第27話 2泊3日の修羅場 5

 お肉だけを焼くのはちょっと見栄えが地味だなと思ったのでスーパーで肉以外にも野菜を買うことにした。

 手を繋ぎながらスローペースで歩く。まるで恋人の様に買い物に向かう。


「悠くんの家では焼き肉は良くしてたの?」


 歩くスピードと同じくらいスローな話し方で紫都香さんが質問してくる。


「二週間に一回くらいの頻度でしてましたね。俺もお肉は好きなんですけど詩がお肉を好きで……」


 俺もまた、紫都香さんの真似をしたわけではないが自然とゆっくり返答してしまう。


「焼き肉美味しいもんね~わたしも良くしてもらってたなぁ。」


 顔を上げて空の方を見てはいるが虚空を見つめるかのようにポーっと遠くに視線が向かっている様に感じる。

 俺はむやみに思い出に浸っている彼女の邪魔はせずに隣でそっと紫都香さんを眺める。



 店に着いて、まずは入って直ぐの所にある野菜コーナーで焼く野菜と今週使う野菜で冷蔵しておくものを買うことにした。


「悠くんの家では焼き肉の時、どんな野菜を一緒に焼くの?」


 冷蔵しておく野菜を目利きしてから手に取り買い物かごに入れる紫都香さんは話しかけて来る。


「トウモロコシとか玉ねぎとかジャガイモとかですかね。ピーマンを一度一緒に焼いたこともあったんですけど詩が一緒に焼かないでって言ってからはもう焼いてないですね」


「詩ちゃんはピーマンが嫌いなんだね。……ジャガイモってどうやって焼くの? 他の野菜はわたしの家と一緒なんだけど、ジャガイモは焼いたことなくて。まるまる焼くわけじゃないよね」


「ジャガイモはスライスするみたいに薄く、でも厚さは少しあるように切って焼くんですよ。これは焼き肉の時に俺に与えられた仕事みたいな感じで俺が切ってましたね」


 俺は複数袋に入ったジャガイモをカゴに入れながら紫都香さんに返す。


 野菜は一通りカゴに入れられたので次はお肉を選ぶためにカートを押しながらメインのお肉を買いにお肉が売っている売り場へ向かう。


 タイムセールなどが始まるには早すぎる時間に来たので勿論安くなっているお肉は無かったが色んな種類のお肉を買って帰ることにした。


 帰り道、スーパーに行く時の様に片手を紫都香さんと繋ぎ、もう片方の手は買い物袋でふさがっている。


 紫都香さんの顔がこちらを向くのに視線のによって気付いた。何か言いたいのだろうかと足を止めて紫都香さんが話始めるのを待つ。


「悠くん、さっきの家での話なんだけど。有佐ちゃんとの関係はどうなの? その婚約者って……。もしかして、付き合ったとかないよね。キ、キスもわたしとより先にやったことがあるとか……」


 さっきまで我慢していたのか溜まっていた疑問を次々に聞いて来る。


「紫都香さん。確かに俺は幼稚園の時に婚約者と言って守ったのは事実です。ですが俺は今、有佐には兄妹の様な愛しか持ち合わせてないんです。有佐の好意は勿論嬉しいですよ、でも俺は二人目の妹だと思ってます。それと付き合ったこともキスをしたこともありません。キスだって紫都香さんが最初ですし……」


 俺が有佐を兄妹の様に見ていると知って少しは落ち着いてくれると思って紫都香さんの顔を見る。しかし、安堵する様子はなく紫都香さんは顔を赤くして照れていた。


 そんなやり取りをしつつ家路に就く。


 やがて家に着いたのでホットプレートを隣の家から持って来て家の中に入る。二人はホットプレートを持ち帰った事に何も疑うことは無かった。

 

 俺たちは準備を始めて、焼き肉を食べ始めることにした。


 席は結局俺の隣が紫都香さんで前が詩、俺から見て斜め前が有佐となった。その理由はこの家の主であと俺も紫都香さんがすぐにキッチンに行ける様にキッチンの入り口に近い方に座りたかったからだ。

 どこに何があるか分かる二人がそっち側に座るべきだと理解した有佐は特に何も言うことは無かった。


 最初は火が通るのに時間のかかるもの、逆にすぐに焼けるものを焼いていく。ウインナーやタンを焼いている横で俺が準備したジャガイモ達も焼き始める。

 詩は待ちきれずに白米をタレに付けて食べ始めてしまう。


 食べ始めてから紫都香さんは飲み物がないことに気づき、コップに残っていたジュースを注いで持って来てくれる。その時、紫都香さんは三つしかコップを運んでこなかった。


「あれ、紫都香さん。コップが三つしかありませんよ」


 俺は紫都香さん以外の所にコップが置かれたので聞く。


「実はね、ジュースがそんなにいっぱい残ってなくてね、三人分で丁度だったの。……でもね、心配しないで!! わたしにはお酒があるから」


 お酒……あ、まずい。お酒を飲んでしまうと有佐と詩がまた来た時みたいな起伏の激しい情緒になってしまうかもしれない。


「……ゴクリ」


 紫都香さんの喉が一度膨れて元に戻る。飲み込んでしまった。空けて飲んだ以上は捨てるのは勿体ないし良くないと思ってしまう俺にはもう止めるという行為は出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る