第10話 ストーカー? そんな訳ないよな

 履修の予備登録が終わった。しかし、まだ確定はしていない。人気のある講義は抽選によって決まる。



 昨夜、俺は紫都香さんと話し合いながら履修する講義を決めた。


「本当に月曜日は休みで良いの?」


「はい! 一日くらいは全休が欲しいなと思っていましたから。それに月曜日なら紫都香さんが会社の休みを取れた時、三連休で旅行も出来そうですし」


 必修科目があるのは月曜日と木曜日以外だったので月曜日を全休にする事が出来た。


「わたしの事まで考えてくれるなんて……ありがとう! 絶対旅行、行こうね!」


 嬉しそうな紫都香さんはそのままのテンションでお風呂へ行った。お風呂まで行く様子を眺めていると俺のスマホにメッセージの通知が来たのでアプリを開いてみる。


『夜分に申し訳ありません。突然ですが、悠さんはどういった授業を取るのでしょうか? 私、聞ける相手が居なくて……』


 雪葉……友だちを作れてないのかな? あの勢いなら健康診断とかで新しい友達が出来そうだと思ってたんだけど……。まぁ俺も新しい友達なんて入学式以来、雪斗以外出来てないし人の事言えないな。


『俺、この前紹介した隣の家に住んでる紫都香さんに色々アドバイス貰いながら決めたんだけど良かったら参考にして』


 俺が変な奴って誤解されない様に隣の家というのを強調しながらさっき予備登録をした時に撮った写真を雪葉に送る。


『へ、へぇ履修登録も一緒にしたんですね……。でも助かりました! 参考にしますね!』



 今日は授業開始一日目。

 木曜日の今日は二限と三限の共通科目を取っている。


 二限開始二十分前。講義室に入り、空いてそうな席に座る。紫都香さん曰く共通科目の場合、席が決まっている事は自分が生徒の時には一度も無かったらしいので端の方に座る。


 俺が席について少し経った辺りで講義室の入り口辺りに見知った顔の女の子が現れた。

 春物コーデなのかワンピースに軽めのアウターを羽織っている彼女は迷わずこちらへ向かってくる。


「隣、良いかな? 悠さん」


「全然構わないよ。雪葉もこの授業選んだんだね。」


「そ、そうなんだよねぇ。シラバスを見た限り難しくは無さそうだったし悠さんも取ってたから……」


「あぁ、この授業の先生は楽だから取った方が良いって紫都香さんに言われて取っただけなんだよね」


「じゃあ、自分で選んだわけじゃないんだ…………いつも、いつも先を越される」


 最後の方なんて言ったんだ? よく聞き取れなかったんだけど……。


「でも履修登録はもうあれで完了したんだよね」


 雪葉は目をバチバチに見開いて身体を近づけてくる。俺はそんな雪葉の様子に後退りしつつも質問に答える。


「そうだよ。何かない限りあれで今学期は変えないつもり」


「んふふ、ふふっ。そっか、そっかぁ」


 不敵に笑みを浮かべる雪葉に恐怖を感じてきた。何を考えてるのか全く分からない。


「ごめん、ごめん。何でもないから安心して」


 笑うのをやめて冷静な面持ちで気にしないでと言ってくる。こんなに表情をコロコロ変えられては安心できるものも安心できない。


 今さっきまではサークルに誘おうと思っていたが躊躇してしまう羽目になった。


「悠さん、友だちを作りたいのですがやはりサークルに入るのが良いんですかね。私、一応サークルに勧誘されたんですけど、誘って下さったのは男の方ばかりでグイグイ来られるのが怖かったんです」


 さっきは怖かったが彼女がいち女の子である事には変わりない。

 もしかしたら本当に箱入り娘で世間のことをあまり知らない可能性だってある。やはり最初に友だちになった俺が誘ってあげるべきか……。


 さっきの笑いも何かの勘違いかもしれないし。


「もし良かったら、これから作っていくんだけど俺が入るサークルに入らない? 結構自由度の高いサークルになると思うんだけど……」


「入りたいです!!! 悠さんが入るサークルなら安心出来そうですから」


 隣に座っているのに身を乗り出すようにして俺の誘いに即答した。


 話しているうちに周りの席も埋まって来て先生も講義室に入ってくる。

 経済の授業が始まった。といってもレクリエーションがほとんどでこれからの授業の進め方を話すだけで終わった。


 昼休みを挟む。

 俺は大学内にある開けた広場で紫都香さんにコレ持って行ってと言われて持って来た無地の包みを開ける。中にはお弁当箱があった。紫都香さんに作って貰ったお弁当……。ワクワクしながら蓋を開ける。


「それ、どうしたんですか?」


 授業が終わって俺が出て行くより先に講義室から去って行った雪葉がいつの間にか隣にいた。ずっと隣に座っていたかのように自然に質問してくる。


「えっと、紫都香さんに作って貰って……」


「なるほど、良いですね……お弁当」


 俯きながらにぼそぼそと呟く雪葉を他所に紫都香さんのお弁当を食べ始める。

 自分のお弁当を作るついでに俺のお弁当も作ってくれていたことを思い浮かべながら食べる。紫都香さんが今朝はやけにニコニコしていたことを思い出す。


「嬉しそうですね! 美味しいですか?」


 こちらを怖いほどにスマイル顔で見つめて来る雪葉を見て冷静になった俺は口角を上げながらニヤニヤしていた事に気づいた。


「あ、うん。美味しい…です」


 そっかそっかと言いながら去っていく雪葉に授業の時同様で恐怖を感じてしまった。


 昼休みが終わる前に三限が行われる講義室へ向かう。大方の席が埋まってしまう前に自分の座りたい席に座るためだ。かと言ってここに絶対座りたいという席は無い。


 後ろの方の席が空いていたので座る。二限を受けた時に前の席より後ろの席の方が緊張もしないし肩の荷を下ろして授業を受けられると思ったからだ。


 席に座り紫都香さんに連絡を取る。


『お仕事中だったら申し訳ないです。お弁当凄く美味しかったです』


 スマホの電源を切ろうとすると通知が来る。


『喜んでもらえて良かった!!」


 紫都香さんもお昼休みだったのだろうか連絡がすぐに返って来た。


「この授業も一緒なんだね」

 

 二限目のデジャヴに似た何かを感じた。


「え……?」


 ワンピースを着た女の子が俺の隣に座った。

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