第三話:マイネームイズ
ドンッ! と鈍い音と共に、ふと気づくと私は尻もちをつき、その目前には少年が仁王立ちしている。仁王立ちしている少年に急に殴られた。私は無意識に頬を手で抑え、口腔内は血の味が広がっていく。そう思っていると不思議と頬の鈍痛が増していく気がした。
「痛・・・私、何もしてな・・・い」
天井が揺らいで見え、そして私は死んだ。死因は頬を殴られ、倒れた際に後頭部を強打し頭部外傷を起こした。
外壁に頭部を打ち付けた惨状の見た目は、それはそれは凄惨な有様になっている。読者サービスの脳漿でございます。
私のことを殴った少年はトラウマになるだろうね。遠くなる意識に「ウン・・・」「ウン・・・」と身体を揺らされるが、そんなにウンウン言ってどうしたんだろう。
気付くと私は自分の死体を見下ろすように天へと昇っていく。短い人生だったって、短すぎ!? 異世界にシュンと来てドンとされ終わり!?
天に昇っていくうち、周りに羽が舞い散り、大きな翼が現れると巨大な女体に吸い込まれていく。
何か叩きつけたい、八つ当たりの感情も徐々にどうでも良くなっていく、これが死?
もう身を委ねても良い。私は女体に吸い込まれてしまった。
殴打耐性を手に入れた。
(殴られても痛くはないよ)
テレンと軽やかなSEと共にポップアップが浮かんだ。
ナニコレ。
* * *
ウン・・・。ウン・・・。
ちょっと今何時だと思ってるの?私はぐっすりお休みタイムなんだから邪魔しないで。
目を覚ますと神殿のような間で、その部屋のなかにポツンと台座が存在感を放つ。その上で寝ていた。その目前には私を殺した少年が仁王立ちポーズで再び立ちはだかっている。
「シルフにまた嫌がらせしたお前が悪い」
シルフ・・・?はて、何のことやら、私はイジメなんかしないよ。
というか、私、死んだはずでは?
私は目線を左右に動かすと、少年の裏に、隠れている少年が顔すらも隠してしまった。ねえねえ、見ただけで嫌がられるとはそんな凶悪な面をしてた覚えないんだけど。
何のことか分からないという顔つきをしていると、目前に立つ少年がキッと睨めつけきて視界に迫る。
「おい、どうしたいつもの威勢は」
いつもの威勢ってなに、私は誰ともファイティングしたこともヒャッハーしたこともない。そんな面倒なことしたいとも思わない。というかいつもはコソコソと聞こえる陰口のようなものくらい。
「ウンディーネ・・・」
私の肩をゆらゆら揺らし、私の後ろに隠れていた小物臭がする少年が言っている。ウンディーネ・・?はて、何のことやら。これさっきも言った。状況が呑み込めない、何かの隠語?四大精霊の1人だと思うけど。
チラと覗く少年の目には恐らく泣いたであろう、目を赤く腫らしていた。私がこのシルフという男の子に嫌がらせ?そんなことした覚えはない。
「ドス、ウンディーネがおかしい」
「チャカ、ウンディーネを連れて行くぞ」
ドスとチャカなんてどんな名前なの。極道小説にするつもり?そんな事を考えているうちに私のチャーミングなお尻を地面に擦りつけながらも、引っ張られていく。
「おい、ウンディーネ逃げるな!」
「ノーム兄さんもういいよ」
私を殴ったと思われる少年の名前はノームという名前らしい。また精霊の名だ。
「二度とシルフをいじめるんじゃねーぞ!」
ノームが叫び、2人は遠ざかっていく。廊下が伸びているのかも。
そこを全力で引き摺られるのだから、私のお尻に絨毯が擦れたりで摩擦で痛い。ドスとチャカは私の脇辺りを持ち、引き摺り続ける。しばらく進むと私の履くスカートめくれ上がり、摩擦で徐々にパンツが下がっていき半ケツとなった。私の肛門様が危ない。
私は脇を持たれパンツを戻そうにも手こずってしまう。手で直しきれず、布のガードがなくなり私は痛みに耐えきれず涙を浮かべる。
ふと、そこで花瓶の手入れをしているメイド服のお姉さんがいた。パチンと枝を落とす、それが私の元まで転がり、その枝が私の肛門を刺す。
肛門様に刺さった枝が道を進むたびに深く刺さり続け、直腸の串焼きが完成しそうな激痛が走る。
そして私はショック死してしまった。
再び上空に私が昇り、死体がひたすら引っ張られ進んで行くのを眺めることしか出来ず。よく観察してみると分かることがあった。それにしても、これは精神的にくるものがある。考えるだけでお尻が痛い。
