第六話:半ケツのプリンセス

 みんな驚かないで聞いて、この世界には魔法が存在するんだ。


 地脈に魔力エーテルが流れ、空気にも微量ながら含まれている。それを呼吸し体内に蓄積しているようだ。誰しもが魔法を扱える可能性を秘めている。


「身体強化を使ったの?」


 私は今、師匠から疑われている。そんな物使えてたら何回も死なない。今頃後頭部強化したり、直腸強化してるし、カビから守っていたわ!


「どうして死ななかったの?」


 弟子を殺そうとするな。この殺人鬼!なんて言ったら何されるか分からないからな。ここは落ち着いていこう。どこに死亡イベントが潜んでいるか分からない。


「私も日々成長するんだ!」


 異世界に来てから死んだ覚えしかない。今までに手に入れたものは殴打耐性、肛門痛覚無効、呼吸持久力アップ、魅惑耐性。今のところ殴打耐性しかまともなの無いじゃん。貫通されたけど。のびしろがあまり感じられない・・・。


「毎日死んでばかりじゃない」

「ぐう・・・」

「ぐうの音って出るのね」

 

 何も言い返せない。そこで助け船が!


「ディーネちゃんは確かに毎日死んで、最大1日23回死んだことがあるけど。毎日成長しているのは確かよ。昨日なんて3回しか死んでないんだから!」


 胸に豊満なバランスボールがぷるんと揺れる。3回も死んでるじゃない!ウンディーネいったい平均何回死ぬんだ。不幸体質なのかバカなのか、死にたがりなのか分かんないけど、私はバカに1票。


「お、おお・・・」


 あの師匠が狼狽えている。この師匠絶対バカだ。この環境でやっていけるだろうか、私は急激にやる気が失せてしまった。さっきまでのやる気はどこへ?誰かやる気スイッチ押して。やっぱりやめて、死ぬかもしれない。


「でも礼拝式を迎えれば、きっと変わるかもしれないわ」

「礼拝式?」


 母親が聞き覚えの無い式名を出す。なにそれ、新たな死ぬイベントが事前に予定されているみたい?有難迷惑この上ない。


「来月の礼拝式でディーネちゃんも祈り持ちプレイヤーになるのだから、きっと何か変わるはずよ」


 この世界では魔法・剣術以外にゲームでよくあるスキルみたいな物が祈り。私が貰えた時に祈りたくないし、めんどくさいから私らの中ではスキルでいいよね。


 祈りスキルはどんな効果をもたらすのか受け取らなきゃ分からないらしい。強いものを引き当てるは運。それでも2つ手に入れる豪運の持ち主もいるとかいないとか、年末ジャンボか何かかな。


「ま、この子姫様には碌なもの手に入らないだろうけど」

「最初から決めつけないで!」


「ああん?」


師匠が弟子をいびりはじめた。というか不敬し過ぎでは??


私は殺気か、何かを察知した。

 私、成長したな。師匠は私の顔面に向け高蹴りを決めようとしていた。もう死ぬのはごめんだよ。


 さらりと避けるも床に敷いてあったカーペットに足を滑らせ、テーブルの角に後頭部を打ち付けた。はしたなくスカートが捲れ上がり、可愛らしいパンツを晒す。

 そして、腐ったジャガイモが口腔内に広がる思いをしながら死亡した。


あれ、この感覚、どこかで・・・忘れた。何でもいいか。もう死んじゃったのだし。


 恒例の天空に舞い上がり、私は城の中を見下ろす。

 師匠が私の死体蹴りをしているのを見た。母親は止めてよ!


「くう・・・今に見てて、礼拝式でゲフンと言わせてやるから」


 私が師匠への下剋上を心に誓うと女体へと吸い込まれた。


死因:急性硬膜下血腫


滑り止めを手に入れた。

(難関大学受験と併願しよう)


「もっとマシなやつちょうだい!」


 私は再びやってきた台座で目を覚まし、第一声がこれだった。待機していた神官は迷惑そうな顔をしてこちらを見る。

 私も何回も死んで、私自身も迷惑なんだよ。わかってくれる人は・・・いるはずないか。


「あらあら、ディーネちゃん。今日はお父さんのお手伝いをする日でしょう?」


 そんなことより、娘が死んでるんだ。少しは心配して。と、一瞬思ったがこれがウンディーネの日常なんだなあ。もはや1日で何回死ねるかギネスに乗るのでは。アチーブメントもぽーんと取れたり。


