第十四話:王女と王族裁判
「我が国には最高の会計士がおる」
案の定、その発言を聞いたアルコ公爵は怪訝な目をしている。もう文句を言いたくて堪らない顔だ。
「陛下、気は確かですか。盲目にでもなりました!?育児ノイローゼにでもなったのでしょうか。氾濫王女などに貨幣の価値の理解も、ましてや国費の算術など出来るはずもない」
うんうん、私もそう思う。実際、貨幣の価値も分からないのは当たってる。いいぞ、もっと言ってやれアルコ公爵!国王にガツンと言ってやって!そうしたらこの手伝いともおさらばだ~!
というか育児ノイローゼという名前、異世界にでもあるんだ。
「本当に、ウンディーネが算術をできるはずもないと?」
「まだ祈りも持たず成人をもしていない子供にできるはずはない!」
うん、見た目はおおよそ12歳、中身は16歳の子供だよ。合ってる合ってる。
「確かに、祈りも持たず、まだ12歳だ」
「でしょう!?」
国王はアルコ伯爵の発言に被せるように続ける。
「だが、お主の言う会計士はこのように算術ができると?」
ふと国王は、私が不要な裏紙に途中計算した、もはや落書き帳になっている用紙をアルコ伯爵に見せた。ただ計算しやすいように桁を省略したり、あれやこれやしているだけ何だけど。
それが何か、私が算数ができる証拠にでもなるの?
「これは・・・・」
「アルコ公爵。貴殿の言う、手が焼ける子供はこのように計算できるのだが。ワン家の会計士はこれよりも優れると。そうだとしたら、私の目は盲目だったのかもしれぬな」
私の落書き帳をアルコ公爵は握りしめ、それはくしゃくしゃになり破れそう。私のテスト答案を見られているようで恥ずかしいから早く返して。
「そして、」
国王は手のひらを天井に向けると、防諜役員のベルタがどこからともなく現れる。マジでどこから出てきた?
ベルタが差し出したのはアルコ公爵の帳簿、申請した公共事業費の用紙だった。それを見比べた刹那の時間で、国王は開口する。
「アルコ公爵。港湾の費用箇所、私は盲目で分からないから教えて欲しい。なぜ私の指示していない1隻分の設備費の予算を加えて提出したのだ?一昨日視察した際、私の指示通り分しかなかったのだが、どこに作った?過去の帳簿を見る限り、多く予算を取って懐に入れていたようだな」
「そ、それは・・・」
再び国王は、必要な書類を求めるように手のひらを掲げる。ベルタが国王に1枚の用紙を手渡す。受け取った用紙をアルコ公爵に見せながら返答する。
「私はこのように指示したのだがな、書面で。貴殿のサインもあるが、私の指示した総数と実際にあった物と合致する。もう一度聞くが、この余分の予算分の物は、いったい港のどこに作ったのだ?」
アルコ公爵はだんまり停止した。うわあ、これは詰みです。
「貴殿は横領の罪を、私の失態だと誤魔化そうとしたな」
「ち、ちが・・・!」
「何が、違うのだ?」
アルコは、私の途中計算した落書き用紙をぐちゃぐちゃにしてしまった。あー紙が勿体ない!!!今日の落書きさせてくれる用紙それが最後なんだから!
「クヌート・ワン・アルコ公爵。そして我が娘を愚弄したな」
「め、滅相もございません・・・聡明だと申しました」
「いや、それはいいのだ」
いいんかい!
「でも、」
少しの間、沈黙が流れた。き、気まずい。
「どれだけお転婆でも、怠惰な時を多く過ごしていようが、私の娘だ!!!」
国王は机をぶっ壊した。
大丈夫か、この国王。壊しちゃったよ。それ国民の血税では?
「我が娘のせいで私がミスを犯すと申したな」
「ひい、」
アルコ公爵には効果抜群だったらしい。腰を抜かしてブルブル震えている。
国王はそのまま、アルコ公爵に近づいていく。
「貴殿は横領罪と不敬罪が問われるだろう。晒し首を言い渡されることを覚悟するんだな」
えええ、晒し首?エグっ!この異世界に晒し首ってあるんだ。
「それだけはご勘弁を・・・!いやだ、いやだ、いやだ!」
アルコ公爵というか、容疑者かな?は、酷く取り乱している。まあ晒し首、きっと良い物ではないよね。想像しただけで分かる。
私は一度見たマーロウの地で自分の首が晒され、民衆が石ころをぶつけたり、晒されている首というか顔を脳裏に焼き付けている国民の表情を想像しただけで身震いしてしまった。
「ウンディーネよ、この者の刑罰を決めよ」
なんで私!?こんな重い決定を私が!?
