第十一話:マーロウの休日(中編)
王女の身分を隠し、マーロウの地を闊歩している。様々な人が行き交う大都会デビューを果たし、上機嫌に王都を見回っている。って紹介したかったんだけどね?
私は未来視の能力を確認できそうな、人が居ないところを探し続ける。休日のせいか、いつもこうなのか、どこにでも人がいる。
「犯人は事件現場に戻るって言うしなあ」
魔法の訓練を行った空き地には戻ることは出来ず、マーロウを徘徊している。その姿はまるで田舎者臭く、キョロキョロしていて不審者に間違われるのは時間の問題かも。
誰かに声をかけられようものなら「ひゃい」とか返事してしまいそう。
この世界では様々な種族が生活しているみたいだね。私はヒト族だけど。
ヒト族に友好的なのは亜人種、エルフ、ドワーフがいるみたいだね。この周りにいる種族を見る限りだけど、その他はどんな種族がいるんだろう。
(また気になることが増えちゃったなあ)
不審者に間違われないよう真っすぐ道を進むと広場まで出た。
広場には、小さな池の周りにベンチが取り囲んでいる。池の中心には時計台が設置してあり、大きな目印になっている。
「お待たせ、待った?」
「今きたとこ」
なんて言い合っているカップルもいる。
この場所は待ち合わせにも使われているみたい。とりあえず爆ぜて欲しい。
時計は午前8時59分を指している。お昼までに城に戻ればセーフでしょ。
「お嬢さん、ちょっといいですか」
「ひゃい」
色んなことを考えながら広場を通り過ぎようとしていたら、話しかけられた・・・!内弁慶気味の私は呆気に取られてしまい、口籠る。取って食べないで私は美味しくないよ。
タイミングよく時計の鐘の音が鳴り響く。意外にも音は大きく、私たちは苦笑いし「鳴りやむのを待ちましょう」とアイコンタクトを取った。
話しかけてきた男性は身なりは綺麗で、言葉遣いも丁寧そうだ。この世界での外見上で判別できる年齢が分かってきた私の見立ては20代。身長差があるから、威圧的にならないよう少し腰を落として話しかけて貰っている。
質問してくるってことは王国の人ではないのかも?
(あ、ヤバい。返答の脳内シュミレーションでもしておけば・・・!)
鐘の音が止んでしまった、内心バクバク心臓の音がうるさい。
「この近くに
魔石工務店・・・?なんですか、それ。私も知りたい。魔力石は知っているけど、ソレ専用の工務店なんてあるんだ。
作ったり、販売しているのは、いつも使っているランプなどの灯りとか、お湯が出てくるシャワーや沸くポット、念じて映し出させる黒い石板もそうなのかな?
それとも魔石を加工するだけのお店かな?どういうお店か、私、気になります。
魔石は魔物たちから排出した原型。
記憶を漁り済みの私は、この2点しか知らない。
私自身の疑問は置いておこう、この男性に対する返答をどうするか。素直に「知りません」と答えよう。落ち着いていけ、私。
「し、シリマヘン」
(か、噛んでしまった・・・!恥ずかしすぎる)
「シリマヘン区にあるのか。教えてくれてありがとうな、お嬢さん」
あるんだ、そんな区画。
道を尋ねてきた男性は別れ際に
まずい。シリマヘン区に魔石工務店がなかったら、あの人に嘘をついたうえに、国民でもない人に王族が嘘をついた事になる。
向こうは私を王族だとは思っていないけど。
でも、私の残された良心が痛む。人助けだと思ってついて行こう。間違っていれば素直に謝ろう。
そして気になるもんね、魔石工務店。
どんなものが置いてあるんだろう、便利アイテムとかあったら文字通り便利になるし。暮らしが豊かに楽に過ごせれば万々歳。入店する勇気はまだない・・・。ちょっと
「こっちの道に行ったよね」
さきほどの人が通った道順に沿い尾行することにした。
シリマヘン区、知りまへん。なんて寒いことを言う前に知っておこう。もう言っちゃったけど。
広場はどの区画にも行きやすいように、4つの入り口が設けられている。広場は木々など自然を取り入れ、花が植えられていたりし、人々の憩いの場として使用できるように景観を大事にしているのかも。
例の男性が抜けて行った方角へ進むと、ズラリと店が並んでる。
鍛冶屋に、薬師屋、宝石店、ブティック、なんでもある。美容室もあった。異世界感が薄まった気がした。
シリマヘン区の店が並ぶ通りはノーム通りと看板に書いてあった。
「じゃあ、ウンディーネ通りもあるのかなあ?」
でも今は確認に行っている時間もない、あの人が店にたどり着いたのか確認するのが優先。目移りする癖、禁止だよ、私。
鍛冶屋には国王といい勝負する巨人が軒下で涼んでいるし、薬師屋の前には
様々な店をウインドウショッピングしている場合じゃない、あの人か魔石工務店を見つけないと。何だか歩いて暑くなってきた気がする、でもこの布は取ることはできないなあ。王女だと分かったら色んな人が集まってきそう(妄想)
足も棒になってきたところで通りの終わりが見えてきた、もしかして嘘ついてしまった・・・?やっちゃったなあ、なんてしょんぼりモードの私。期待が薄くなっていくと足取りも何だか調子が悪い。
最後尾の店の看板にはしっかり「魔石工務店」と書かれていた。
「あったあった、良かった。私が案内した通りの場所にあって、偶然だけど。ってデカ!2階もあるのかな?」
建物が大きすぎて、最後尾にあるのは倉庫か何かだと思っていた。魔石工務店ってもしかして儲かるのかな?人影が店内にまばらに影を作り、お客さんも結構いそうな雰囲気。
そういえば、
「お嬢さん、何かお求めですか?」
高貴な服を身にまとう爽やかな男性店員と思わしき人が話しかけてきた。
店前でウロチョロと物色しすぎて客だと思われちゃったんだ。一文無しという事実がバレれば嫌な顔をされるに違いない。こういうときは・・・。
逃げるんだよー!