 そのような不名誉極まりないものあったら、生きていく上で邪魔で仕方ないかも。称号なんていらない。


「ディーネさま起きたんだ。じゃ、私は学校行くから」


 冷酷な師匠は私が起きた途端に、舌打ちしてやがった。私でなきゃ聞き逃さないね。フン、といって謎のドヤ顔を師匠に向けるが既に去ったあとだった。

 本当に何しに来たの、もう来ないで。


「ディーネちゃん、お手伝いに行きましょ。またお父さんに怒られてしまうわ」


 別に死にたくて死んだ訳ではないし、というか死にたくない。少しは労わって欲しいなあ・・・もう心が折れそう。


 ブツブツと心の中で文句を垂らしている。

 その私は母親と共に国王の執務室へ向かう途中、突如として現れた人に話し掛けられた。


「もしや、君は・・・!」



 何だか周りより派手で、神々しい装飾を施した際どい薄着を着ている銀髪の青年。

 話しかけられようとも、そんな事知ったことではない。

 

 私は忙しいんだ、この世界の情報収集をやらなければ生きていけるか危ういんでね。というか、誰かと関わると今のところろくなことがない。


「なに?」

「おい、エクスシア様に無礼であるぞ」


誰?エクスなんとか様って。

私は姫であるぞ!不敬罪!


 傍にいた下っ端そうなヤツが、私を睨んできた。

 先ほど死んだばかりで気が立っていた私は不機嫌そうに見返すと、ルサールカが頭を地面の絨毯にグリグリ~と押し込んできた。


死ぬ死ぬ死ぬ!!!やめて私の身体はガラスで出来ているんだから!


「うちの娘が申し訳ありません、能天使エクスシア様。利用禁止だけはご勘弁下さい・・・」


 このエクスシアっていうのは、そんなに偉いの?ただ派手なだけで変態じゃん。私はグリグリと地面にめり込む頭を傾げ、横目で見てみるも怒っている様子ではなく物珍しい動物を見る目だ。やめて珍獣じゃないよ。


「いやいや、私は彼女に会ってみたかったんだよ。頭を上げてよろしい」

「は、エクスシア様」


 お許しが出たみたいで、母親の手が緩む。ドットダメージみたくゆっくりと死に際を体験するところだった。言ったそばからこれだよ。


「ふむ、なるほど真珠と呼ばれるまではある」


なんだこの人、初対面で人の顔をまじまじと見ないで。恥ずかしい。


「そなたに称号を与えよう」


「う、うちの娘にですか!?」


 やや沈黙が流れ、ルサールカが酷く狼狽えている。

 周りの神官共もざわざわと騒ぎ立てる。え?称号ってそんなに凄いんですか?

 これで何か力とか、死ぬことが減れば万々歳だ。でも、なぜ私?ま、長い物には巻かれろということだし、有難く頂こう。単純だな私。


でもここから私は覚醒するんだ!


能天使エクスシア、カマエルの名において称号:半ケツのプリンセスを授ける」


ふわわーんと眩い光が私に立ち込める。何やらこれで称号とやらが私に手に入ったみたいだ。何だかはんけつがどう、とか。そしてポップアップが出る、なになに。


称号:半ケツのプリンセスを手に入れた。

(半ケツ状態のとき、あらゆる状態異常を無効化する)


ふっ、ふざけやがってええーー!!


 私は今にでも人間から暴走機関車にでも鞍替えしそうな勢いだ。エクスシアへ向かって取っ組み合いでもしてやろうか。と思ったそのときにはもう、母親に再び地面に頭を擦りつけられ頭を下げさせられている。

 さっきの長いものに巻かれろは無しだ!フンフン、と鼻息を荒くして後ろ足で地面を蹴りつけるもルサールカは思ったより馬鹿ほど力がある。


「興味深い死に方であった。肛門に枝を刺して死んだのは君が初めてだったのでな、この称号は君に相応しいものである。兄のようにしっかり励めよ」


 そう言い残しエクスシアはお供を連れ帰っていった。あのクソめ、絶対許さないリストに加えておこう。1位は師匠。


「良かったわね。ディーネちゃんが称号を貰えるなんて」


 私はその声が遠くなっていく意識の中、全然よくない。と思いながら再び死んだ。しかも我が城の廊下の途中で迷惑な話だろう。私も迷惑。夫婦揃って力ありすぎ。



というかあの人?は何故、私たちの城にいて、私たちが頭を下げなければならない?



 まあ何でもいっか・・・。もうこれ何回目だよ、と地面に血が滲み出ている私の身体を見下ろしている。

 ルサールカは喜びのあまり私の身体を抱きしめているが、それは死体だよ。そうしているうちに女体へと吸い込まれた。


死因:外傷性脳損傷


摩擦抵抗を手に入れた。

(スキーやスノーボードで役に立つ)


またつまらぬ物を手に入れてしまった。

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