第二話:夏休みのしおり

「XXXX年7の月、空から恐怖の大王が降って来る。いわば、今月のことであります。

空軍の大艦隊、異星人、天体の衝突、核戦争、隕石の激突、山の噴火、人類滅亡なんて様々な説がありますが。私は空から怪獣が降って来ると信じております」


 街頭の小型TVから流れる音に耳を貸してしまったが最後、今はオカルトブームでワイドショーでも多く取り上げられたり本屋で立ち読みしに行ってもその手のベストセラーが面陳列、平積み様々な手法のレイアウトで書籍販促されている。

 そんな大昔の占星術師が予言したものが、今月起こるらしい。


 そんなバカげた事を誰が信じるんだ、予言集なんて誰が買うか。私はそう思うも、ノストラダムスの大予言を片手に持ちながら帰路についている。なぜだ、本屋の販促は凄まじい。



「私に関係あります?」


 クラスメイトや妹が消えたあと、私は警察の現場検証やら事情聴取などで拘束。私の不真面目な対応や積極性の無い発言で長く時間を取られてしまった。

 というか、私が教室での神隠しのトリックなんて分かるはずもないよ。迷惑だと考えるのであれば、私の妹とメガネが消えたこと。あの変質者め。そして、皆連れていくなら私も連れていけ、とヤケになっていた。



「あの変質者は、この予言の前兆?異世界がどうのこうのって」



まさか。


 明日からは夏休みだし、目いっぱい休みを謳歌するぞ。未消化のアニメをこそこそ観るのもよし、コンビニに漫画立ち読みしに行くのもよし。

 私が異世界に行けるような力が眠っていると思う?ないない。


グチャ・・・。


 不快な粘着物を靴で踏みつけた音が耳に残る。犬の糞を踏みつけてしまったみたいだ。最悪なウンを付けた。幸運が付けばどれだけ嬉しいことか。

 メガネがなくなってしまった為、足元が疎かになっていた。私は最悪な精神状態で夏休みの自堕落な計画を立てながら帰宅したのであった。



 私は帰宅し、夕食や入浴を済ませる。両親はいない、妹が消えたというのに仕事を優先した。3人の兄たちはとっくに就職し、実家からは出て行った。

 

 学生の夜というのは優等生であれば課題を進める、または自習などを行うのかもしれない。その様なことを私がやる訳はないし、そんな事で時間を使いたくない。この謎の因果で巡り合った予言集をめくるも、四行詩、終末論や新プラトン主義、占星術・錬金術、など理解するのも難しい内容がつらつらと書かれている。


闇夜に密かに書斎におりて、

青銅の床几しょうぎにひとり静かに座れば、

孤独より立ちのぼるか細き火影は、

信じてあだならざることをば語らしむ。


何言ってるか分からないよね、そこの君。大丈夫、私もよく分からない。


 予言者が夜中に書斎でひとり青銅の椅子にじっと座っていると、孤独から生ずる火が真実を吹き込むという意味らしい。これを聞いてもピンとくるものが無いと私も分かっている。というか、


意味不明な光景を目にして、正気を失っている?奇行に走ってる?


 読書中の私はうつらうつら船を漕ぐよう、急な睡魔が襲ってくる。こんな内容が理解できないものを読むと安眠効果があると、古今東西そうであると決まっている。本を枕元に置き、ほぼ枕にして寝ることに。本の隙間から舞い落ちる冊子を気にすることもなく、夏休みのしおりをしおり替わりにした。


 何時間眠っていたか分からないが、寝る体勢が悪いせいか手足が痺れ起きてしまった。椅子に座り自らの腕を枕とし寝ていたようだ。


なぜ私は教室で眠っていた?


今までの出来事はどれも、全てが夢だった?


 私は不気味な感覚に、静まり返っている教室を焦点合わずに見つめることしか出来ず。ふと我に返ると回収されるはずのクラスメイトたちの持ち物は置き去り、各自読んでいた夏休みのしおりさえも卓上に残されたままだ。神隠しにあった教室。ムフフこれは学校の怪談の1つになる。


「でも訳が分からない」


 この摩訶不思議な現状にお手上げの私は、時間を見ると15時17分で止まっていた。秒針が特定の場所でカチカチ言わせながら止まっている。故障?

 更に私は素人現場検証を行う。出入り口はピッチリと戸締りされ内側からは開かず、窓も黒くスモークされたように外を見ることが出来なかった。


 窓を、扉を無理やりに開けようと試みるがそれらは何かが詰まっているかの様に鈍い音を立てるだけでピクリとも動かない。万年運動不足の私では尚更、無理。その上で叩いても感触は金属の様になっていた。


「こんな私をさらったところで何も出ませんよ、と」


 監禁?誘拐?いやがらせ?などとブツブツ独り言を零すも、解決策も見当たらず。教室の中を右往左往していると誰の物か分からない夏休みのしおりを拾った。当たり前のことだが内容は変わらず・・・。いや、良く見てみると裏面が透け何か線が書いてある。裏面へ返すと幾何学な文様の端が描かれている様に見える。

 印刷ミスだと思ったが、これは意図的なものだと直感がそう言っている。私の発動したことのない直感が、ね。


 直感を信じ、各クラスメイトの机上に置かれているしおりを裏面へ返すと当たり。何だかゲーム内のダンジョンギミックに似てる。

 各紙の裏面には、線が紙面を駆け抜けている。捲っては線が浮かび上がりを繰り返していくと、不思議にも教室の机上には五芒星の文様が描かれていく。



 残るは私の席の紙を裏返すだけだ。異様な緊張感が走る。これを裏返せば何か大きな変化が訪れる様な気がしてならない。あの有象無象の後を追いかけるの?


唐突に、過去に兄から言われた言葉を思い出す。


「凄いな、ツユ。このゲーム難しそうなのに」


 結人ゆいと兄がこう言ってた。そりゃそうだ、クソゲーだから。秒で売ったなんて言えないけど。


「ボクもゲームの世界に行ったら元気な身体で走り回れるかな?」


 結守ゆうま兄は身体が弱かった。だけど、この世界だと四肢切断でダルマになって転がるのがオチ。


「のんびり草原で昼寝できるかな」


 太結たいゆう兄はひたすら昼寝が好きだった。そんなお気楽な世界じゃないよ。


 兄たちと4人でゲームの世界ではどんな場所か、どのような事ができるか話し合ったこともあった。今ではゲームのゲの字も、親しく会話なんてしなくなったけど。


「ツユ、お前は何がしたい?」

「ボクもツユちゃんが何がしたいか気になる」

「俺に昼寝させてくれ」


私は・・・。


 突然に締め切っていた窓や扉が開け放たれ、突風が部屋に巻き起こる。完成していた五芒星は光を放ち部屋を照らす。影が濃くなると、私の足から実体を無くしていく。


私は妹を探し出す、そして救う。あわよくば異世界の地を自由に歩き、魔法で魚のように泳ぎ、空を自由に飛びたい。多くは望まないけど、異世界では何にでも挑戦したい。あのRPGの勇者みたいに。あとメガネ返して。

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