第十七話:NPC王女
私は剣に貫かれて死亡したあと、気が付くと王城の台座で目覚めた。その場で待機していた、またしても何も知らない神官は驚き、「王女さまが蘇りなされた~」なんて宣伝カーみたいな真似事をされたせいで、てんてこ舞いになった。
貫かれたドレスは穴が空いている。迷惑な話だ、事故るなら一人で事故ってよね。
まあ悪気がないのは分かっているけれど、着替えとまた教会に行く手間が面倒ではある。
「どうして、こんな事に・・・」
なんて側付きのソフィーはボヤく。いや、私も知りたい。
ソフィーは走ってきたのか息を切らし、自室まで赴いてきた。もうちょっとゆっくり来てもよかったのに。
「この場で修繕するか、他のドレスに変える必要があります」
「しかし、この生地はあの店にしかありません」
「誰か、修復魔法を持っていれば・・・」
ソフィーはその場を取り仕切り、どうにか改善案を考えているがドレスを変えた方が早いのでは?と思っていたが、身なりはその家柄を表すとか何とか。タイヘンデスネ。
未だ終わっていない礼拝式に、既にウンザリとした気分でドレスなんて、どうだっていい思いの私。
「王女殿下・・・」
なりを潜めているのを知らないメイドさんたちは私の姿を見て、可哀そうだとか、大切な式で酷い目にあったことを悲観しているように見えたのか皆相当落ち込んでいる。私よりも。
着替えとか、行くのが面倒なだけで・・・。なんて言えないよね。
「さ、皆さん嘆いていても解決しません。取り掛かりましょう」
「はい、ソフィーさん」
「でも生地が・・・」
もうドレス変えよう?そうしない?
あと誰とでもいいから別日の礼拝式でもいいよ。と言える状況でもない。
「何だ、何か悩んでいるのか?」
唐突、国王が現れた。いや、なぜ来た。仕事中では??
笑いに来たのかな?
「国王陛下、発言をお許し下さい。礼拝式でウンディーネ様が」
メイドの全員、もちろんソフィーも膝を突き頭を垂れている。
「知っておる、聖剣で貫かれたのだろう?」
「おっしゃる通りでございます。それでドレスが・・・」
国王は私の穴空きドレスを見て、ふむう。と言った。
そのまま手を翳し、呪文を唱えた。
すると私の着ていたドレスは元の新品同然のように綺麗になった。
綺麗になったドレスを見てメイドたちは嘆声をもらす。
「これで問題ないだろう、礼拝式に戻れ。王族として胸を張っていきなさい」
「国王陛下、感謝いたします」
深々とメイドたちは頭を下げ続ける。国王はそれ以降何も言わず、立ち去ろうとする。ちょっと待って、私がお礼言うタイミングがない!
私は後を追い、廊下を歩く国王を呼び止める。
「父上!」
「どうした、ディーネ。他にまだ直すところがあるのか?」
私は父親という温もりに触れてしまい、どこかおかしくなったのかもしれない。
「私は、私のやるべきことを全うしてきます」
* * *
私が生き返ったり、ドレスの修復などをしている間に礼拝式も終盤に差し掛かっているらしい。
今思えば蘇生する時間ってどれくらいかかっているんだろう。目の前で死んだ人を見たことがないから、未だに分からない情報だ。
なんて馬車で移動している時間で考えていたけど、今日もだんまりウンディーネは知らなかったみたい。
再び礼拝堂の堂内に踏み入れると、私は注目の的だった。
死んだから?王女だから?両方?
