第32話 サークル(仮)で遊びに行く 1

 アンケート結果で全員が行ける日があったのでその皆の空いている日に遊園地に訪れる。ゴールデンウィークが明けて数日が経っているということで人の数もそこまで多くなっかった。


「着いたね!!」

「今日はいっぱい乗ろう」

「ちょうど今日はバイトが無くて良かった」


「……悠と今日は観覧車に乗る」


 雪葉は何を言っているか聞えなくて分からなかったが全員張り切っているのは間違いなかった。

 かく言う俺もまた友だちと遊園地に来ることが楽しみだった。


 俺たちは遊園地の園内に入るとまず向かったのはこの遊園地内で一番待ち時間が長くなるという人気のジェットコースターだ。


 開園して時間が経っていないということもあり、俺たちはあまり待たずに乗り場に到着した。

 ひとつ前の組がジェットコースターに乗車している間にどうやって乗るかを決める。乗り物は二人乗り、つまり一人は余って二人ずつ乗る。

 最初は女子同士が隣になり、俺と雪斗が隣、蓮が一人になった。荷物置きに荷物を置いて乗車する。


 園内を囲むかのように敷かれているレーンの上を猛スピードで駆け巡る。最初に最高高度まで上がるのだがその高度はこの遊園地の乗り物の中で観覧車の次に高く、園内が一望できる。

 乗り物が停車して荷物を置き場から取り出して出口へ向かった。


 出口から出て来て互いに皆が顔を合わせるが酔ったり気持ち悪くなっている様子はなく、寧ろ笑顔だった。これで全員が絶叫系のアトラクションを嫌いではなくかなり好きなのだと分かった。


 俺たちが次に向かったのはコーヒーカップだ。これは決められたコースを走りながら真ん中にあるハンドルの様なものを回せば回すほど回転が増す乗り物である。


 これは最大三人までの乗り物らしく二人と三人で分かれることにした。ここで俺はさっきとは違う方法で分かれようと思い、グーとパーで分かれることを提案しようと思い、声を掛けようとしたところで俺の前に案を持ち掛ける人が居た。


「私が悠と二人で乗るから今回は皆は三人で乗ってくれる?」


 他の皆が返事をする前に俺の腕を引っ張ってコーヒーカップに乗ると乗り口を閉じてしまった。ポカンとしていた他のメンバーも一応は納得した様で別のコーヒーカップに乗り込んだ。


 カップが動き出すと同時に俺はハンドルを回し始める。しかし、回している途中で雪葉に手を止められてしまう。


「ねぇ、あの紫都香さんとはどこまで行ったの? キスはしたの?」


 正面に座っていた雪葉がいつの間にか隣に来ている。回っては居ないので危険ではないと思うが、動いてはいるので出来るなら留まっていてもらいたかった。


 ここで本当の事を言うべきかウソをつくべきか……。迫って来る雪葉。

 俺の出した答えは、真ん中にあるハンドルを回して遠心力で遠ざける事だった。回し始めは動きが重いが徐々にハンドルが軽くなるのでドンドン回す。

 雪葉が背もたれにもたれ掛かるほど多く回した。俺は雪葉と距離を取ることが出来たのでハンドルを回している手を緩める。


 雪葉は乗り物が止まるまで耐えることに必死だった。


「ごめん、いきなり思いっきり回しちゃって……」


 俺は雪葉が何にもしがみついていなかったのにハンドルを強く回した事を詫びる。


「全然大丈夫だよ。……それより、誤魔化したってことは私がこの前した時よりも前にしていたってこと? そういうことだよね」


 誤魔化しても無駄だと思い正直に話すことにした。雪葉は『そっか……』と言ってそれ以降は何も話すことは無かった。


 乗り物から下りて他のメンバーとも合流する。


「星ちゃんが凄い回してさ~、もうしがみつくのに必死だったんだよ」


 雪斗はそう言ってくれるが俺は三人の乗っていたカップがどれほど回っていたかなどは見る暇もなかったので『へぇ~』としか返すことが出来なかった。


 蓮は流石に酔ったのかダウンしているのでベンチで少しの間休憩することにした。休憩中、これからどう回って行きたいかを話し合う。


「この後、一つ乗り物に乗ってからお昼ご飯を食べたいんだけど、どうかな」


「蓮も酔ってるし、軽めの乗り物にでも乗るか、それでその後にご飯を食べに行こう

 」


 雪葉は黙り込み、星さんは回しすぎた事に負い目を感じて蓮の介抱をしている。俺は五人で遊園地に着て二人だけ楽しんでいるという珍しいカオスな現場に立ち会っているのかもしれない。


 次に俺たちが乗ることにしたのはゆっくり水の上をボートが進みながら一つの物語を楽しむ乗り物だ。この乗り物は物語以外に変化は無い単調なアトラクションなので若者は避けるアトラクションだ。

 それ故に比較的空いていることが多い。俺たちもほぼ待ち時間なしで乗り物に乗ることが出来た。周りはやはり家族連れが多い。


 乗り物のボートは六人まで座れる列が四つあり二十四人まで乗ることが出来る。俺は乗り場の先頭に居たのでその列の一番端に座ることになる。隣はというと……雪葉がブツブツ言いながら隣に腰掛ける。

 雪葉が何を言っているのか気になったのでゆっくり顔を近づけて耳を澄ませる。


「絶対に悠を今日観覧車に誘う。二人きりで絶対……」


 俺はどうやらこの後観覧車に誘われるらしい、二人きりで。



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