第7話
二〇三七年四月七日、六度目の移動にして初めて見知らぬ場所に居た。嘗て住んでいた部屋より少々豪勢な間取りで、同居人は覗えない為この歳でも一人暮らしのようだ。位置情報によればここは埼玉の浦和、職場まで異としているかもしれない。環境変化への感動は振り払い、再びルメルの連絡先を辿る。彼女への電話は繋がらず、会社の別の先輩達にも連絡を取るが反応が悪い。
「八重露さん?去年亡くなりましたよね」ルメルに恋慕していた若い男の一人に当たると、案じていた返答が送られた。
「あれ、ご存じなかったんです?」声調を落とした彼に詳しく訊けば原因は過労による心不全らしい。他人に殺られ、自分を殺め、果てには病魔に侵される。元々身体が弱いとは言え人はこうもバタバタ死ねるものかと惨たらしく思う。私がもっと側に居たら結果は変わっていたかもしれない。
「……遅かったみたいだな」通話を終えて呆けていると、窓から警官とスアバリが縦並びで不法侵入してきた。死に慣れた先程振りの先輩は顔色一つ変えていない。
「垂直作用が強力だった。こんなに早々と死ぬとは」彼の口振りからして何も起こらずとも死の徴候はあったと。警官の神通力も世界の理の前には敵わないようだ。
「あの、気になることが」
「第五水平世界のルメルも死んだ。付き合っていた男の性格が豹変し、暴力を浴び続けた結果メンタルが壊れて服毒自殺したみたいだな」先出しされた答えに喉が詰まり、芽河やその男と大差無い道を描いた自身に腹が立つ。何にせよルメルは全員死んでしまった。
「世界はどうなるのでしょう」文脈に沿って呟いたが、それより胸を圧迫する欲望が二人には見透かされ、不揃いな音を放つスアバリの言うことはまたも理解出来た。
「いや、オレを殺せ」台所を確かめようとした矢先、もう一人が割って提案する。
「何故?スアバリを殺すのが合理的だと思いますが」
「世界の秒針とお前達の未来を狂わせた罰だ。警察はその責任を負わなければならない」罰と言うなら私こそ自殺すべきだが彼の流した涙に怯む。あなたは不死身ではないでしょうと指摘しても聞かないので、仕方なく三徳包丁を構えた。
「……ごめんなさい」誰宛か分からない言葉の奥に、手の届かない世界があった。
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