「ウンディーネ・ゼロ・ナガイマン、登壇しなさい」
私の姿が現れるとラファエルに呼び出される。
ああ・・・私待ちだったのか。
壇上へ向かう階段をゆっくりと登っていく。これから人間辞めちゃうのかあ・・・と一瞬思ったけど何度も死に、何度も生き返って人間は既に卒業していたのかもしれない。
開き直ると気分はマシになった気がした、これで死ぬことが減れば人間味が増えるかも。
壇上でラファエルと相対すると、この女は何考えているか分からないような感じが伝わってくる。
「では、頭を下げなさい」
「は、はい・・・」
頭を低くするとラファエルは私の頭上に手のひらをかざす。今まで見た通り、頭上が光ると同時に全身が暖かく感じる。苦しくも痛くも痒くもないけど、何かが入り込んだような違和感があった。
「手の甲を見、そして数度握り締めなさい」
あの時は周りの声で聞こえなかったけど、指示していたのね。
私は言われた通りの作法に習い、実行する。
ウンディーネ・ゼロ・ナガイマン 12歳 レベル:8 所持金:0
称号:半ケツのプリンセス 祈り:無
水の加護、未来視、殴打耐性、肛門痛覚無効、呼吸持久力アップ、魅惑耐性、滑り止め、摩擦抵抗。解熱促進。刺突マスタリーレベル1。
なんじゃこりゃ、なんか出てきた!
今まで手に入れてきたものが全部書いてある。しかも私ってレベル8だったんだ・・・。所持金まで書いてある!まんまゲームだなあ・・・。
「祈りは何を授かりましたか?」
これって他の人からは見えないんだ。
自分だけが確認できるステータス。
誰かに見られる心配はないと・・・ふむ。
というか祈りが「無」としか書いてないんですが、何も授かってないんですが。
「何も、無、です」
「は?」
私が「は?」だよ。
「祈りが無、と・・・?嘘偽りなく話しなさい」
「いえ、事実です」
これはなんと・・・。
王女殿下は祈りがない・・・?
どういうこと!?
もはや恒例となったざわざわタイム。
噂好きの貴族の話題を攫うのは私だよ!この世界ではこんな不名誉な話題になりたくなかったかなあ。
そのあと、何度も頭に手を当てられるも光りもしなかった。
「ふっ、」
おい、今笑ったやついたろ。
ラファエルだった。
「すいません、祈りを持たない人間がいるとは思いませんでしたので。というか本当に人間ですか?」
「一応、人間のつもりです」
なんだコイツ失礼なヤツだな。人間に決まってるでしょうが、こんなか弱い可憐な少女の私が化け物な訳ないでしょう。
「
今、NPCって言わなかった?って顔をしたらラファエルが怪訝な目で見て来る。
「あなた、異世界の者では?」
ギクリ。
異世界人だと気づいた?でも異世界人ってバレたら、どうなるんだろう。今の私にはその類の知識はない。何だか今以上に面倒なことに巻き込まれる予感がした。
「そんな訳ないでしょう?私は、この国の王、ヴィルヘルム・ウルフ・ゲウィッセンハフト・アルス・ヨナス・レオン・マクシミリアン・フェリックス・ピリカ・ピリララ・ポポリナ・ペペルト・パイパイ・ポンポイ・プワプワプ・パメルクラル・クラリロリ・ポップン・プルルン・プルン・ファミファミファ・ペルタンペットン・パラリラポン・ポロリン・ピュアリン・ハナハナピ・ゼロ・ナガイマンとルサールカ・ゼロ・ナガイマンの娘です」
ぜーはーぜーはー。と心の中で息を荒げる。
国王の名前が長すぎて困る、何度も公文書の代筆をしていたお陰で暗記できていた。この時だけは国王に感謝!
というか私、出てくるときに「やるべき事を全うする」とか言ってこなかった?うわあ、恥ずかしい・・・。
「ふふ、そうだったね」
この人、こういう風に可愛らしく笑うことが出来たんだ。と失礼なことを思っていた。口調も何だか柔らかくなった気がする、今まで異世界人だと思われてた?
・・・考えすぎか。とりあえずひた隠しにしていこう。
私は神官に促されるまま降壇した。階段で、すっ転んでまた死ぬのはごめんだし、慎重に。私が降壇したのを確認したラファエルは宣言する。
「これで全行程を終えた、お疲れ様。これにて礼拝式を終了する。ピリカピリララ!」
「ポポリナペペルト!」
私以外は合唱しはじめた。なにこれ、おジャ魔女集団?
呆気に取られていると、周りの子たちはゾロゾロと退出しはじめた。この時だけは皆、体裁が整っているように見える。
この時の私はまだ知らなかった。この世界で祈りがどれだけ重要なものか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます