第十六話:王女と勇者の出現

 ラファエルが宣言を終えると一人ずつ名前が呼ばれるみたいだ。なんだか卒業式みたい。一人一人呼ばれて物凄い時間がかかる記憶がある。

 こちらの世界では当たり前でも、私にとっては人間を卒業する式かも。


「クラウス・ワン・アルコ」

「はい!」


 呼ばれたクラウスは大きく返事をし、登壇する。

 というか私に私怨ぶちまけてきた、クラ坊はクラウスという名前なんだ。まあ、もうどうでもいいんだけど。


 ラファエルはクラウスの頭に手をかざす。彼の頭上辺りが小さく光る。

 光ったあと彼は恐らく「祈り」を手にしたのか、どのような心境なのか分からないが、その宿る力を確かめるように手をグーパーしている。


 光ったの頭だから、手に宿ったのとは違うと思うのだけど。人の勝手だからどうでもいっか。


 彼は祈りを受け取ったのを確認したあとに、ニヤリと薄ら笑っているように見えた。うわ、このタイミングで横領した彼の父親の去り際の表情とダブる。 


 その後すぐに次の人の名前を呼ばれていく。

 何だかヒヨコの選別作業に見えてきた。これを何年も流れ作業しているんだ、この人たち。大変だねえ。

 私の順番は何番目なのか分からないが、何人かの子供が祈りを授かっているのをみた。


 とある一人の子供の名が呼ばれるが、耳を疑ってしまった。


「ライト・ツー・ベルガー」


「ライト・ツー・ベルガー!?」


 私は思わず復唱してしまう。


 どうしてここに・・・。


 私が初めてプレイした王道RPGの主人公の名前がライト・ツー・ベルガー。

 それと同じ名前だからだ。


 なぜこの世界に?今まで多忙で忘れていたけど、この世界はあの挫折したクソゲーの世界では?


 私がごにょごにょしている間に注目の的になっていた。


 その周りでは「王女殿下とお会いになったことでも?」「ライトは王女殿下と繋がりがあったのか」なんて様々に噂されている。

 一方的に知っているだけなんて言えないし・・・。


 そんなことを考えていると、1人の少年が近づいてくる。


 近づいてきた少年は、茶髪で目はグリーン。背丈は私より数センチほど高いくらい。容姿も某ゲームの主人公、幼少期の特徴と合致する。

 

「王女殿下、俺のことを知っていたのですか?」


 うわ、話しかけてきた!何だか有名人に出会ったときの感情に似ている。会ったことないけど。でもサイン下さい!

 

いけない、いけない。


「ええ、まあ、少々」

「それは光栄です」


 ライトは何故か敬礼を行うと檀上の元へと進んでいく。軍人か何か?

 彼が通った付近の子供たちは色々とお喋りしているみたいだけれど、貴族って本当に噂好きなんだね。


 某ゲームでのライトは小さな村の出身で、侵入してきたモンスターを討伐して、その後色々とあって勇者になっていく話だったけど・・・。

 まあ、わからないことをずっと考えていても仕方ない、彼は彼で私は私なのだから。


 そんな事を考えているうちに周りがざわつく。


「ツー家のご子息が『勇者』の祈りを賜りました!」


おお!

ついに出ましたか、勇者!いえ、勇者さま!

何百年ぶりなんだ?


 色んな言葉が飛び交って騒々しくなった。噂好きの子たちには注目するべき事案なのかもしれない。でも、有力な祈りは1つ減って焦ったりしないのかなあ?シークレットジョブなのでは。


 後方で腕組みをしていた一人の少年がメガネをクイっとしてボソボソと話している。騒音でうまく聞き取れないけど呪文??

 メガネクイクイし過ぎな感じがあるけれど、合わないのなら作り直した方がいいんじゃ?


 私はそんな早口の少年が何を言っているのか聞き耳を立ててみると。


「先代の勇者はおよそ200年前、第二次天使戦争のさなか突如出現した。虚の中へ潜った四騎士の1人が帰還した、剣聖の祖先や、正体は堕天使ではないか様々な説がある。出生は未だ解明されていないが、功績は多い。天使と人間の争いに仲介として収め、敵は魔族や悪魔であると停戦まで持って行った」


 なんだ、ただのオタクか。


「静粛に!」


 ラファエルが手を叩くと一気に静かになった。

 そういえば城内でエクスシアなんとかっていう人と出会ったけど、あの人もこの人と何か関係あるのだろうか。

 

 神官たちがぞろぞろと登壇しはじめ、教会の紋章が掲げられていた天幕を下ろしはじめた。その天幕を丁寧に回収すると、五芒星の文様が浮かんでいる。魔法かな?

 私は頭の隅で思ったことがあった。


「あの五芒星・・・見覚えがあるような無いような・・・」


 ラファエルが手をかざし、よく分からない呪文を詠唱すると五芒星は砕け散った。

 かっこいい・・・!


 その先には台座に刺さる剣が現れた。きっと誰にも盗まれないように幻惑の魔法とか、封印の魔法とかしていたのかも。(予想)


「さあ、勇者よ。この聖剣を引き抜くといい」


 ラファエルはライト改め勇者に剣を抜くよう促すと、勇者は台座に向かって歩き出す。その行く末を見守る私たちは蚊帳の外。

 勇者柄でもない私は悔しくないけど、皆はどう思ってるのだろう。


「先代の勇者はマーロウを旅の最終地点とし、剣を地に突き刺して姿を消したと言われている」


 後方腕組みオタクの声が段々大きくなってきた気がした。

 無視無視。


あれ・・・もしかして、この世界がクソゲーの世界だったのなら・・・。

 

 私は思い出した。この世界の主人公だった場合、台座から剣を引き抜くと事故で自身は剣に貫かれて死ぬんだ!

 でも、まあ・・・死んでも生き返るから、申し訳ないけど、勇者さんご愁傷さま。南無南無。


「さあ、ひと思いにやっちゃって」

「はい!」


 はい!じゃないよ、何「ひと思いにやっちゃって」って。


 勇者は剣の柄を両手で持つと引き抜こうと踏ん張る。しかし、すんなりと抜ける訳でなく力みすぎて顔を赤くしている。大変そうだね。

 ふぬぬぬぬ、と言っていたり。なぜか神官たちは勇者の腰を掴み綱引きみたいに引っ張っていたり。


 もう無理なのでは?


 と思っていた矢先、勇者は台座に足を掛け剣を引っこ抜いた。

 勇者は尻餅を突き、地面に転がった。聖剣は勇者の手から離れ、宙を舞う。皆は空を飛んでいる剣に注目している。


しゅんしゅんしゅん。


 音を立てながら飛ぶ剣は意思があるように、礼拝堂の上部中央に回っていく。注目していたはずの皆は、その場から離れて壁際に避難していた。

 いじめかの様に、私は中央で皆に取り囲まれている絵図。


「あ、王女殿下が」

「危ない!」

「キャーーーー!」



 悲鳴と共に私は剣に貫かれた。


ひと・・・思い・・・って、これかあ。


 周りからは駆け寄る人々の足音が聞こえる、貫かれた胸は熱湯を注がれているような感覚に、徐々に意識が遠くなる。この国には王女を守ろうとする勇敢な人はいないみたいだ。

 ごった煮の様な思考の中、私は死亡した。

 

刺突マスタリーレベル1を手に入れた。

(刺突武器が少し上手に振れるよ)


 聖剣に貫かれたお陰か少しマシなものが手に入った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る