第9話 紫都香の嫉妬

 雪斗と話した後、その時勧誘していた他のサークルを見て回ったが俺に合いそうなサークルも雪斗同様で無さそうだった。


 雰囲気の良いほのぼのしたサークルはやはりと言うべきか人数が多すぎて馴染めそうには思えなかった。

 また少人数のサークルの方は勧誘中であるにも関わらずピリピリした空気を漂わせている所や鎖国でもしているかのように個人的な世界観に入っているサークルが多く、入りたいとは思えなかった。


 今週いっぱいはガッツリ勧誘期間であるが曜日によって勧誘しているサークルが変わる。

 他の曜日の勧誘ならもっと行きたいと思うようなサークルもあっただろうが心の中ではもう既に雪斗の作るサークルに入ることが決まりかけていた。



 その日の夜、紫都香さんはお風呂に入っているので煩悩を消すためにソファに座ってスマホをいじっていた時。

 別れ際に連絡先を交換した雪斗から早速電話があった。

 その電話の内容とはサークルの活動についてであった。


 仕事が速いなと思いつつ内容に耳を傾ける。


「……で、サークルの活動内容からするに、何でもサークルってことか」


『まぁそうなっちゃうね……だってサークルメンバーが心地の良く過ごせる場所を作る。ってのが僕がサークルを作る上で一番大切にして行きたいと思っている事だから……。皆の意見をサークルを運営する上で多く採用していきたい』


「サークルメンバーが月一で集まってその月に皆で何をしたいのかを決めて予定を埋めていくってことか。それってサークルである必要ある? 」


『確かにない、かも。で、でも僕と同じ事を考えていて、でも踏み出せない人っていると思うんだよ。その人たちがサークルならって一歩前に踏み出せるかも……』


「でも入ってほしい条件はあるんだろ」


『あるにはあるけど、雰囲気を壊さなければ正直良いかなって気もするし、それと大人数にならなければ良いかな』


「……分かった。俺も雪斗が作るサークルに入るよ。雪斗と話しているのは楽しかったし、そんな空気感を作れる場を作りたいって俺も思っちゃったし……これから協力するよ」


『ありがとう!! 悠』


「じゃあ最初に良い雰囲気を作れるように俺の友だちを誘ってみるよ」


 俺はそう言って電話を切った。


 電話の途中から薄々気付いては居たが、じーっと俺の方を見つめる二つの目を持った女性が真横にいた。彼女は寝る準備万端といった格好をしてソファに座っている俺の隣に腰掛けて来る。


「紫都香さん、身体当たってるんですけど……なんか距離近くないですか」


「今の電話って男の子なんですよね。女の子じゃないですよね。わたし嫉妬しますよ」


可愛いと思ってしまった。


「まだこれからどうなるかは分からないんですけどサークルを作る事になって、それで男友達とその相談をしてました」


 あの見た目なら女の子と勘違いしてしまいそうだけど、男って本人も言ってるし大丈夫、だよな……。


「分かった……」


 納得してくれたかと安堵していると突然紫都香さんは抱き着いて来る。

 お風呂上がりのいい匂いに頭がクラクラしていたが冷静になって紫都香さんの手元を見るとお酒を持っていた。


「今日はお酒飲んでるんですね」


「だって……わたしがお風呂から上がってこの部屋に入って来た時、悠くんが楽しそうに電話したから嫉妬して開けちゃった」


 今日はいつもの添い寝をするだけで満足な紫都香さんではないと考えるまでもなく一目見るだけで分かる。

 いつも以上に甘えたモードの紫都香さんがお酒を飲んでしまうと、こちらとしても理性を保つのに苦労する。


 仕事で疲れたのだろうか、帰って来た時に気づいてあげるべきだったな。昨日、ご飯の作り方を紫都香さんに教えて貰って、早速一人で夕食を作っている時に紫都香さんが帰って来た。

 マルチタスクなんて出来る訳もなく料理を作るのに集中していて部屋に入ってくる紫都香さんの様子を把握出来ていなかった。


 同棲が開始してから早一週間が過ぎて分かったことがある。紫都香さんは日によって情緒が変わるという事だ。

 会社から帰って来た時の声の大きさやトーンによって感情の起伏は変化する。そして俺はそれを察して紫都香さんに満足いくまで甘えて貰ったりしている。

 添い寝をすれば翌朝には元気になってくれるのだが仕事から帰ってくるときは大抵体力が削られている。その様子を見るたびに俺は紫都香さんの会社に対して不信感を抱いてしまう。


「俺もお風呂は既に入りましたし、寝る準備も整っています。もう寝ますか?」


 これ以上紫都香さんの甘えたモードには理性が耐えられないのですぐに寝ることを提案する。


「うん。寝よう」


 紫都香さんは俺の手を引いて布団の敷かれている部屋に向かう。


「おやすみなさい。悠くん」


 紫都香さんは俺に抱き着いて寝てしまった。相当疲れていたんだろうか……いつもなら手を繋いで寝るくらいで留まっているはずなのだが今日は身体を密着させて眠りに着いてしまった。拒絶する気はない。

 

 子どもの様にコテンと眠りこけてしまった紫都香さんを見て、ふと二歳下の妹のことを思い出してしまいつい頭を撫でてしまう。



 次の日。


「活動への参加は任意で強制じゃないから、本当に来たい時だけで良いからサークルに入らないか? 勿論バイトで忙しいのは分かってるけど……」


 俺は今、蓮をサークルに誘っている。

 良い雰囲気を作る為には俺がこの学校で最初に仲良くなった男友達が適していると思った。


「まぁ、日程を調整出来るのなら拒む必要はない……か。オレも友達を作りたくないっていう訳じゃないし。……よし! オレも入ることにするよ」


「まだサークル自体は出来てないけど、良い返事が聞けて良かったよ」


 男に誘われたから男を誘ったけど雪葉にも声を掛けてみてもいいかも……。



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