第一章 王女転生編
第一話:サマーバケーション・イブ
身体が燃えるように熱く、身体中が叩きつけられた様な痛みが走る。私はどうして地面の上に横たわっているのか。こんな所で寝た覚えもない。
なんて冗談さえも思える状況ではないと、どこか心の中で呟いてた。私は重い頭を動かし視界を広げる。眼鏡がひび割れ、視界の不明瞭さが目立つが、そこには横転する車や見たこともない造形物が倒壊し人もまばらに走り去る。
その人々はどこへ向かうべきなのか自分自身を見失っている様子などと観察している余裕もないが。しかし、身体の一部が何かに変化している人や機械化している人など様々な日常的に考えると異常が起きている。
人々はこの災害と同時に自分自身にさえ不可思議な現象が起きているのであった。
身体中の激痛を引き摺るように背を起こし、その光景を後ずさりしながら見ることしか出来なかった。この時の私は、自分の身に何が起きているのか未だ理解できない。
この出来事は絶対に悪夢だと自分に信じ込ませることで正気を保つことしかできない。それでも残酷なことに悪夢から醒める気配が見られず、どこの誰でも良いから早く悪夢の終わりをもたらして欲しい。
誰かが何とかしてくれると思うばかりのわがままで、このままでも埒もあかないのは理解しているつもり。ぼろ体にムチを打ち立ちあがり、瓦礫に手を突き身体を支えた。視点を高くするとそこには倒壊した建物に挟まれたおびただしい血痕、路上に転がる死体。
私はこんな現実を受け入れたくない。あの過去さえも。
逃げるように歩き、倒壊した建物から顔を出すと、そこには車椅子に拘束され異物な目隠しを付けられ数人の大男に肩を掴まれている女の子。異様な光景に私は、足が竦んでしまった。
突如空中に轟音が鳴る。まるで飛行機が上空を飛んでいるみたいだ。
「エグリゴリの拘束を確認!」
「拘束よし、
その大男たちが睨む先には、大きな白い翼を持つほぼ全裸の男が天空に浮いていたのだ。その
「その眼を返して頂こう。あなたたちが持つべきものではない。そして、この楽園から退場して貰う」
「こ、こここんな所で死にたくねえー!!!」
噛ませ犬風の大男1人が、見た目と反して情けない声を上げ私が隠れている付近まで逃げてくる。恐怖のあまり足がもたつき走る姿も滑稽であった。その姿を見たエンジェルは飽きれた表情をし杖から光弾を数弾放つ。
その衝撃は最悪なことに私の元までも届き吹き飛ばされる。私は衝撃波で揉みくちゃになり、ここで死ぬのだと思った。
だから自分から行動すると余計な事に巻き込まれる。
私は現在の自分と過去の自分を咎めるように何度も恨んだ。
しかし、頭に響く鈍痛で一瞬意識も感覚も麻痺したが私は生きているようだ。そして今、私は触れたことのない柔らかさに触れている。これは一体なんなのか。
私は拘束されている女の子の胸元にすっぽり収まっている変態的姿を晒していた。
「こうはならないでしょ・・・」
更には女の子に着けられた意味不明な機械的目隠しは外れ、片目だけ露わになった状態で私のことを無という感情で見続けている、非情な目。その目は、どこか懐かしく感慨を覚えてしまった。
刹那、彼女は表情を変えず頭突きをしてきたのだ。頭突きというか、目を覆っていた異物が脳天に刺さり、頭蓋は砕け、異物が頭頂葉を破壊。腐ったジャガイモを口に頬張った味が広がり死亡する。
「痛ぁ!」
私は飛び起きるといつもの学生服で、周りには有象無象のクラスメイトがこちらを向きにやにやと笑っている者や我関せずと手元にある用紙に目を通している者、そして古びた竹刀を持つ教師。うん、額に血管が浮き出てるな、これは怒っている。
「体罰ですよ、先生」
「これは教育だ。座って受け取れ」
そういうと体罰教師が持っていた「夏休みのしおり」が手渡される。今時こんな小学生みたいなしおり見たことがない。時代遅れもいいところ。
竹刀で叩かれても1回で起きないとか、フツーあり得なくない?
