第11話 雪葉side
私の聞き間違いでなければ悠さんは紫都香さんというお隣さんと同棲しているらしい。それでも二人の間には若干の距離があった。
即ち関係はまだ深くなる前なのかもしれない。ならば私にもチャンスはあるかも……。
まずは単純接触効果を利用する為に下準備として悠さんに接触出来る機会を増やす。
私は紫都香さんが踏み入れられない時に近づける大学内で接触回数を増やすことを最初に考えた。
『夜分に申し訳ありません。突然ですが、悠さんはどういった授業を取るのでしょうか? 私、聞ける相手が居なくて……』
悠さんの取る授業と同じ授業を取る事が一番接触回数が多く、もしかするとすべての授業で隣に座れるかもしれないと思った私は早速、悠さんにどの授業を取るかを尋ねた。
『俺、この前紹介した隣の家に住んでる紫都香さんに色々アドバイス貰いながら決めたんだけど良かったら参考にして』
返って来た返事には例の紫都香さんという名前が……。
確かに人生の先輩の意見を参考にするのは良いことだと思うがそれがよりによってあの女の人だと思うと胸の奥が苦しくなった。いつ一緒に履修登録をしたんだろうか?
夜、寝る前に布団に入りながらしたんだろうか?
考えたくない想像を無意識にしてしまう。
それでも朝と夜と休日しか一緒に居られない紫都香さんよりも週四で悠さんと日中会える私の方が長い間接触していられると思ったので何とか気持ちを鎮めることが出来た。
明日は悠さんと一緒に授業を受けられる……。そう思った私は明日の為にいつもより早く眠りに着くべく、ベッドに向かった。
悠さんの顔を二限分の時間見つめられる事が確定したせいかあまり良く眠ることは出来なかった。
九十分が二回つまり三時間隣にいるというアドバンテージを今日だけで得られる。
二限の前に私は悠さんにサークルに誘われた。
勿論即答だった。
それから授業が始まった。といっても本格的な内容は来週かららしいので今日は何も苦労することは無かった。おかげで悠さんの顔を何度もチラ見することが容易だった。
私は悠さんが授業後どこへ行くのかをバレない様に見る為に先に講義室から出る。
悠さんの動きを目で追っていると開けた広場のベンチに座る。すかさず他の人が座る前に私が隣に座る。
悠さんは何やら無地の布を開いている。中を見るとお弁当だった。
これは恐らく紫都香さんが作ったんでしょうね。その手があったか……。これでは彼女も学校で接触しているようなものだ。
嬉しそうな笑顔を見せる悠さんを見て私は思った。これは私に向けている笑顔ではない。私に対する笑顔を私は見たい。
必ず私に向けて貰える笑顔を悠さんに作って貰う。この大学生活で。
だって小学校から高校まで女子校でまともに男性と話したことは無かった。唯一話した相手といえばお父様やおじいちゃん先生といった歳の離れた恋愛対象には入らない人達だけだった。だからヘンに距離を取ろうとせず接してくれる紳士な同年代の彼を好きになった。
多分これが私の初恋だから……成就させたい。
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