NPC王女と異世界殲滅計画
恋・山乗
プロローグ
魅せられたゲーム
ブラウン管テレビは画面焼けを起こしている。TVに映されるキャラクターはコントローラーのスティックを傾けると同時に敵に向かって走り出す。その際、身体も傾けてしまう方もいるだろう。無意味にボタンを連打、力強くスティック操作もする人も。レースゲームになると傾きも大きくなってしまう人は多くいる。
「くっ、くそ、食らえ!」
カチカチという音が部屋に鳴り響く。しかし、ゲームのBGMとSEがゲーム体験を高め更に相まってか、ゲーム没頭してしまう。エフェクトが目に映ると目が様々な色に変化しているみたいだ。
私、
Light、この村を脅威から守ってくれたのね。これも武神サーエル様のお導き。
私からも本当にありがとう。
これはゲームの冒頭で起こるイベント。最弱モンスターを倒し、いずれゲーム内でヒロインとなる幼馴染に褒められるという良くある話だ。しかし、こういったベタな話はクソゲ―にはない。唯一の癒しは天涯孤独であったり、陰謀によって追い詰められた人だったりと救いようのないものばかり。
君にも思い出に残るクソゲーってない?
主人公を信じる家族や仲間に取り巻く貧民、蠢く陰謀、因果応報の連鎖が起きる貴族や、救援を乞う聖女、いずれ分かち合う騎士団、力を認める王様。どのファンタジーにも何か1つでも起こるイベント。それを分かっていても目の当たりにすると、盛り上がる節目。
しかし、このゲームは死んで死んで死にまくる!
なるはずない。私はすぐに匙を投げた。
私が初めてプレイしたRPGは小さな子供が些細な厄介ごとを解決していくうちに、強大な敵へと向かっていくシンプルなゲーム。あの体験は今後いつまでも忘れないだろう。
だが、このクソゲ―は初見殺しには程があった。
序盤30レベルほど格上のボスモンスターが出現したり、落とし穴にハマって死んだり、落下する花瓶に脳天貫かれて死ぬ。唯一の癒しイベントか?とヒロインの風呂を覗き、その親父にぶっ飛ばされて死亡。救いはないんか。
君は、この先、どうするんだ?
TV画面では、このテキストが表示され世界終焉を救った主人公はその場を後にする。平和の象徴である鳥が羽ばたき、今まで旅をした各地を巡り今まで関わった人のその後が映し出されながらエンドロールが流れる。壮大なエンディングが流れ様々なスタッフの名前が次々に表示されていく。
王道RPGとなると、このような演出も感動するもの。クソゲーがこんなラストを飾る訳がない。
私は主人公として成長し、各地を回り死んでは救って、死んでは救ってもはやお前がモンスターだと言われんばかりの武勇を振舞おうと思ったが無理。秒でメディアショップで売り飛ばした。
私にその手のゲームセンスは明るくないのは明白だけど、主人公にのびしろが感じられない。寧ろ死ぬ度に強くなって欲しい。
王道RPGのエンドロールは終盤に差し掛かった。勇者は旅を共にした剣を地面に突き刺し、それを冒険の途中で失った仲間の弔いとして、勇敢なる者の象徴とし後世に語り継がれたような終わり方であった。
一方、クソゲーは序盤で封印された剣を引き抜き、誤って自分を刺して死んでた。
「終わってしまった・・・」
頑張ってレベリングしたことや、強力なアイテム回収、何度も挑戦した強敵。達成感は勿論あるが筆舌に尽くしがたい、喪失感に似た感覚に襲われる。もう一度体験することも可能だが、一度目に体験したものを超えられないだろう。
やっぱり王道RPGが胸躍るし、強くなっているのが目で見える。クソゲーなんか二度とやらない。
私はこの日、どうしてもこのゲームがクリアしたくて部活さえズル休みし、家でゲームに熱中したあと喪失感に襲われている。この行為は良かったのか悪かったのか、今の私は知る由もない。
だが、この日を境にゲームをすることがなくなった。
「ツユ、お前まだゲームとかしてんのか?」
「そろそろボクたちみたいに進路、考えた方がいいよ」
「安眠できる環境を整えないとね~」
私には3人の兄と、双子の妹がいた。
このゲームという次なる人生を歩めるかのような、素敵な代物を初めて見せてくれた兄たちの言葉とは思えなかった。私は現実に引き戻され、急にビンタを食らったような衝撃を心にモロにもらう。
「継結、そんな趣味やめて少女漫画とか、そっちの方がまだいいよ。でも日々殺し合いみたいなゲームばっかり。周りは彼氏や可愛いものとか、コスメに夢中になってるよ。おかしいよ」
そっか、おかしいんだ。私は妹にとどめを刺された。この世界へ連れてきてくれた兄には置いていかれ、双子の妹にはいつの間にか幻滅されていた。
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