第40話 バイト2日目でクレーマー対応
バイト2日目が始まった。
今日は二日目という事もあり初日の時とは違い、自分でやることが増えそうだ。
「今日はこの前教えた内容をやってくれればいいから。分からない事があったら聞いてくれればいいし、今日も頑張ろう!」
星さんは俺に聞きやすい状況を作ろうとしてくれている。
「ありがとうございます」
仕事はなんとか周りのバイトさんや星さんに聞くことで順調に進めることが出来ていた。
俺が休憩から戻り、バイト作業を再開してると奥の方のテーブル席で大きな音がした。
俺はバイト二日目の分際でありながら野次馬の如く、その現場となるであろう卓に向かう。
「――申し訳ございません。すぐに出来立てのお皿をお持ちしますから」
そこでは星さんがお客さんに平謝りしていた。星さんは謝った後、未だ一口も付けられていない料理の乗ったお皿をトレーに乗せて厨房の方へ戻って来る。
「星さん、どうしたんですか」
星さんはお客さんの前では取り繕った顔を見せていたがこちらへ戻って来る表情は冷たく、明らかに苛立っている様子だった。
「ずっとスマホを触ってたくせに料理が冷めて出されたからもう一回出せって」
「それもお客の言う事を聞かなきゃいけないんですね……」
「あ、言うの忘れてたっけ? クレーマーの対応について。こっちも言い返したい気持ちはあるんだけどね、やっぱりお客様だから我慢しないといけないんだよね……。そうしないと店自体にクレームが来ちゃうから堪えないと。悠も頑張って」
俺にも声を掛けて厨房へ入って行ってしまった。
星は同い年にも拘わらず頼りになる存在だなと思いながら俺もバイトとしてやるべき作業に戻った。
飲食店でバイトをしたことがなかった俺はその料理の行方がどうなるのか疑問に思ってしまったのでつい聞きそうになった。
しかし、流石に一度提供された食べ物をどうこうするとは思えないので、俺のせいで仕事を増やさせないためにも自己完結させた。
俺はさっきまで客が使っていたテーブル席を拭いたり、卓上の上のドレッシングやらソースやらの中身を確認したり、スープの残りなんかも見て回った。
他に出来る仕事が無いかなども見回ることで確認した。
自分に出来る精一杯の仕事をこなしつつ周りの人たちが行っている業務を見ていると自分にも出来るのかと不安になってしまう。
人の波も少しは収まり、入退店のラッシュがようやく終わった事で少しは肩の荷が下りた。
俺は次にすることは無いかと探しているとさっきトラブルがあった奥の席で再度、大きな音がした。
さっき星さんがそっちに向かっていったのが見えたので追いかけるように向かう。
「――これはどういうことや!!!」
大きな怒鳴りつける声が聞える。
「も、申し訳ございません。……ですが先ほど忠告させていただきました。したがってこちらの商品の取り換えなどは受け付けることは致しかねます」
星さんは頭を下げつつマニュアル通りに接客しているのだろう。
「だから髪の毛も入っとんじゃい!!! さっきはそんなこと言っとらんかったやろ。もうコレ勿体ないし食べたるから返金しろ返金」
「そ、それに関しては……」
星さんが言葉に詰まっている。いくら異物混入とはいえ話の焦点を変えるのは違うだろう。
ここは俺の出番だ、と思って俺は間に入る。
「失礼ですが、そちらの髪の毛はお客様のではありませんか」
「は? 何言ってんだお前」
「先ほど耳にしたのですが『この髪を次に持って来る料理に忍ばせたらただ飯食えるんちゃう? さっきの文句であっちもひるんどるやろうし』でしたっけ」
出過ぎた真似をしているとは分かっていた。
これ以上、星さんを疲れさせたくはなかった事とこの店の損害となるような事はこれ以上避けたかったので相手の文句につっかてしまった。
「くそっ聞いてやがったのかよ……。わかったわかった、これ食ってから帰る」
案外すんなり聞き入れてくれたなと思いつつ無事解決したことに安堵した。
その後完食してお金を置いて逃げるように帰って行った。
バイトが終わってからお店を出た所で星さんに呼び止められた。
「今日はありがとう。守ってくれたんだよね。間違ってたら凄い恥ずかしいんだけど」
「自分から言うのも恥ずかしいですけど。星さんが困っていそうだったので」
「嬉しい。ボク、人にこうして助けられるなんて今までなかったから……。それよりどうして、いつあんな会話を聞いていたの?」
「自分の仕事が一旦終わって、他いないかなと回っている時に偶々聞えたんです」
「そ、そうだったんだ。それより、またホールの回し方とかも教えないとね。あ、個人ラインでもまた話そう。これからは一緒のグループっていうよりバイト仲間として」
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