いやいやいやいや、嫌だよ!?
「ウンディーネよ。この国の法律では、王族や貴族に対する名誉や尊厳を害する行為は犯罪。それが有罪だった場合は被害者が裁量する。勿論過剰な量刑だったときは改めさせる。貴族などは好んで裁判を行うが、望めば王命により非公開にできる。そして私が許可すればこの場で裁けるのだ」
貴族は裁判が好きで、害するものを晒すという名目で吹っ掛けることもあるらしい。己が偉いと見せつけるために。そして訴えられた側は惨めな思いに。
裁判は所定の場で行われ、静粛にしていれば誰でも傍聴できるもの。
非公開にできる王族裁判は、見世物にするのを防ぐ一種の許し。
「第26代国王ヴィルヘルム・ウルフ・ゲウィッセンハフト・アルス・ヨナス・レオン・マクシミリアン・フェリックス・パイパイ・ポンポイ・プワプワプ・パメルクラル・クラリロリ・ポップン・プルルン・プルン・ファミファミファ・ペルタンペットン・パラリラポン・ポロリン・ピュアリン・ハナハナピ・ゼロ・ナガイマンが命ずる、この場でクヌート・ワン・アルコ伯爵を裁け」
「くう・・・・」
アルコ伯爵はその場で脱力し、その命?首?はないものだと悟った。まさか、バカにしていた少女一人に生殺与奪の権を握られるとは思っていなかっただろう。
いや~別に、何とも思ってないし・・・。でも何かを課さないと、この国の王族としての地位が揺らぐような。
あ、そうだ。
「アルコ伯爵」
「はい・・・」
もはやアルコ伯爵には返答する気力さえ残っていない絶望を味わっているのかも、さくっと楽にしてあげましょ。
「今の地位を退きなさい」
「え・・・?」
伯爵は予想外の顔を向け、国王すらも驚いている様子。
え、だって偉い人の失態はだいたい進退で決めるでしょ?
国王はその場で、裁判の締めに入る。
「こほん。ウンディーネは貴殿に辞任の刑罰を与えた。家督は相応しい誰かに継がせることだ、アルコ伯爵、いやアルコよ。私は貴殿に期待し、指揮を任せていたのだが残念だ。兵士たちよ、城の外まで連れていきなさい」
「は、国王陛下」
部屋の外で待機していた兵士たちが入室する。そしてアルコを連れ出す。去り際の顔はどこか何かを企むような、憎しみを覚えたような表情をしていたのを見て寒気を覚えた。
アルコや兵士、いつの間にか消えていたベルタ。国王と2人きりになった部屋には無残にも壊された机、本や書類、破片が飛び散っている。
「こんな事になろうとは、散々な1日だったな」
国王は2人きりになりボソりと発言する。
本当に、変なことに巻き込まれた。
「ピリカピリララ」
国王は呪文を唱えると、破壊された机がみるみる再生していく。そんな魔法があるんだ・・・!私も覚えたい!絶対に役に立つ。
「ディーネよ、今日はもう下がりなさい。ゆっくり休むといい」
え、ちょっとまだその魔法習ってないんですけどーーー!!
私はドスとチャカに連れられ自室に戻った。静かにゆっくり休めるよう、一人にされたのだが。さっきの修復魔法教えて欲しかったのが切実。この無理やり魔力石を取ったランプが、故障してしまったから。
「そういえば・・・!」
私はベッド下から、もぞもぞと革のカバンを取り出した。中には大金が入っている、先日修正案を売った報酬だ。
あの後隠すのに必死だったから中身見てないんだよね。ぐへへ、大金、大金。きっと金貨がいっぱいなんだろうなあ。
カバンを勢いよく開けるとそこには。
「紙幣じゃん・・・うっそお・・・」
大金が入っているのは間違いないが、約束通り40枚の紙幣と大型の魔力石。
私は大盛りの金貨を想像してた。まさか異世界でも紙幣を見るとは。
紙幣の肖像人物は国王の顔、こちらをドヤ顔で見ている。
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