第26話 2泊3日の修羅場 4

「内緒で来てるって……それはいくら何でもまずいんじゃないか。別にお兄ちゃんの所に行ってくるって言ったら良かっただろ。そもそも来る為のお金はどうやって手に入れたんだ?」


「お兄ちゃんと同じバイト先に今年になってから行き始めたの。お兄ちゃんが辞めて一枠空いてからだけどね」


 有佐と一緒に働いていたバイト先に俺の代わりに詩が入ったということか。


「有佐の方はおばさんに許可は取った?」


 まさか有佐まで内緒で来たとか言わないよな。万が一だが、二人とも内緒で来たとなればまるで不良姉妹みたいじゃねーか。行き先も言わずに二晩帰らないってなったら大騒ぎだぞ。


「もちろん、言ったよ。お母さんに――」


 良かった。有佐はしっかり親に言ってくれていらしい。ということは俺は詩が家に来たことをお母さんに伝えればいい。なんで詩は内緒にしたんだろうか。


「――お婿さんの所に詩ちゃんと行ってくるって」


「は?」


 なんでそんな言い方をしたんだ。その言い方で良くおばさんも許可したな。

 まぁ、まずはそのことよりも先に詩の事をお母さんに言っておかないと……。

 俺はスマホでお母さんに『詩がバイト代を使って二日間こっちに泊まるらしいから家出じゃないってことだけ伝えておく』とメッセージを送る。


「お婿さんではないぞ」


 紫都香さんがどうかしてしまう前に俺が釘を刺して置く。


「むぅ……」


 口を膨らませて拗ねる有佐。さっきの様な突っかかりは見せて来ない。冷静になってくれたようだ。



 その後、話し合いを重ねた結果。ゲームをする事になった。俺が持って来たソフトで複数任用のものをプレイすることにした。


 俺がソファの真ん中に座る。紫都香さんが左隣、有佐が右隣、詩が俺の脚の間に座る事になった。


 まずは乱闘ゲームを個人戦でやることしたのだが、紫都香さんと有佐が俺を守ろうとして潰し合う。

 俺は二人の扱うキャラに挟まれてむやみに行動できない。もし動こうとすると両隣から『当たっちゃう』と言われるので動けない。

 詩も傍観するしか無い様でキャラが立往生している。


 個人戦はこうなってしまうので次はチーム戦をすることになった。いろいろな組み合わせで対戦を繰り返す。

 俺が紫都香さんと組んだ時と有佐と組んだ時はそこそこ良い試合になった。


 しかし、俺と詩が組んだ時はひどかった。詩のキャラだけを執拗に二人で攻撃する。俺のゲームスキルでは二人は倒せず、詩のキャラは為す術なく死んでしまう。

 その後、俺のキャラが一人になると紫都香さんのキャラも有佐のキャラもまるで打ち合わせでもしたかのように自殺していく。


 ゲームセットの画面になった時、俺の脚の間に座っていた詩が突然立ち上がり胸に飛び込んでくる。俺を離さないとばかりに強めに抱き着いて来る。


「私ばっかり狙われたぁ、おにいちゃん……」


 顔を胸に当ててきているので表情は分からないが声でなんとなく落ち込んでいるのが分かる。


 一番歳が下の女の子を落ち込ませてしまった二人は反省した様で、俺に背中を摩られている詩に謝る。


 二人がこの家に来てからこんな情緒が不安定になるというか精神年齢が下がる事が増えたなぁと感じつつ、こんな状況じゃこのゲームを続けられないし、俺自身も正直つまらないと感じていたのでゲームを辞めることにした。


 ゲームを終えてから再びダイニングテーブルに腰掛けることにした。


「一応ゲームを辞めてキリが良いし、話したいことがあるんだけど夕ご飯はどうする」


 俺は何かを作って食べるのなら買い出しに行かないと食材が無いので早めに決める為に話を切り出す。


「……お肉食べたい」


 さっきは落ち込んでいた詩が食べたいものを口に出す。


「お肉……か」


「任せて! 詩ちゃん。わたしが悠くんと買いに行ってくるよ。だから今日は焼き肉にしよっか」


 紫都香さんは詩の事を想ってくれたのか、お肉をいっぱい食べられる焼き肉を提案する。

 それも焼き肉店に行くのではなく家でホットプレートを使って焼き、食べるという親睦を深められそうな提案だ。でも、うちにはホットプレートは無いと思うが……。


「紫都香さん、ホットプレートってうちにはないですよね」


「隣の家にあるからそれを使えば出来るよ」


 小声で隣の家という単語を出す。おそらく有佐に元々隣に住んでいたということを知られたくないんだろう。知られてしまうと有佐達が帰ったらあっちの家に戻ってとか色々言われると思ったのだろう。

 だからさっきも二人で買い出しに行くという提案をしたのだと思った。買い出しの帰りについでにホットプレートを持って来るために。


 ひと悶着あったが結局俺と紫都香さんの二人で買い出しに行くことが有佐の口からも許された。


 二人きりになった事が嬉しかったのか相当溜まっていた何かを解消するべく紫都香さんは手を差し出してくる。手を繋ぎたい様で俺の手の甲にかすらせるので俺はお望み通り手を握りる。

 そうして俺と紫都香さんはお肉を買いに向かった。

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