここで待っててね」


 紫都香さんは俺の来ていたジャケットと一度棚に戻した服、そして帽子を手に持って会計の方へ行ってしまった。


 帰って来た紫都香さんにお礼を言って服の入った紙袋を貰った。


 アパレル店を出て近くにあるアクセサリーショップにふらっと入ることにした。


 紫都香さんは俺が入りたいと言ったら驚いていたが付いて来てくれる。


 俺がここに入りたいと言った理由は紫都香さんに聞きたいことがあったからだ。


「紫都香さんってアクセサリーを贈られるとしたら何が一番嬉しいですか」


 まるで誰かに何かを贈るかのような質問をぶつける。


「わたし、昔から大切な人に貰ったものはずっと身に付けていたいって思ってるの。だから肌身離さず身につけられるものがいいな」


 ずっと身につけられるもの? 一応全部付け続けられるのではないだろうか……。


「たとえばネックレスだったら首元が少し邪魔になっちゃう時があるかもしれないし、イヤリングだとふとした時に取れちゃってなくなったらもう戻ってこないかもしれないし……」


 そういうこともあるのか、じゃあ残すは……。


「だから、指輪……かな」


 なるほど、紫都香さんは指輪が贈られて一番嬉しいものなのか。


 結局買うことはなかったが、少しだけアクセサリーを見てお店を出た。


 次にやって来たのはペットショップ。ここへは来ようと話したわけではなくショッピングセンター内を歩いていて目に入ったから入ることになった。


「紫都香さんはもし買うなら犬と猫、どっちがいいですか」


「わたしは断然犬派だなぁ……。昔は両方とも好きだったんだけど、一人になった時からお散歩で飼い主さんと戯れている所を見るとどうしても羨ましくなって……。それ以来甘えてくれる、引っ付いてくれる犬の方が好きになったな。だから買うなら犬だと思う」


「犬が居るだけで寂しくなりますからね」


「で、でも今は悠くんが側に居てくれるからわたしは満たされてるんだよ!」


 ずっと離していた腕がまた近づき、組まれる。


「紫都香さんの心が少しでも俺で満たされているのなら俺も嬉しいです」


 流石に家でするような抱き合いをここでするわけにもいかず、腕だけを組んで犬を見る。


 まるで新婚の夫婦が新たな家族を迎えるかのような構図だと思った。


「犬種はどの犬種が一番好きですか? やっぱり甘えてくるヨークシャテリアとかトイプードルですか?」


「トイプードルかな、長生きもしてくれると思うから」


 将来買いたいね、なんて話をしながらお店を出る。



「紫都香さん。あれしましょう」


 俺と紫都香さんはショッピングセンター内を歩き続けてゲームセンターに来ていた。


 俺が指差す先にあるのはエアホッケーの台。


「よし! わたしが勝ったら一つ言うことを聞いてもらうよ」


「今日は勝ちます」




「やった!!」


「紫都香さん強いです」


 点数による可視化されている指標とはかけ離れており、プレーでは圧倒され続けて終わった。


「悠くんとプリクラを撮ってみたかったんだ。もう学生でもないこの歳で入るのは勇気がいるけど、悠くんと撮ってみたいなって思って」


「じゃあ、行きましょう!」


 俺は紫都香さんを引っ張りプリクラ機の中に入る。


 目の前にある画面で出てくる写真のフレームなんかを選んだり、一緒に来る人との関係なども機械に聞かれた。


「どうします? この質問」


 俺は紫都香さんとまだ付き合っていない認識であるが、紫都香さんがどう思っているかを聞いたのは今が初めてだ。


「そうだなぁ、この一緒に住んでるって項目が合ってるんじゃないかな、恋人って項目にも友だちって項目にも当てはまらない気がするから……」


『一緒に住んでる』なんて項目がある理由は分からないが正直これ以外の関係ではない気がしたので『一緒に住んでる』という項目を選択した。


 すると画面には『写真を撮る前に入る掛け声に合わせてポーズをとってね』と表示される。


 俺と紫都香さんは戸惑いながらも掛け声に構える。


『手を握って』


「え?」

「えぇ?」



『腕を組んで』


「んん?!」

「(むぎゅ)」



『抱き合って』


「(ギュッ)」

「あっ」



『最後は自由に』


「え、えっとー、どうしますか」

「えいっ」



 その後は他人に見せられない写真が含まれるほどハートが埋め尽くされた写真が機械から出て来た。


 プリクラってこんな要求までしてくるのかよ……。



 その後、気を取り直して本屋でお互いの好きな小説を一つづつ選んで互いにプレゼントするということをして家路に就いた。


「今日もありがとう。悠くん」


「こちらこそ服まで奢ってもらって……。スイーツバイキングも楽しかったです」


「予約してくれてありがとう」





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