第31話 2泊3日の修羅場が終わった日

 翌日の午前中、俺は病院から退院した。腕以外はかすり傷が数か所ある程度で大きな外傷なかったので一安心だ。


 病院から出ると紫都香さんと詩と有佐が待っていた。連絡は来ていたので驚くことは無かった。家までは少し距離があるものの歩いて帰る。タクシーで帰ることも考えたが結局は歩いて帰る事にした。


 家に向かって歩いている最中俺が居なかった昨日の夜はどうだったのかを聞いた。少しの沈黙の後に紫都香さんが口を開いて話し始めた。


「悠くんの良い所を言い合ってたらちょっと意気投合して、昨日の夜は三人で一緒に料理を作ったの」


 俺の居ない間に少しは仲を深めてくれていた様で俺は嬉しかった。


「全員の心の内を話したら共感することも多かったんだよ」


 詩も紫都香さんに続けて話す。


「でも、有佐が一番ってことには変わりないけどね」


「またそんなこと言う。わたしが一番悠くんの側に居るべきです」


 押し問答が家に着くまで続いた。



 一日ぶりの家に着き、寛いでいるとインターホンが鳴る。モニターで確認してみると俺が助けた女の子とその両親が家の前に立っていたので俺は一人で玄関に向かう。余計な事を三人が口走らないために。


「こんにちは」


「あ、この度はうちの娘を助けて頂きありがとうございました。けがをしたということで、申し訳ありません」

「お兄さん、御免なさい……」


 ここに居る少女は正装を着ているからなのか、昨日見た時よりも大人びているように見えた。中学一年か二年くらいだろうか……。


「いえ、お子さんに重症を負わなくて良かったですよ。それより頭を上げてください」


 俺がそう言うまでずっと頭を下げていたので頭を上げさせる。ずっと頭を下げられていると逆に気分が悪くなる。


 謝罪と感謝、そして俺の無事を確認して粗品と言いながら渡された品を受け取ると帰っていった。


 粗品を見て察した紫都香さんに色々言われたのでやはり一人で玄関に出て良かったと思った。


 詩と有佐が来てから三日目、ということは今日が二人の帰る日。昼の三時に駅に着きたいと言われたので、今日こそお昼ご飯は俺が作ろうと決意した。


 何をするでもなく俺は左腕が不自由な状態の暮らしに慣れるべく試行錯誤していた。

 そしてお昼時に近づいて来たのでそろそろか、と立ち上がりキッチンに向かう。俺がキッチンに立ったのを視認した紫都香さんに声を掛けられる。


「何をするの?」


 その問いに対して俺は自信満々に、これからご飯を作る為の気合を入れるかの様に答える。


「お昼ご飯を作ります。昨日の昼は作れなかったですから」


「ダメに決まっているでしょ」


 お昼ご飯を作ろうとしたのだが……

「その手でご飯が作れるわけないでしょ」

「お兄ちゃんは椅子に座って待ってて!」


 俺は本気で自分が料理を作れないほど怪我をしていた事を忘れて居た。不自由な腕を使えるように試行錯誤していたのでこの感覚に慣れてしまったせいだろうか。俺は大人しく言うことを聞いて椅子に座ることにした。



 食事も終え、詩と有佐が駅へ向かう時間に近づいて来たので駅に送り届けた。

 俺と紫都香さんは駅からの帰り道、二人になったところで紫都香さんから手が伸びて来る。俺はその伸びて来た手を掴んだ。なぜか喋ってこないので俺も声を掛けることはしない。喋っていなくても居心地が悪く感じなかった。

 ただ、沈黙を楽しむかのようにそのまま手を繋いで家まで帰った。


 ソファに座って紫都香さんと身体を合わせて映画を見ることになった。家に帰ってくるなり紫都香さんが映画を見たいと言い出したのでサブスクで映画を探して見始める。

 紫都香さんのことだから恋愛映画だと思っていたが今日選んだのはアクションものの映画だった。俺は何の映画でも良かったのでアクション映画を見ることにした。


 映画は中盤に差し掛かるが俺の頭には映画の内容が入っていなくてどういう状況か理解できない。紫都香さんが決闘シーンや爆発のシーンで毎度リアクションするのでその表情の変化を眺めていたら映画の展開に追いつけなくなっていた。


 最後の方は顔の表情を見ながら映画を見ることに慣れて来たので映画は部分的だが理解することが出来た。紫都香さんのほど中身をしっかり見ていないので拍手が出るほどでは無かったがいい作品だとは思った。


 全てが収まり今までの日常に戻った。三日間だけしか二人は居なかったが、長い間居たと思うほど濃い三日間だった。



 紫都香さんがお風呂に行った時にスマホを見ているとサークル(仮)のメッセージグループが動いていた。


『もう大学生なんだし、動物園や水族館などではなく遊園地に行くのはどうでしょうか』


『確かに動物園とか水族館に大学生が大勢で行くより遊園地に行った方が楽しめそうだね』


『じゃあアンケートを取ってみよう。このグループで動物園か水族館か遊園地が良いか』


 その言葉を皮切りにアンケートが開始された。


 俺がそのアンケートを見ると全員が遊園地を選択していたので俺も遊園地に投票する。

 また、そのアンケートとは別に日時のアンケートが開始されたので俺はそのアンケートも見た。

 皆が良いと言っている日に俺も投票したところで紫都香さんがお風呂から上がって来たので次に俺がお風呂に入りに行った。




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