第二話:王女を下さい

「今日はディーネちゃんに会いたいと言っている子爵の方がお見えになるのよね?」

「ああ、私たちが見極めなければならない」


 何これ、お見合いでもするの?というくらい両親とも気合が入っているような服を着こなしている。

 ・・・私が知らないだけで、これが正装なのかもしれない。

 というか私も、いつもとは違う服を着させられたのだけど。


 私がウンディーネになってからも初めての玉座の間。

 その玉座の間には威圧感が物凄く、王国兵の列がなしている。


 玉座の間では、この国の紋章なのか。剣と杖が交差している旗が掲げられている。

 深紅の装飾や、見たこともないシャンデリア、大理石の床が国王を偉く見せている。実際偉いのだろうけど。


「まあ、ディーネちゃんに下心もなく会いたいって言ってきたのは初めてだわ」


 国王は王妃に謁見の経緯を説明するとキャッキャしはじめた。ノリがいつも軽いね、この人は。


 甲冑というか、鎧というか、その騒々しい足音が並んで聞こえてくる。

 大きな扉が開け放たれ、一人の兵士?が敬礼し入室した。


「謁見を予定していた、インダストリエマイスター卿が到着なされました」


 ヨハンを連れてきた兵士は隊列の最後尾に直った。その後ろからヨハンは緊張した面持ちで歩み、玉座から数メートルほど離れた位置で玉座を見上げるように膝をついた。


「名を名乗ることを許そう」


 国王はヨハンに対し、そう言い放つ。

 名乗らせなくても知ってるでしょ?と苦笑いしてしまった。


「ヨハン・エイト・インダストリエマイスター、登城の速達にて参上致しました」

「うむ、ご苦労」


 ヨハンは緊張のあまり、体調が悪そうな顔をしている。

 わかるよ、その気持ち。私もなんか緊張でお腹痛いし・・・。


「では本題に入ろう。そなたは何故、ウンディーネと謁見したいと申した?発言を許そう」

「は、国王陛下。まず、これをご覧ください」


 ヨハンは一枚の用紙を差し出すと、一人の兵士が受け取り国王の手に渡る。

 国王はその用紙を隅々まで読んでいる様子。


「私と、ウンディーネ王女殿下は契約を致しました。それはエアコンの1か月の売り上げの1割を毎月お支払いする契約でございます」


 わ、忘れてたああああ!私の不労所得!

 あの後も国王の手伝いやら何やらで日々過ごしていたもんね。城を抜け出す暇もなかった。


 一方国王は首を傾げ、「エアコン?」と名称を知らない様子。

 エアコン、この世界にないもんね・・・。


「エアコンとは魔力石製品で冷風・温風を作り出す物でございます。確か、王妃陛下のお部屋には設置させて頂いたと思います」


 え?そうだったの!?

 そういえば、王妃の部屋とか行ったことないもんなあ。


「あの便利なもの、ディーネちゃんが作ったの?凄いわあ」


 王妃は私の方に振り向くと、目を輝かせた。

 ま、眩しい・・・!

 でも作った訳じゃなく、改善案を出しただけ。


「王妃陛下の言う通り、とても便利な物でございます。国王陛下にもよろしければ献上致します」


 ヨハンは訂正の発言をする訳でもなく、商談し始めた。

 商売人は売るほうが大事なのかな・・・。 


「ふむ。だが、その話は後程にしておこう。それで報酬を払いたいから謁見したいと?」

「いえ、それだけではなく」


 ヨハンは息を飲む、今からの発言は無礼に当たるか、もしかしたら追い出される可能性もある。ヨハンの額には汗が滴る。

 少しの沈黙が流れて、国王と王妃は心配するような目でヨハンを見た。

 

 ヨハンは意を決し、真剣な眼差しで国王を見据え、発言する。


「国王陛下、ウンディーネ王女殿下を・・・下さい!」


「は?」

「は?」

「は?」


 国王、私、兵士たちは声を合わせた。突拍子のない発言すぎて誰もが驚いている、もちろん展示物の様に固まっていた兵士たちも。


「ああ、間違えました!!!申し訳ございません!!!」


 ヨハンは思い切り土下座をしている。おお・・・異世界にも土下座の文化があるんだあ、と謎の関心をし驚きから切り替えられた呑気な私。


「娘はやらん!!!!」


 国王は突如声を荒げ、立ち上がった。それを王妃は「どうどう」となだめた。馬かな?

