第十三話:身辺調査

 一昨日、私は工務店からやっとの思いで帰ったけど案の定、抜け出したことをチクられ大目玉を喰らった。一度死んだあとはずっと自室にてメイドちゃんの交代監視の元で再び軟禁され、次の日も軟禁され続けた。いったい何回軟禁されるの・・・。


 そして今日もまた国王の執務室にて手伝いを行っている。師匠はもちろん、学校へ行った。

 昨日のことを思い出しただけで歯ぎしりしてしまう。


 師匠は「ふっ、ざまあみろ」と言ってきた。不敬罪~~!死ぬのはごめんだから何も言い返せなかったんだけどね。


 何も口走らなかった一端は、こちらに来て悩まされていたウンディーネの自我と思わしき、勝手に喋る現象は今日も途絶えていた。


「手が止まっておるぞ」

「は、はい・・・」


 前回と同じで計算を永遠にしている、諸々にかかる防衛費や勇者養成学校の支援金、王立学院の支援金、貴族院の運営費、孤児院の運営費、教会の維持費などなど多岐に渡っている。


 計算はある程度できて国王もにっこり・・・はしてないけれど、まずまずの感触。やっててよかった公文式、なんちゃって。


 でもひとつ気になることがある。

 数年前の国費合算と今回の国費予算を比べると、設備費が1.15倍ほどになっている。

 去年は整備に力を入れたと言っていたから前回の合算は数倍になっていておかしくはないけど。この国って領土拡大とか、整地や設備修繕とかに力入れてるのかな。


「父上、国土設備費が数年前の1.15倍となってるけど理由は何かあるの?」


 まあ、貴族や王族といったら「父上」と呼ぶよね、確か。


・・・。


 え、答えてくれない?無視ですか?いじめですか?まだ怒って口も聞いてくれなくなった?


 ふと国王の顔を見ると鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 そんな悪いことを聞いた覚えないんだけど、ただの疑問だし。どんな理由なのかな~と別に国政にイチャモン付けたい訳じゃないよ。


「確かに不可解である。数年かけ莫大な費用を出し各村や林道・海路までの道の整地は済ませ、それの舗装も昨年終わっているはずだ。今年度は国道を補正、修繕に留めよと言ったのだがな」


 あとはうんたらかんたら、話がいつも長い。話し始めると長いんだから。あとは適当に相槌うっとこ。


「ふうん」

「この問題は調べるべき事案だ。もしかすると・・・」

「そっか~大変だね」


 なんてお気楽な返事、まあきな臭い話は子供の私には解決するなんて無理無理。今の私は幻の会計士にすぎないからね。幻の会計士・・・!なんて良い響き。


「ベルタ!」


 突如国王が叫ぶ。

 う、うるさっ。

 びっくりしてちょっと体が浮いたんだけど。ただでさえ声がでかいのだから注意してよね。

 すぐさま執務室の扉が開き人が入ってきた。来るの早。で、誰だっけ。


「陛下、なんなりと」

「アルコ公爵の身辺を洗え」

「は、御意に」


 そして嵐の如く、執務室から退出していった。忍者か何か?出ていくのも早い。


 さきほどの人は、国王直属防諜局の役人らしい。大丈夫?暗殺とかしてない?そんな国の闇の部分を心配しつつも、国王は国費表に指を指し叩いた。構わず手伝いを続けろと言いたいのかも。


 私は再び沢山の数字と睨めっこをし、膨大な桁のお金の勘定をしたが桁が多すぎてお金の価値はいまいち推し量れていない。ん~と、歳入は所得税19.9兆、法人税12.9兆、消費税19.4兆・・・って異世界でも消費税あるの!?また異世界感のないものが出てきた。国のお金の話なんてゲームにはないもんね~。


(ええ・・・。)


 異世界感のあるものを発見した、魔石金が32.7兆。

 って、32.7兆!?

