第12話 邂逅する二人 紫都香side
わたしは悠くん無しでは生活できない体質になってしまった。
朝起きたら隣に悠くんがいる。
わたしが悠くんより先に起きた時、悠くんが起きるまで寝顔を見放題。悠くんは気づいていないだろうけど悠くんのほっぺたや唇を触った事がある。
頬を指で押した時にむにゅっとなる感覚が面白くて、可愛くて辞められない。
唇を触った回数は少ないけど指で触れた時にしっとりと自然に押し返してくる下唇が色っぽかった。これ以上繰り返しては自分が抑えられなくなると思った。
また、わたしよりも先に悠くんが起きていた時は朝ごはんを作ってくれている。その姿を見る度に将来、主夫をやって貰うのも悪くないなと思ってしまう。
昼間、今までは嫌々仕事をやるだけの時間だった。帰って悠くんに会う事だけを楽しみに淡々とすべき事をこなす。
でも、今は違う。わたしが悠くんのお弁当を作って持って行かせる日は、お昼頃に空になったお弁当箱の写真と感謝を述べるメッセージが送られてくる。それだけで嬉しくて『午後の仕事も頑張ろう!』と気合が入る。
そして、仕事から帰ってきたら悠くんがいる。わたしが休みの日に教えてあげている料理を仕事から帰ると作ってくれている事がある。それは日を増して、料理のレパートリーが増えるごとに回数が多くなる。
人生最高の日を更新し続ける毎日。一年前は考えられない様な幸せな日々が今ここにある奇跡を悠くんの寝顔を拝みながら噛み締める。
「わたしに幸せをくれてありがとう」
勿論この声は隣で寝ている悠くんには聞こえない。でも今はまだそれでも良い。今は貰ってばかりだから……。
悠くんに心の穴を埋めてもらい始めてまだ僅かしか日は経っていない。しかし、わたしの頭は悠くんの関連の事でいっぱいだ。でも苦しいとは微塵も感じない。寧ろ幸せな気持ちで満たされる。
わたしは仕事の帰り道……といっても家の付近。わたしと悠くんの住む家を電柱に隠れながら見ている人がいた。電柱に隠れていても
フードを被っているので男性か女性か分からない。分からない時に声を掛けるのは得策では無いと思い、わたしは小走りで隣をすり抜けようとする。
しかし、不審者は透かさず手を伸ばして来た。
最近、悠くんの手を握って添い寝していたから分かる。このわたしに触れる手が女性のものだという事に。
ナンパではよく手を触られると大声を出す事が一番の対処法と言われている。しかし、この場合は別。
好意や欲を剥き出しにするナンパとは違い、相手が自分に何を思っているのか不明だから。
わたしに好意のある不審者かも知れないし敵意のある不審者かも知れない、はたまた……。
声を上げては刺される可能性が多少あるので声は上げず、恐る恐るわたしの手を引いている方へ顔を向ける。
「こんばんは、紫都香さん。入学式の日以来、ですね!」
フードを被った不審者とは雪葉ちゃんだった。わたしがあの時去り際にある意味爆弾発言をしたせいで少し気不味いけど殺される事は一先ず無いと思い、ホッと胸を撫で下ろす。
でも単純にあんな行為をしていたのが気になって質問をしてみる。
「貴女は……どうしてここに、何をしていたの?」
「確認ですよ。確認。入学式の日に同棲をしていると去り際に言われた気がしたので。それと、先日大学で悠さんが紫都香さんのお手製お弁当と思われるものを食べていらしたのでどこまで関係が進んでいらっしゃるのかが気になってしまいまして……」
つまり家を監視しながらわたしの帰りを待っていた?
既にわたしが家に帰っていたり、休みだった場合はどうするつもりだったのだろう、一体何時から張り付いていたのだろう……様々な疑問が頭に浮かんでくる。
「心配しないでください。悠さんとのメッセージのやり取りで帰って来るのが夕方以降なのは把握済みですから。今日の夕飯はカレーみたいですね!」
疑問が顔に出ていた?
それよりもわたしと悠くんの二人だけのやり取りのはずなのに見られてたの? それとも見せちゃったの? 帰ったら絶対に聞かないと……。
「カレーに入れる玉ねぎは三十分炒めたら美味しいらしい、と悠さんは紫都香さんの知識を語ってくれました」
わたしにはもう雪葉ちゃんの声は耳に届かなかった。
二人だけのメッセージ……。
わたしはその場に雪葉ちゃんを置いて一人でわたしと悠くん二人の家に入り、鍵を二つとも閉めた。
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