第三話:王女の特訓
私はとある夢をよく見ている。
こちらの世界に来てからも、夢という夢は全て現代日本と異世界が合わさったような不思議な夢を多く見た。特に気にする訳でもなく、ただの夢だと。
その原因は私がウンディーネの中に入ってしまったからか、元の世界の記憶と異世界の記憶が混在したから?人間の脳とは未知に満ちているなあ。
様々な夢はマーロウの地に東京タワー、恐らく異世界のどこかには富士山が。夢の中だから確かなものか分からないけれど、魔族が蔓延る地に日本のどこかにあるような城が建っている。あと・・・グリコの電子看板が隣国の首都に現れたりした。
道頓堀で食べ歩きしたいなあ・・・。
最近の夢はどうだった?と聞かれると、私が女王になる夢だった。
私が玉座に座って色んな人に指令を出したり、執務室で色んな書類の処理に追われている夢だった。夢だからもっと幸せなものにして欲しかったな、と愚痴を言ってもどうにかなる訳でもなく。
最後には必ずナガイマン王国が滅んでしまう、夢ばかり見ていた。
悪魔や魔族が攻めてくる時もあれば、世界大戦の勃発、あとは・・・空に大きな翼をもった生物が見下していただけの時も。
「ウンディーネ様、起床の時間です」
「んんん・・・」
「起きて下さい、ローザモンド様との稽古がはじまりますよ」
あれ、もう朝?
ソフィーは今日も冷酷な目で私を起こす、そろそろ慣れてきた。
城の使用人は、私が祈りを授からなかったことに対して「気味悪い」「可哀そう」「過去の行いの結果」など囁いているみたい。まあ陰口みたいなのは、異世界に飛ぶ前から体験していたので気にしていない。
「ウンディーネ様、身支度の用意をしておりますのでこちらへ」
ソフィーは何も言わず、顔に出さず・・・というかいつもクールな顔してるんだけど。淡々と仕事をこなしているなあ。
何人かのメイドさんも入室してきた、皆必要な用品を持ってソフィーの後に従う。
私は促されるまま、パーテーションの奥で着せ替え人形にされる。今日も熱いタオルで顔を拭かれたり、髪を梳かしてもらった。
何だか本当に王族になったような・・・あ、王族だった。
今日の・・・えーっと何時からだっけ?
「一時間後にローザモンド様が到着される予定です。ですので、すぐに支度を済ませなければなりません。朝食を摂っている暇はないかと」
ソフィーは直近のスケジュールを伝えてくれる有能メイド。
遅れたけど、おはよう。寝坊したため朝食抜きの王女です、今日も元気にやっています。
* * *
「サラマンダー王子殿下と剣を交えることになったんですって、王女様」
「そうなってしまったみたい」
私は城の拓けた庭で師匠と相対している。
これから毎日稽古かあ・・・身体が重い。
「ぷっ、勝てる訳ないじゃない。国王陛下も酷な要求をしてきたものね」
噂によると兄のサラマンダーは王国では最強。
無理では?と私は半年後の未来を視るように思っていた。まあ、きっと未来を視る力を制御できれば見れるのかもしれないけど。
私の未来視の力はランダム性があるらしく、その度違う未来を見せるのだと。
なので定期的に未来視の力を国王が見たがっているみたい。
ちなみに未来視の力を使う事は、前回城から抜け出した話のついでに試そうとした事を口を滑らせてしまった為、直接禁止されてしまっている。
そんな話はどうでもいいか、とりあえず師匠との稽古って何するんだろう。
「とりあえず、引き分けくらいに出来るまで強くしてください」
「そういうのは私を倒してから言ってちょうだい」
と師匠は言った瞬間に訓練用の木刀で襲い掛かって来た。
そんな事を予想もしていなかった私の無い胸を切りつけると、どんな馬鹿力なのか後方に飛んで行ってしまう。
「ど、どうして・・・・」
切り付けてくるなら事前に言ってよね、と言いたかったがそんなことを言ってくる師匠な訳でもないか。自己完結していると壁にぶち当たり、壁は陥没し、壁に挟まれて死亡した。
死亡間際に師匠は言い放った。
「このままだと王子殿下に秒殺されて、あなたは幽閉されるわ」
幽閉・・・そ、そんなの嫌すぎる!