 魔石ってそんなに儲かるんだ・・・。


 そして沢山の項目に、沢山の桁が並んでいた。


 最終的にも歳入・歳出を見ても私の頭脳ではお金の価値は理解できなかった。せめて余白にでも、りんご1つおいくらなんて書いておいてくれないかな。

 

 * * *


 私はそんな桁外れな計算や公文書の代筆のお手伝いを追え、肩がバキバキになる思いをしている。12歳の身体なのにおっさん化が進んでいるような・・・。


 気付けば日も暮れ始めている、途中お昼休憩やショートブレイクを入れてくれたりしたからまだギリギリホワイト企業。年齢はアウトだけど・・・あれ、この国の成人は13歳ということは来年には働くことに?いやだ~働きたくない。


「今日は精が出たな、どういう風の吹き回しだ」


 脳内で社会への不満をぶちまけようとしていたら、国王が話しかけてきた。とてもたどたどしく、仕事の話になると永遠に話すのに。

 もしかして娘との接し方を知らないのでは?


「私なりの誠意です」


 なんて思ってもないことをいう、だって手伝わないとぶっ飛ばされるじゃん。あ、パワハラ発見。

 ふと国王を見ると、なぜか関心というか見直したみたいな顔をしている。


「お前も、王族の責務を理解したのだな」


 はて・・・?そんな責務を背負った覚えはないけど。私には全然わかりません、そんな殊勝なことを私が理解できるわけがない。

 そんなことを思っているも国王の発言は続く。


「そろそろ礼拝式が近いな、お前のドレスを見繕う必要がある。少し背も伸びたのではないか?採寸にでも行くか」


 王族なのだから城に呼べばいいんじゃない?と、特権をフル活用する私なのだった。使えるものは使う!決して楽したいとかそんなのじゃないよ、ほ、本当だよ。


「次の休日は共にシリマヘン区のノーム通りに出向く」


 ・・・え?一緒に?めっちゃ目立つじゃん。逆にどういう風の吹き回し?国王と一緒とか絶対注目を浴びるに決まってる。でも、もう確定事項みたい。

 貴重な休日の期待は崩れ落ちていくのだった。


ガチャ。


その中、突如扉が開く。


 仕事を終えた両者、かたや私は憂鬱な休日を、国王はどのようなドレスになるのか想像をしていたところ。


 数時間前に防諜局の役人に調べさせていたクヌート・ワン・アルコ公爵がアポなしで訪ねてきた。その奥に見える兵士はとても迷惑そうな顔つきをしている。

 きっとこの人は警備兵にすぎないから、貴族の権力を盾に押し入ってきたのだろう。


「国王陛下、困ります。私の身辺を調査しているでしょう?私はやましい事を何ひとつしておりません」

「アルコ公爵、私はあなたと会う約束をした覚えはないが」


 国王は真剣な顔つきでアルコ公爵を見据えた。正論すぎてアルコ公爵は額に汗を浮かべる。


「しかし、陛下が調査員を派遣したのでしょう」

「その通りだ」

「どうして!?私は、陛下に忠誠を誓い日々公務を全うしております」


 アルコ公爵は、自分の働きはシロだから調査される覚えはないと言いたいのかも。身の潔白を証明しにきたらしい、今日の出来事なのに仕事が早いなあ。


「それは調査結果を見て判断する」

「帳簿を確認していたようですが、陛下がただ算術を間違えただけでは?そして」


 アルコ公爵は国王のミスだと言い始めた。いや、計算したの私なんだけど。


「王女殿下のおもりはさぞ大変なことでしょう。日々手を焼いていると聞きますが、会計士にうちの者を派遣してもよいのですよ。陛下は疲れているでしょうし」


 何か偶然に私のせいにされた。計算間違えていたら私のせいだけど、手を焼いているのは多分合ってると思う・・・。て、お守りって何よ!


「その必要はない、我が国には最高の会計士がおる」


 国王はおもむろに立ち上がると、私の近くまできて肩ポンされた。

 え?え???そんなものになった覚えはないんだけど・・・?あれ?

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