放っておけよ、あのメガネのことなんか。
などとヒソヒソと、聞こえてるよ。心の中でボヤき、どっしり着席した。先程は本当に夢で良かったと思える悪夢だった。それよりも、あの胸・・・ちがう目は、うん、ただの夢だ。ファンタジー脳に未だ毒されているのか私は。
私は頬杖突き、何となく夏休みのしおりに目を落とした。
楽しい夏休みが始まります。夏休みは時間の使い方を身に着けるよい機会です。目標や計画をしっかり立てて過ごし、自分の手で素晴らしい夏休みにして貰いたいと心から願っています。皆さんが素晴らしい夏休みを過ごし、登校日や始業式にひと回り成長した姿を見せてくれるのを楽しみにしています。また、長い休みだからこそできることに積極的にチャレンジして、心に残る夏休みにしましょう。
・・・と。小学生か。もう私ら高一だよ。
はあ・・・。
私は深いため息を吐くと、教師の声やクラスメイトの雑音が消えているような気がする。手に持っていたしおりを伏せ視界の確保を行う。
「誰だ君は!」
教師は竹刀を構え、黒板に向かって威嚇している。どうした?頭でもおかしくなった?
あれほど五月蠅く目障りだったクラスメイトは緊張感に飲まれ、固く口を閉ざしている。私の席は最後尾だから、人影と教師が邪魔で見えない。
「んー?」
私は首を右に振り、最前列で何が起きているのか確認する。するとそこには上半身は裸、背には12枚の翼が生えている男が黒板から生えていた。夢でも確か・・・忘れた。誰だこの人。
「我が名はルシファー。地を固め、空を制し、この世界を守護する者なり」
痛い痛い痛い!共感性羞恥ってこういう事?
「だから何者なんだね、君は!」
こうなるよね、先生。分かるよその気持ち。
「我が名は・・・こほん。そんな事はどうでもいい」
どうでもいいんだ。
「世界の危機が迫っている。異世界を滅ぼさないと、こちらの世界は滅ぶ」
「何を言っているんだ君は、早く帰りなさい。さもなければ警察を呼ぶぞ」
もう呼んだ方がいいんじゃないか。こんな変質者普通じゃないない。
そんなやり取りを何度か交わしたあとにルシファー名乗る変人は憤る。
「もういい!良いから異世界を滅ぼしてこい!」
やけくそになっちゃったよ。しかも、その設定は続けるんだ。
「ええい!!!」
教師は竹刀を構え、不審者の面に向かって振り下ろす。すると地面が光り教室一体を包み込む。
目をゆっくりと開けると教師は消え、ビビリ散らかしていた有象無象のクラスメイトたちも消えている。各自の机の上にはしおりが置かれ所有物も残されている様に見える。
「君は必要ないから、ここで起こったことはよろしく」
と変質者が告げると姿が薄くなって、消えた。
私は残され、私以外無人となった教室を走って抜け出した。廊下を全速力で駆け抜け、妹の
「君たちには異世界殲滅計画を進めてもらう」
再び出会った黒板から生える不審者から、また異質な程の光りに教室全体が包まれる。その瞬間、心結はこちらに振り向いたように見えたが教室は空になってしまった。私の視界は再三の光のせいかボヤけている。
一歩遅かった・・・。
「また君かね、必要ないと言っただろう。明日からの夏休みは楽しみなさい」
黒板から生えた不審者は再び忽然と消え、そこには跡形もない。
私の妹と・・・あれ、眼前にあった視力補助をするメガネさんも異世界を滅ぼしに行ったみたい。
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