衝撃耐性を手に入れた。
(激しい動揺や精神的に与える激しい刺激、ショックに耐性ができるよ)
いや、そっちではなく・・・。
* * *
私は魔法剣使用していいと言われ、「どうせ私には傷1つ付けることもできないから」と師匠にナメられた。文字通り、私は師匠に土すら付けることもできず切られ、殴られ、蹴られ、体内の血液を沸騰させられて何度か死んだ。殴打耐性はずっと貫通されているから普通に痛い。
これはもう拷問なのでは?と思うくらいに、師匠の案山子となり果てた。もはや王族というプライド・・・は元からないけど、手加減もして貰えず。
私は稽古1日目にも満たずにしてベソかこうとしたが、衝撃耐性でかき消されメンタル的には強くなった。でも痛いのは変わりはない。更に人間から遠のいていくような気がしていた。
擦傷軽減
内出血解消促進
外傷治癒促進
火傷無効を手に入れた。
ここで私は気付いた、死ぬ度に付加効果を得て、レベルが上がっていくことを。
ウンディーネ・ゼロ・ナガイマン 12歳 レベル:13 所持金:40万ルター
装備品:魔法剣【名無し】、転移の耳飾り
称号:半ケツのプリンセス 祈り:無
水の加護、未来視、殴打耐性、肛門痛覚無効、呼吸持久力アップ、魅惑耐性、滑り止め、摩擦抵抗、解熱促進、刺突武器マスタリーレベル1、擦傷軽減、内出血解消促進、外傷治癒促進、火傷無効。
この水の加護って身を守ってくれないのかなあ・・・、ただ水を自由に泳ぎ回れるだけじゃこの先困るんだけれど。でも死んで強くなれるのなら死んだ方が近道なのかもしれない、でも死にたくなーい!
師匠は私に話してくれた。
師匠の祈りは「世界」というらしい。手の内を晒すとは余程自信があるのか、優しさなのか不明。
師匠は世界に存在する攻撃性のある武器や剣技、魔法、知識あらゆる物を扱うことができる祈りらしい。なにそれ強すぎでは?
師匠曰く、人並みに使えるだけで強い訳ではないと話した。師匠は魔力量には恵まれなかったみたい。魔力量が多く要求される魔法は使えないとか。でもチートだ!
「とりあえず師匠をボコる戦法を考えるしかない!」
私は考えた、剣に纏わせた水をゲームでよく見る、飛んでいく斬撃。剣を振るうだけで出来ないかなあ。
初級風魔法「ウインドカッター」を水属性版にすれば、いけるはず・・・!遠くからパシパシいやらしい戦法に頼る!王族のプライドなんてなし!
名前はとりあえず「ウォーターブレード」にしておこう。唱えることなんてないだろうけど。
「さ、休憩は終わりよ」
「はい、師匠!」
むふふ、と何かを企む顔は封印、封印。私は至って真面目な王女です。
師匠は変わらず木刀を持ち、私は魔法剣を構える。
戦いの火ぶたは切って落とされた。
師匠は木刀で基本的に襲いかかってくる。
逃げようとすると駆け足で私に迫る。
大幅に逃げると魔法で攻撃してくる、これが師匠の行動パターン。
言った側から魔法か、実力なのか逃げる私に追いつく。
その刹那、私は転移の耳飾りを発動する。
魔力を注ぐだけで発動し、思ったところへ飛ぶから大変便利だ。
転移と言っても庭内を短く転移し、人の足では直ぐに追い付けない位の速さで距離を取った。師匠が人間なら成功なのだけど。
「そ、そんな技をどこで」
「ただ思い浮かんだだけですよ、師匠」
話をしながら剣に水を纏わせた。あとはこの水を飛ばすようにイメージするだけだ。
剣に水を纏わせたのを見て魔法が発動すると読んだのか、師匠は魔法の詠唱に入る。
詠唱省略とかいう卑怯技で初級火魔法「ファイアショット」の「ファイア」だけで発動してくる。
私は城から抜け出した時の経験で何だか身体が覚えている、無詠唱で発動できる気がした。
ファイアショットをウォーターブレードで相殺するどころか貫通し、ローザモンドに迫るが回避されてしまう。
前回は川のせせらぎや、さわさわと白く押し寄せる波、波のうねりがまくり合い砕け散る岸壁とイメージしたけど、今回はなぜかせせらぎ程度で初級を破る威力が出た。えーっと確か魔力量が上だった場合は勝つんだっけ。
初級くらいなら、もうイメージしなくてもいけそうな気がする。
「お、王女様?魔法を無詠唱で行使できるのですか?」
「え?何かおかしなことでも?」
「おかしすぎよ、そんな事できるのは祈り持ちでも数少ないわ!あとさっきの魔法はなに?」
あ。師匠のこと卑怯と言ったけど、私も人のこと言えたものじゃなかったね。
・・・案外魔法はチョロいのでは?
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