第41話 表石星のアプローチ 星side
ボクのバイト先に最近、新人がやって来た。それは赤の他人、ではなく大学が同じ、それも一緒のサークルで活動している男の子の悠だった。
ボクは昔からこの一人称が癖で中々治らず友だちもあまり出来て来なかった。でも、悠を含めて同じサークルに入っている人たちは皆んな優しくて、ボクがこのまま一人称をボクのままにしていても気にせずに接してくれる。
悠がバイトに入って来てから二日目の日。クレーム対応が未だに苦手なボクはお客さんに二度も難癖を付けられてあたふたしていた。そんな時に悠はボクのことを守るようにしてボクの代わりに対応してくれた。
お母さんやお父さんに守られることはあっても同世代の人に守られる、助けられることが無かったボクは凄く嬉しかった。何よりボクを助ける時の姿が格好良かった。
その日のバイト終わりに悠に個人的に連絡してもいいかと尋ねた。正確にはバイトのことについてだけど……。それでも一対一のコンタクトを取ってもいいと言われたボクは嬉しかった。改めてお礼も言いたかったし、どこか護られている気がして惚れてしまったから。
ボクは家に帰って早速、悠にメッセージを送ってみることにした。
『今日は本当にありがとう。凄い嬉しかった。これから同じバイトとして頑張っていこうね——』
メッセージを打ち込みはしたものの嬉しかったとか書くのは恥ずかしく感じる。必要ではない所も一杯あるだろうしと打っては消してを続ける。
結局、簡単に『今日はありがとう。これからも一緒に頑張ろう!』と簡単に打ち込んで送信した。
ボクはいつ返事が返ってくるのか気になってスマホと睨めっこしてしまう。
まだ来ないな、と諦めながら悠の返信を待つのを辞めようとした時、ピコンと音とともに画面にメッセージが映し出される。
『ごめん、ごめんお風呂に入ってて返信遅れちゃった。今日の事は俺も出しゃばり過ぎたかなって思ってたから感謝してもらえてこちらこそありがたいです。はい! 頑張ろう』
ボクは自分よりも長い文章が返って来たことに嬉しくなってしまった。返事が遅れた理由を話しているだけなのに。
ボクは悠からの返事を暫し眺めた後ベッドに突っ伏して寝た。
悠は彼女とか居るんだろうか、居るのならどんな人なのだろうか、もし彼女は居なくて隣が空いているのならボクがそこに入る事は可能なのだろうか。
ボクは自分の口から悠に聞けないことをベッドの中でグルグル思考を巡らせる。
翌日、ボクは大学で悠と会った。
「ね、ねぇ今日の帰りちょっとカフェにでも寄って行かない?」
悠は少し考え込んでからコクリと頷いて、行くと言ってくれた。
最寄りのカフェまで少し距離があるので横に並んで歩くが、誘った自分から中々話題を出すことが出来ない。
黙ったままカフェに着いてしまった。
「悠は普段何を飲むの?」
無難な問いかけを悠にぶつける。
「日によって変わることもあるからこれって言うのはないけどコーヒーとか、かな」
なんとか話は繋がり談笑することが出来た。
何か頼み事があったわけでもないのに何も聞かずに着いてきてくれた悠は優しかった。
家に帰って来て連絡を取り合う。ずっと続いていた会話が途中で途切れる。
途切れたかと思うと再度返事が返って来た。
『俺は今からお風呂に入ってくるから連絡してくんなよ』
その時のメッセージに違和感が……。
ボクは戸惑ってしまった。悠がこんな命令口調でメッセージを送ってくるなんて思ってもみなかったからだ。
『あんまり近づいて来るなよ。ただバイト仲間でサークルが同じだけなんだから』
さっきまでの嬉しかった心はどこへやら、ボクはこのメッセージの変貌の様に知らぬ間にスマホの液晶に涙を落としていた。
「ひどいよぉ…………」
涙を拭いながらボクはそのメッセージに返す。
『貴方は悠じゃないです! ボクはこんなところを好きになった訳じゃないですから』
「ボクの好きな悠は優しい面をボクにも向けてくれる悠だ」
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