第二章 王女成人編
第一話:王女の進路相談
「進路希望用紙に希望を記入して提出して下さい」
私が異世界に飛ぶ少し前、1枚の用紙が配られた。
高校に入ってすぐに次の進路なんて考えたこともない。
あの時なんて書いて出したんだっけ。考えても考えても何かになりたいとも思わなかったし、何の目的もなく進学して挫折し中退したくないとか考えていたような。
どうにも思い出せない。
「ディーネ、この先は何かしたいことはないのか?」
「うーん・・・」
礼拝式の翌日、いつもの執務室で公文書の代筆している。
国王はショートブレイク中に質問してきた、今後の進路について。
この国の進路は礼拝式を終えたあとに決めるのが普通だって聞いた。それは平民や貴族など関係がない。この時期、一年内に決め、受験や受け入れ先などを見つけ目途をつける。
しかし、受験したいと言えばすぐ受験できるのは便利だなあと思っていた。
「焦って決めることではない、一年もあるんだ。今すぐ申せという訳でもないからな」
国王は私が何かしたい事なんてない、と察していたのか落ち着いて話している。
少し前までは氾濫王女とか言われていたから、やりたいことなんて考えもしなかっただろうなあ。
祈りを持たないことに関しても悲観的ではない様子。
礼拝式を終え進路に関わる変化が1つあった。
それは、勇者の出現により勇者養成学校が不要となったこと。勇者養成学校は勇者の代わりになるような人材を育成する目的で設立されたから。
・・・といっても、祈りの持たない私は関係なかったか。
「勇者養成学校はどうなる・・・のですか?」
「ふうむ、それは悩んでおる。解体し、生徒たちを貴族院か学院に編入すべきか。そのまま運営し続けるか。勇者が出てきたのは喜ばしいことだが」
あとは云々、いつもの話が長いパートである。
長い長いお話しの途中、何度か意識が飛びかけた。
「もう面倒だから、そのまま運営すればいいのでは」
「それもそうだが、目的がない」
「勇者の従者にすればいいと思います」
「ほう・・・!」
国王は目を輝かせ、その手があったかと言わんばかりにしている。勇者になるのは無理でも従者は何人いても大丈夫でしょ、と思ったけど師匠が従者かあ・・・。無理では?
「こんな画期的な考えを持つとは・・・喜ばしいことだ」
「いや、そんな、割と単純なことです」
「謙遜することはない」
「しかし、」
「しかし、どうした?」
私の進路を相談してみようか?
今まで誰かに相談するなんてしてこなかったし、初めての試みだけど。一応は私の父親なんだから少しくらい甘えてみてもいいよね。
「私の、進むべき道が分かりません」
「ううむ・・・」
国王は珍しく暫く黙ってしまった。
祈りがないってそんなに深刻?
確かに弱くて、何度も死ぬこともある私は身を守る術は少ない。結局師匠との稽古もほぼしていないし、毎日師匠はここまで送って学校へ行ってしまう。
父親の示す道は、どういったものか想像もできない。もしかしたら追放もあり得る?王族の面汚し!なんて言われてポイと捨てられることもあるかも。
「そういえば、ディーネと面会したいと申す者がおってな」
話を逸らした!?
「は、はあ。誰でしょう?」
「エイト家、いや、魔石工務店のヨハン・エイト・インダストリエマイスターという者だ」
えええええええ?
どうして?なんで?あれ、あの時は身バレしてなかったよね!?
そんなふぬぬぬ・・・と悩んでいても解決する訳もなく。国王は怪訝な表情で見て来る。
「今までディーネとの面会を所望する者はいたが、魔力石製品の事で面会したいと言われるのは初めてだ。なので覚えていたが、お前はこの者に覚えは?」
私に会いたいって人っていたんだ・・・変わった人だなあ。
そんなこと考えてる場合じゃない、どう返答するか。答え次第ではぶっ飛ばされることもあるかもしれない。うーん、嘘をつくこともできるけど。
「ないようであるようでない・・・」
「どっちなのだ?」
「えっと、以前・・・」
結構前に城から抜け出した際に私が行ったこと、契約したこと、知識を売ったことを包み隠さず話した。
その話を聞いても「うんうん」と話を聞き続けている。予想と違う反応をしてくるので、拍子抜けした。
「城を抜け出した罰は既に受けて貰った。だからその事については終わった話だ。だが、街に繰り出していたとは誰も想像できなかったであろう。お前の身に何もなくてよかった」
国王は何よりも私の身に危険が及ばなかった、という事に安心していた。
王女なのだから本当の誘拐や監禁、身代金目的など色々な危険が潜んでいることを今になって知った。迂闊な行動だった・・・。
私は今更になって反省した。
「それで、魔力石製品の助言をディーネがした訳か」
「仰る通りです」
「なるほど、それでいくら貰ったのだ?」
「へ?」
「その助言を売ったのであろう?その対価はいくらだったのか、と聞いている」
「えーーっと、確か40万」
「よ、よんじゅうまん!?」
「これは多いのか、少ないのか・・・」
「はあ・・・お前、計算は早いのに」
国王は現在の市場、平民の年収、聖騎士や王国兵の給料について話をしてくれた。
私が売った修正案は、平民が3か月優に過ごせるほどの値段で聖騎士と王国兵の次官クラスが1か月丸々働いて貰えるほどだと。
それをたかがいくつかの修正点を教えただけで渡してくるなんて。
「それほど有益な情報だとは思ってもみなかった・・・」
「だが、ヨハン子爵はそれほど重要だと思ったのであろう」
「子爵様だったのですね」
「それも知らずにいたのか」
いや、だってそうでしょ。今までまともに外部の人間と会ったこともないんだから、私は情報を知らない。
「商人というのはな、貴族のなかでも腹の探りあいが激しい。でも恩を売っておけば何か助けになるかもしれぬ。コネを作っておくのも1つだぞ」
「は、はあ」
コネを作るっていったい、私が何を企むというんだ。でもあの程度の助言ならいくらでも出せる気がする。現代日本万歳!
自室にあるランプなんて、もう2・3段階くらい灯りを調節したり出来れば便利だと思うんだけどなあ、なんて思っていたし。
あとあと・・・。
「こほん、ヨハン子爵との面談は保留にしてある。登城の速達を出せば明日にでも面談できるだろう」
様々な他の修正案を考えていた私は遠慮しているかのように見えたのかも。
これから先、この城を追い出されるかもしれないし、自分の食い扶持を稼ぐ必要が出てくるかも・・・。
「では、ヨハン子爵様との面談を調整していただけませんか」
「うむ、私も同席する」
「え?」
どうして同席するんだ、もっとややこしくなるじゃないか。まあ、何だか思うこともあるのかな?娘が可愛いから、とか・・・そんな訳ではないか、もう来年には成人なんだし。
国王の父親心というものは察することも出来なかった。
そして国王もウンディーネの進路を悩む一人だった。
* * *
玉座の間が厳戒態勢のように、兵士が一列に並んでいる。
私は国王と王妃が座る椅子の横でビクビク緊張していた。
(いやあ、こういうの漫画とかゲームでしか見たことない・・・)
一方もう一人、額を汗で濡らす男がいた。正装に、整えた髪が少し乱れている。
ヨハンは真剣な眼差しで国王を見据え、発言する。
「国王陛下、ウンディーネ王女殿下を・・・下さい!」
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