今更だが、身体が縮んでいる。
私の服装は歴史の教科書で見た、中世ヨーロッパのドレス姿に近い。
ケツ刺し移動中、絵画に付けられていた題名が見たこともない字。
再び巨大な女体が現れ吸い込まれはじめる。
「思い出した」
この演出は前にプレイしたクソゲー、そのまま。死んで死んで死にまくるクソゲー、よりにもよってこのゲームか・・・。でも、と思ったときには女体に吸い込まれてしまった。
肛門痛覚無効を手に入れた。そして再び鳴るSEとポップアップ。
(痔になったときに役に立つのかもしれない)
「やったーーー!私は来たんだ!」
今の所は散々な目にしか遭っていないけれど、ここは間違いなく異世界だ。
私は天に手を上げ、私の声が神々しい間に響く。待機していた神官がギョッとこちらを向く。そんなこと構っていられない。色んな冒険を想像すると、ムフフと胸を躍らせるとドスとチャカが見つめ合っている。
「ドス、ウンディーネがおかしい」
「チャカ、ウンディーネを連れて行くぞ」
ドスとチャカの2人は上機嫌の私を再び引き摺り、廊下を駆け抜ける。すれ違う人たちは、みなメイドや執事服を着ている。
そして当たり前に不思議そうに見ている。その様な状況でも人目を気にせず私は異世界での新しい生活にどこか期待している。何度も死んじゃうけど、匙を投げた異世界でも。生き返るなら大丈夫か、と楽観的にいた。
よし、肛門様は守られている。でもお尻自体は痛い。
ふと合点がいった部分があった、私の名前はウンディーネなのか。
* * *
ズーーーーーーーと音を響かせ数メートルを移動し、正確には移動させてもらったのだが。私は剣や盾、弓矢がショーケースに入っているゾーンまで連れられた。
これもRPGとか漫画で見た武器…?なぜここに連れて来られたのか、私はそのまま座ったままで呆然と見ていた。まさか…。
復讐?どっちに?少年に?枝に?
「武装してやり返すつもり!?そこまでやらなくても良いでしょ」
私はドスとチャカの2人の説得を試みる。すると2人はお互いを見つめ合い、互いに何かを決心したかのように。
「ドス、ウンディーネがおかしい」
「チャカ、ウンディーネを教会まで連れていくぞ」
君らの会話パターンは1つだけなの?ツッコミを入れながらも、2人は無理矢理、私の脇に腕を差し込み連行されるように移動を始めた矢先。
「どこほっつき歩いてんだウンディーネ!!!」
誰だほっつき歩いて怒鳴られているのは。ぷーくすくす。あ、ウンディーネは私か。
ガラス貼りの武器ショーケースの隣に存在した扉がぶっ飛び、そこからは巨人が現れた。その姿は靴までしっかり磨かれスラックスは折り目正しく、装飾は派手で紅のマントまで羽織っている。
形相は般若の如く、血管は浮かび上がり今にもはち切れそうだ。
ドスとチャカは私を連行しようとするのを辞め、私を易々と売り渡すようにその場で置き去りを企む。そんな薄情許せないよね?
そう思った私はドスとチャカの足を掴み、立ち去るのを阻止する。
「ねえ、ドスとチャカ、私らは友達なんだよね?」
「ドス、ウンディーネがおかしい」
「チャカ、ウンディーネを置いていくぞ」
やっぱりこの子らテンプレで話していない?このバリエーションの会話しか今のところ聞いたことがない。怪訝そうに私は2人の顔を見やるも、何故か2人の表情は恐怖に引きつっている。
「ウンディーネ!!!」
「はい!!!!」
咄嗟に私は正座の体勢に入った。なぜ?体が勝手にこの態勢を望んで、動こうにも微動だにしない。私に正座の趣味はなかったのだが。
ドシ、ドシ、と重みのある足音が近づくと思っていたら私は容易く持ち上がる。首根っこを巨人に摘ままれていた。
「ドス、チャカ。下がれ」
巨人が2人に対しそう告げる。私は担ぎ上げられると疑似的玉ヒュンが起き、その感覚に唸るも巨人は何のリアクションもない。私はそのまま何もできず、ドスとチャカが遠ざかっていく。
ドスとチャカはどこか申し訳なさそうにこちらを見ている。こっち見んな。その顔をするなら最初から置き去りにしようとしないでよ。悪態をつくも巨人の怪力どころか、私は何故か抵抗する気もおきなかった。これが諦めなの?
そして私は巨人に拉致され、扉の奥へと連れ込まれてしまった。
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