 ヨハンは未だに頭を下げ続け、ビクビクと震えている。


「ヨハン子爵様は、きっとディーネちゃんを助手か助言者か何かに欲しいのよね?」


 王妃にはなぜか通じていた、何だこの人、心読めるの?


「ええ、王妃陛下の仰る通りでございます。ウンディーネ王女殿下を魔力石工務店のアドバイザーとしてお力を貸して頂きたく・・・」


 アドバイザー・・・。それって就職なのかなあ?どうなんだろ。この世界の似たような役職の人教えて下さい。

 ヨハンは返答を固唾を飲み待機している。


「ううむ。だが、ウンディーネには悪い話だが、この子は祈りを持たん」


 私は痛くも痒くもないけど、祈りを持たないってそんなに不利?私はよく分からないので話の行く末を見守ろう。


「それも承知の上です。もう話はおおよそ広まっているかと」

「では尚更、インダストリエマイスター卿、この子に何かあった場合は責任を取れるのか?」


 ああ・・・、店に何か不利益ではなく、私に危害が及ぶ場合があるのか。弱っちいからなあ。


「責任は取る必要はないのです、ウンディーネ様には傷1つ付くことはないので」

「どういう意味だ?」


 私も頭上に?を付け首を傾げた。恐らくみんな同じ気持ちかもしれない。


「とある物を用意しております」


 ヨハンは述べると、再び兵士が国王に何かを渡した。

 レイピアの様な物と、イヤーカフかな?


「これをウンディーネの為に作ったのか?」

「はい、その通りでございます」


 ヨハン自信作なのか、胸を張り答えた。


「それで、これは何だ?」


 国王は怪訝な顔をヨハンに向けると、ヨハンは商人顔か職人顔か分からないけれど面構えが変わった。


「まず、そのアクセサリー様なものは転移魔法が使えるようになります」

「転移魔法?そんな高度魔法がこれをつけるだけで?」

「左様でございます」


 転移~?めっちゃ便利じゃん!寝坊してもシュンって移動できるし!


「しかし、制約がありまして。一度行ったところでないと転移できません」

「まあ、それはよい。それでこの剣はなんだ?」

「それは魔法増幅機と刺突武器を合わせた魔法剣です」

「魔法増幅?この剣を持つだけでか?」

「左様でございます」


 さっきも同じやり取りしてたような・・・。


 この国王、絶対信じてないぞ。物凄く懐疑的な目をしている。

 まあ気持ちは分からなくもないけど、作った人がそう言うのなら信じちゃう私はカモです。


「一度王女殿下に使って頂いたら良いと思います」

「いや、まず私が使う」


 国王ははじめにイヤーカフを付け始め、レイピアを兵士に預けた。

 娘に危険が及ぶまいと、名乗り出たのだろうけど自分は国王だと忘れていない?大丈夫そ?


「ただ念じるだけです、行ったことのある場所限定になりますが」

「では、やってみよう」


 国王はどこを思い浮かべたのか分からないが、瞬時に姿を消した。

 それを見た王妃や兵士は「おお・・・」と感嘆の声を漏らす。

 その声が耳に残る間に、国王の姿はまた戻ってくる。


「まことであったか・・・」


 イヤーカフを外し、製品の性能を実体験した国王はイヤーカフを見つめながら呟いた。この製品については皆も信用したみたいだ。

 国王は兵士にイヤーカフを渡し、レイピアを受け取った。


「魔法増幅と言ったな?」

「ええ、仰る通りです。ですが、その剣はウンディーネ王女殿下にしか本領を発揮できないようにしてあります」

「制限を掛けておるのか。確かに悪用されると面倒なことになりそうだ」


 国王はおもむろに私の所まで歩き、レイピアを渡してきた。


「ディーネよ、この剣を振るうことを許可する」

「は、はあ・・・」


 急に剣を振れって言われても困るんですけど!?剣技を思い出せ私!一度記憶を漁ったでしょ!?でもレイピアを振るう行為は一度もやったことなかった・・・。


 あ、でも・・・私は手の甲を見て何度か握った。ステータスを見る動作。


ウンディーネ・ゼロ・ナガイマン 12歳 レベル:8 所持金:40万ルター

称号:半ケツのプリンセス 祈り:無

水の加護、未来視、殴打耐性、肛門痛覚無効、呼吸持久力アップ、魅惑耐性、滑り止め、摩擦抵抗、解熱促進、刺突マスタリーレベル1。


 刺突マスタリーレベル1が発揮されるとき!


 よくわかんないけど、とりあえず振ってみることにした。まあ、試し斬りだから適当でも大丈夫、大丈夫・・・と自分に言い聞かせ玉座から離れ、ヨハンの元へいくとヨハンは捌けて行った。


 何だか幼い頃にやったピアノ教室で初めてのコンクールを思い出す。嫌すぎて駄々こねて辞めたけどね。


 鞘から刀身を引き摺り出し、一度振ってみる。何だか、この剣をよく知っている気が、この剣の本来の力が引き出せるような不思議な自信が湧いてきた。


 身体が振り方を知っていたかのように、レイピアを天に突き上げてからゆっくりと目前に下ろしてくる。そうしてから、一度目の前の敵を想定して突く。

 次に左の敵を薙ぎ、そのまま追い打ちをかけるように右から振り払った。目前の足を刺すよう屈んで突き、隙を突くように首元を突く。


 こうした身体が覚えている剣技を披露しているうちに剣舞のようになり、国王や王妃、ヨハン、兵士たちも見入ってしまった。


 私は知らずの間に刀身に水を纏わすこともでき、剣舞で振り払うときは水を弾いている。


(私もびっくり、刺突マスタリーってこんな事できるんだ・・・)


 なぜか身体が振り方を、剣へ魔力の込めかたも知っているみたいで無我夢中でレイピアを振った。


 最後にレイピアで今できる、全力の高速突きをし、付着する血を飛ばすようにレイピアを振り鞘に納めた。


 その後になぜか拍手が巻き起こった、私はその音で我に返り驚いてしまった。


「ディーネに剣舞の才があるとは知らなかった」

「私もディーネちゃんがこんな芸を持っているなんて、向き合いが足りなかったのかもしれないわ」

「非常に美しかったです、殿下。魅入ってしまいました」


「勿体ないお言葉です」


 いや~照れるなあ。私もびっくりだけど。この剣なら身を守れそうな気がする。

 いそいそと、私はレイピアを国王に返し元いた位置に戻った。


「そなたの製品の性能は見せてもらった、予想以上だ。ディーネの努力次第では化ける可能性もあるかもしれないな」

「では、王女殿下をアドバイザーとして」

「いや、これ以降はディーネの意思を確認しなければならない」


 そう国王はいうとみんな、私に注目した。いや、そんなに見られても・・・。でもどうしたものか。ただアドバイスするだけならいっか~と楽観視している私。


「私のために、この様な物を作って頂いたことに報いなければなりません。ヨハン子爵様のご厚意に感銘を受け、私はこの方が為すことの手助けをしたいと思っております」


 ふう・・・、この回答でいいでしょ。王族としても王女としても、きっと申し分ない返答だ。王女として成長したなあ。多分。

 あのイヤーカフ、便利すぎて目が眩んだとか絶対言えない。

 ほぼ職場と家がどこでもドアで繋がったと同じじゃん!


「よく言った、ウンディーネよ」

「ディーネちゃんも成長したわ・・・」


 王妃は思わず涙を零してしまう。まさかこんな殊勝なことを言える子に育つとは思わなかったでしょう。自画自賛だけど。

 と思ったその時。


「だが、日々研鑽を怠ってきたウンディーネは恐らく弱い。というか絶対に弱い」


ギク。


「大変悩んだが、決心した。インダストリエマイスター卿の所に行く行かないに関わらず、ウンディーネには強くなってもらおう。そうだな・・・半年後、お前の兄のサラマンダーと剣を交えよ」

「えええええええ!?」


 何かのスイッチ押しちゃったよ・・・・。

 

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