私はその場から立ち去ろうとすると、男性店員は私の手をがっちりキャッチしていた。いや、あの、その、離して欲しいな~なんて。
店員さんは客を離そうとしない熱意が感じられる。もうお金がないって正直に言ってしまおう。
「私、」
「とりあえず店内へご案内しますよ、さあ、さあ!こちらです」
チリン。
私の発言はかき消され、半ば強引に店内へと
「いらっしゃいませ」
入店すると当たり前に店員さんたちが働いているけど、みな爽やかに挨拶をしてくる。
(魔石ってもしかして高級品・・?)
客観的に私って身分高そうに見えるのかな?顔はグルグル巻きで目しか見えないけど、アヤシクナイヨ。
予想通り、客層も比較的平均年齢は高く見える。纏っている服装は、城内自室の窓辺から見る来客と似たように高価なものに見えなくもない。
「さ、お嬢さん。こちらはどうです?これは新商品でして、少々場所は取られるのですが・・・」
店員さんは来店すると一番最初に目に入る、重圧のある大きな箱を紹介しはじめた。確かに場所を取りそうだ。
その箱は目測でおよそ高さ30cm、幅80cm、奥行き27cmくらい。何この横長の箱。
「これを起動させると温風が出る訳です。冷えた身体も温めてくれますよ、冷えは女性の天敵だと言われてますから。入浴後にでも起動させるのもオススメですよ」
「エアコンだ」
「エアコン?ですか?」
(あ、やばい。咄嗟に口走ってしまった・・・!)
「こほん、こうして温風を出す訳です」
店員さんは怪訝な顔を向けるも、仕切り直した。変な疑惑を持たれなくてよかった。おもむろに手をかざし始め、その手からはオーロラビームみたいな熱波を出している。
ピッ。
魔力を感知したお陰か、箱からは温風が出てきた。今はちょっと私は暑いんだよね。どちらかというと、熱風オーブン感がある。
店員さんは、そうして自身の魔力を乗せて実演販売に切り替えてきた、私に買わせようとしているのがひしひしと伝わる。今の私は世間知らずの金なしウンディーネだから、そんなに販促されても困る訳でして、ねえ?
もう適当にいちゃもん付けておこうか。
「み、見た所、温風のみで?」
「はい、申し訳ございません。温風のみでございます・・・」
何か良い波乗ってきちゃった。
「冷風は出ないのですね。話を聞くかぎり、これは床に置くと想定された設計なんですね?この規格だと大きすぎると思います。他の場所に設置できる案を考えた方がいいと思います」
もうちょっと言って、モンスタークレーマーにでもなれば諦めてくれるでしょう。まあ、だいたい現実世界でのエアコンのことを「どうだったかな~」と思い出しながら適当に話してるだけ。
ハイエナの如く、客を見たら売りまくろうという魂胆を破壊してみせる!この店員が話す隙を与えるべきじゃないぞ、私。
「例えば壁掛けにするとか。あと、温風の度合いは調節できるのですか?温風のみだと日差しが強いときは無用の長物になるのではないですか?構造の話になりますが、デミクリスタルの装着位置は見た限り内部にあるようですが故障・破損・不具合が出た場合はどうするおつもりで?」
「お客様、」
「デミクリスタルへの魔力干渉を受けると、これは誤作動がおきるのではなくて?何かの災害や事故があった場合は安全装置はついていますか?」
「その懸念は・・・」
「それでこれは、配達・設置のサービスはございますか?」
(あ、これを言ったら買うみたいなものじゃん。やってしまった~~~!)
「お客様の仰る通りでございます。至らぬ所ばかりの物を商品に出すなど、この店の恥となりますので改良致したく思います」
ほっ。良かった。
これでカモにならず済みそう。現実世界での私は、コミュ障すぎて言われるがまま買わされたり、同じものを買ったり、それは悲惨なものだった。
でもよく言いくるめる事が出来たなあ、これもウンディーネの度胸が私と交わったのかな。
そういえば、今日1日勝手に何かを口走ることはなかった。自我が消えてしまった?私の中に溶け込んだ?今までの口ぶりだと暴言しか出なかったから助かるけど、どこか寂しい。
「お客さま、」
ハッとし、我に返る。
まだ私に何か用ですか!?もうさっと帰ろう、すぐ帰ろう、今すぐに帰ろう!よーいドン!
「先ほどの改良案を・・・ちょっと、お・きゃ・く・さ・ま」
走り出した私の手を深く握りしめ、私は逃げだすことが出来ず再び捕まるのであった。まるで一本釣りされる魚か何か。私はジタバタ抵抗するも、非力すぎる腕力では敵うはずもなく・・・。
やいのやいの言っている間に、店員さんは何かを叫んでいる。
「お客様、先程の改良案を売って頂きたいのです!」
「へ?」
周りのお客さんに注目されていて恥ずかしいんだけど、あと手を離して欲しい。
「ですので、奥の部屋へ!」
「うわあああああ誰か助けて~!」
もはや私は何度、拉致されるのか。
会計口の裏側にある個室へと連れ去られてしまった。
・・・私って何のためにこの店に来たんだっけ。と思った鳥頭の私。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます