第16話 旅行 1

「紫都香さんお金はいいですって。俺高校時代に貯めてたお金がありますから。それにゴールデンウィーク明けにバイトを始める予定ですから」


「でも、わたし、趣味もないし使う事なんてないから……」


 旅行当日の朝、家を出る前に支度を終えた後の事。旅行に行くための費用は全て自分が持つという紫都香さんに俺は自分の分は自分で出しましょうと一点張りで費用を払わせることを抵抗していた。


「分かった。悠くんがそう言うなら……。でも必要な時は言ってね」


 今日の紫都香さんの服装はこれまた一段と可愛かった。

 白い大きめのトップスの上に空色のオーバーオールを着こなし、ショートの髪も編み込まれていてアレンジしているのが凄く分かった。いい意味で大人っぽくない姿の紫都香さんを見れて嬉しかった。


「はい! それよりも今日の髪型、俺めっちゃ好きです」


 耳を赤くしながら照れる紫都香さんは更に可愛さを増していた。


「ありがとう」


 今日の旅行の予定は二人でこの週末までの間に決めた結果、チャックインは三時だということもあり昼過ぎに温泉宿のある県に向けて出発することになった。それまでの時間は途中で経由する都心の駅付近で食べ歩きすることにした。


「まだ朝ですけど紫都香さんは食べたいものとかありましたか」


「えっと、わたしはあのアメリカンドックみたいな形だけどチーズが伸びるやつを食べてみたいな。学生の頃はこうして誰かと食べ歩きみたいなことは全然していなくてずっと勉強に打ち込んでいたから友だちとか恋人と食べている姿が羨ましかったんだよね」


 紫都香さんの過去の話を聞く度に一生懸命で真面目な所を知る。


「待っててくださいね。今買ってきますから」


 要望に応えるべくその食べ物を買い、俺が持っているハットグに目を輝かせている紫都香さんに一つ渡す。


 俺は自分が食べ始める前に紫都香さんが一口目を食べるのを見ることにした。

 紫都香さんがハットグを口の中に入れるとカリッと音が鳴った。ハットグを口から離す。ビヨーーンと伸びるチーズを舌で絡めとるようにして離したハットグに再度顔を近づけていく。

 美味しいから笑っているのか面白いから笑っているのか分からないが紫都香さんが笑顔を見せてくれたのでこれだけでも今日は満足してしまいそうになる。


「悠くんは食べないの? 折角出来立てみたいだったのに勿体ないよ」


 その姿を見ていると紫都香さんに早く食べた方が良いと言われてしまったので俺も食べることに……。


「頑張って伸びたチーズを取ろうとする悠くんの姿、可愛かったよ」


「今度は悠くんが食べたいものを食べようよ」


 ハットグを完食した後、紫都香さんは俺の選ぶものを食べようと提案してくれた。


「じゃあパンケーキとか、どうですか? 地元のパンケーキ屋さんは良く妹とかと行っていたんですけど、上京してからまだ食べに行ったことがなかったのでこの機会に紫都香さんと行けたらいいなって思いまして」


「わたしも甘いもの好きだから食べたい!!」


 近場のパンケーキ屋さんを二人で探すことになった。スマホを使って調べても良かったのだが紫都香さんは自分たちで歩きながら探したお店で食べたいと言ったので歩いてお腹を少し空かせながら探すことにした。


「「見つけた!!」」


 探すというよりは只々一本道の食べ歩き横丁をまっすぐ歩いていただけなのだが見つけたという事には変わらない。


 俺と紫都香さんが見つけたお店は食べ歩きが立ち並ぶこの道では珍しく店内に入って食べる方式のお店だった。まぁしっかりしたパンケーキを食べるのなら当然の事ではあるか……。


 俺はバニラアイスとチェリー、そしてホイップクリームの乗ったふわふわパンケーキを注文し、紫都香さんはチョコソースのかかったワッフルとホイップクリームの乗ったふわふわパンケーキを注文した。


 一口ずつお互いのパンケーキをシェアすることになった。

 地元でパンケーキを食べに行っていた時は一緒に行く人はいつも俺と同じものを頼んでしまうので俺はシェアはしたことがなかった。

 

 友だちと一緒にこういったことをして来なかった二人の頭の中には皿交換という発想は無く、シェアをすると決めた時点であーんする覚悟を決めていた。


 俺はバニラアイスにパンケーキをつけて紫都香さんにあーんをすることに……。

 紫都香さんはチョコソースのかかったワッフルとパンケーキを突き刺して俺にあーんをしてくれた。


「どうしますか? お互いに食べたいものは食べることが出来ましたけど」


 無事、パンケーキを食べてお店を出た俺は紫都香さんにこの後どうするかを尋ねた。


「お昼前に食べちゃったから少し運動して消化させたいかも」


 紫都香さんはお腹を摩りながら身体を動かすことを提案してくれる。


「ならあそこで食べたものを消化させるっていうのはどうでしょうか」


 俺はこの道から逸れた所に見えるゲームセンターを指さした。


「ホッケーで勝負しませんか? 勝った方が行きの新幹線の席で窓側になるということで」


「それ面白いかも」


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