第15話 連休前に旅行する予定を立てる
「紫都香さん!! 何処か一緒に旅行に行きましょう」
夕食を食べて、お風呂にも入った後の一服タイム。
俺と紫都香さんはダイニングテーブルに冷たい飲み物を置き、向かい合うようにして椅子に腰掛けていた。
「悠くん、突然どうしたの?」
俺はサークル(もどき)会議で出かける話が出た時に思ったことがあった。それは、俺と紫都香さんが小旅行でさえしたことがないという事だ。
お試しではあるものの添い寝をするレベルの同棲をしているにも拘らず、旅行やデートの様なお出かけをしていない。
泊りがけの旅行より先に同棲をしていると考えると関係のステップアップにおける順序がおかしいと改めて認識してしまう。
俺が本格的なカップルとしての本格的な同棲をお預けして、お試しにしたくせに一緒に暮らすようになってからはすっかり紫都香さんに身体を預けている。
普段仕事を頑張っている紫都香さんにもゆっくりしてもらいたいので温泉旅行にでも一緒に行きたいなと思っている。
「出会ってから近場に出かけたり、スーパーやショッピングモールには行ったことはあっても旅行なんてした事なかったですよね。だからのんびり旅行をしてみたいなと思いまして……」
「……確かに、わたしも悠くんと旅行したい。じゃあ早速、旅行するとしたら何処に行きたいとか決まってる?」
「温泉旅行とか、どうですか」
「良い! 凄く良いと思う!!」
いつにも増して一段と嬉しそうな顔を向けて元気に返事してくれる紫都香さんを見ると一緒に住み始めると決めた日に紫都香さんに対して不信感を抱いていたのがばかばかしくなる。
最近、紫都香さんは夜でも気持ちが落ち込むことが減り、明るい面持ちをである事が増えた。一緒に寝ることで感傷的になるのを抑えられる様になってきたのだろうか。
「時期はゴールデンウィーク前の週末にしたいんですけど、会社は休みですか? 何か大事な予定とかなかったですか」
紫都香さんは会社に持って行っているカバンからスケジュール帳を取り出し予定を確認してくれる。
「うん、会社も予定もなかったよ。でも、その宿の予約ってもう済んでたりする?」
すっかり予約するのを忘れていた。旅行をするんだ、予約が必要なのは当たり前じゃないか。
「いや、ついこの前旅行について思い立ったので予約できてないです」
俺は温泉旅行に行くならどこが良いかを調べて候補を絞って紫都香さんにもし宿に空きがあるなら何処にしたいかを問うた。
「ここは景色が良さそうだけど、もう予約が埋まってそうだし……ここはちょっと高すぎる気がするし……ここなんてどうかな」
紫都香さんが指さしたのは温泉地にある温泉宿ではなく山奥にあるが秘湯とは言い難い奇麗な宿だった。
早速空いているかを確認してみる。ゴールデンウィークの予約は埋まっていたがその前の週末は予約はそこそこ埋まってはいるものの空いてはいたので予約を取ることにした。
話し合いが終わりソファで寛いでおやつを食べながらテレビを見ていると紫都香さんは急に立ちキッチンの方へ向かう。
「紫都香さん、今日も飲むんですか?」
キッチンから戻って来た紫都香さんは嬉しそうにお酒の缶を手に持っていた。
「うん! だって今日は悠くんから旅行に行こうって誘ってくれた日だもん」
ソファに座り、お酒を飲み始めた。
お酒を飲み終える頃には紫都香さんはいつかの電車で出逢った時の様に膝の上で眠ってしまっていた。紫都香さんに抱く感情はあの時とはすっかり変わった。
俺の膝に頭を乗せて俺のお腹の方に顔を向け、両手を俺の腰に回してぎゅっと身体を寄せる様にして眠る紫都香さんの頭を思わず撫でてしまう。
頭を撫でると眠っているにも拘らず顔を綻ばせる姿を見て更に頭を撫でたくなってしまう。
明日は平日なので会社も学校もある。
俺は眠った紫都香さんを抱きかかえて布団に寝かす。片付けと電気を消しに部屋に戻ろうとしたが紫都香さんにズボンの裾を掴まれる。
「紫都香さん起きていたんですか?」
「……かないで、行かないで」
布団で顔が隠れて声が聞えにくく表情も分からない。
「紫都香さん、起きているのなら歯磨きしないと……。お酒飲んだんですから」
「分かった……。でも一緒に来てくれる?」
むくっと起き上がった紫都香さんは俺のズボンから手を離し、今度は服を掴んでくる。引っ張られているわけではなくただ離れないようにそっと握っているだけ。
「俺も歯磨きしようと思っていたんで勿論行きますよ」
紫都香さんは寝ぼけながらも隣で一生懸命に歯を磨く。
歯磨きが終わると離して手を再度さっきまで掴んでいた服に戻して布団の所まで戻る。
二人で府布団に入った後、紫都香さんが顔を近づけて来て耳元で囁いてきた。
「旅行、楽しみだね」
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