【番外編】ゴーレムの少女

「ほーら、ご主人様。大好きなおっぱいですよー」


 相変わらずの棒読み口調で言いながらメイド服の前をはだけるメイ。

 彼女のメイド服コレクションは増え、今では日替わりで着られるレベルに達している。着こなしもなかなかのもので、体型補正の意味では特に必要ないブラもしっかりと身に着けていた。

 漆黒の大人びたブラの下には大きな膨らみ。調整可能なのをいいことに理想的な形と張りを維持しているそれは「見事」としか言いようがない。

 ムードの欠片もない棒読みは減点対象だが、本人が自信満々なだけはある。


「いつ見てもすごいなあ、これ」

「研鑽に研鑽を重ね、日々改良を施していますからね」


 こういう時は心なしかドヤ顔になるあたりがメイらしい。

 少女の双丘に手を伸ばしたレンは強くしすぎないように気をつけながら指でその質感を楽しむ。押すと指が沈み込むと同時に軽く押し返されるような感触。

 極上のクッションのようなそれは、いやらしい意味を除いてもなお気持ちいいと言わざるをえない。

 火の魔石を内蔵して「体温」の保持が可能になったことで温かさも完備。さすがに心臓の鼓動までは再現できていないが、これはまあ、音に煩わされる心配がないということでもあるのでマイナスとも言い切れない。

 メイは時折、棒読みで喘ぎっぽい声を漏らしながら、


「もっと強くして頂いても構いませんよ。後は吸うとか、顔を埋めるとか」

「それ、すごく変態っぽくない?」

「ご主人様はおっぱい大好きな変態では?」

「否定はしないけど、ものすごく不本意だなあ」


 メイと二人っきりの夜はだいたいこんな感じである。

 甘いトークというか漫才というか。メイ自身はこれをとても楽しんでいるようだし、レンとしても気負わずにいられるのでこれはこれで楽しくはある。

 接触していればエナジードレインによる充足感はあるし、ついでにメイにもレンの生命力を送り込むことができる。

 メイが相手なら眠くなって中断してしまう心配もないし、夜にのんびりしたい時などにはぴったりである。


「ゴーレムの子供ってどれくらいで生まれてくるんだっけ?」


 しばしメイの胸を堪能した後、膝枕をしてもらいながら尋ねるレン。例によって翼が邪魔になるので寝るのは横向きである。


「私の裁量次第ですね。完成度に拘ればその分、製作期間も必要になりますし、材料の集め具合にもよります」

「製作期間って。でも、時期を調整できるのは助かるかも」


 普通の子供は夜だろうと早朝だろうと生まれてくる。父親の出張と重なって大変、なんていうこともあるだろう。そういうのを避けられるだけでもけっこう大きい。


「母親の胎内でも思索はできますしね。私は生まれてくる前の記憶がありますよ」

「え、それはちょっと羨ましいかも」

「視覚も出来上がっていましたので、逆に暗いところに閉じ込められている感覚でしたが」


 ゴーレムの場合、母の視覚や聴覚とリンクして外の情報を取り込むこともできるらしい。なかなかの英才教育である。

 へー、と言いながら聞いていると、なんだかカンガルーとかそっち系のイメージになってきた。


「メイに似て可愛い子なんだろうなあ」

「それはもう。私の子ですから。母に似てしまうと可愛くない子が生まれてしまうのでそれが心配ですね」


 なお、メイとその母親は本当にそっくりである。


「できればご主人様の子供よりも早く産みたいところです」

「? どうして?」

「そうすれば私の子が長女ということになるでしょう」

「そこ気にするんだ」


 むしろ長女、長男はいろいろしがらみが多くて大変じゃないだろうか。しかも、子供が長女になったからといってメイが威張れるわけではない。


「ああ、でも、うちは別に家業があるわけじゃないしね。後継者問題とかないから気楽か」

「街のリーダーを継ぐことになるかもしれませんが」

「わたしが継いだとしても、わたしが継がせる必要は当分なさそうだしなあ……」


 やろうと思えば百年くらい平気で続けられる。

 まあ、日本に帰れるとなったら話は別なのだが。その辺はダンジョンの攻略状況と報酬次第である。


「跡継ぎなんてやりたい子がやればいいよ。小さうちから教育しなくてもわたしたちの場合は間に合うし」


 幼少期から後継者を決めて英才教育を施す、というのは人間の寿命が短いことが大きく関係していると思う。

 実際、アイリスの家などは勉強こそきちんと教えているものの、娘三人ともかなり伸び伸びと育っている。


「子供たちを連れて帰るかとか、いろいろ考えないといけないこともあるけどね」

「日本ですか。いつか行ってみたいものですね」

「メイは大人気だろうなあ。なにしろメイドロボみたいなものだし」

「私の時代というわけですね」


 それとも、帰る頃にはメイドロボが実用化していたりするだろうか。

 いや、さすがに十年とかで実現するとは思えない。どこかから未来技術でも降って来ない限りは大丈夫だ。メイのような無口無表情系にも強力な愛好家がいたりするし、きっとメイは大人気である。


「そうだ、メイ。ちょっと思いついたんだけど、メイも『生やして』みる?」


 二人っきりの今が試すならチャンスだ。

 だめでもともとという気分で尋ねると、ゴーレムの少女はきょとんとした表情を浮かべた(真顔のまま硬直したとも言う)。


「人間の生殖器官ですか? ……いいかもしれませんね」

「本当?」

「ええ。生えた傍からもぎ取って吸収すれば生体素材が無限に手に入るでしょう? 人間そっくりのボディを作るのに役立ちそうです」

「いや、できるかもだけど、アレを素材に全身を作るのは止めて欲しい」

「どこの部位でも肉は肉、皮膚は皮膚でしょう?」

「そうだけど、気分的にアレすぎるってば」


 無表情のまま「残念です」と呟くメイに、レンはさっそくスキルを試してみる。

 後ろから抱きしめるようにして身体に触れてスキルを起動すると、メイは「む」と小さく呻いた。


「成功したようですね。身体に妙な感覚があります」

「本当にできたんだ……。っていうか、感覚?」

「ええ、初めての感覚ですね。むず痒い、というのはこういうことを言うのでしょうか」


 もぞもぞとメイド服のスカートを持ち上げて下着をずらし始めるメイ。

 銀髪美少女がやっていると妙に煽情的である。ついでにこれでもかと倒錯的でもあるが、本人はおそらく無自覚である。


「うん、確かに生えてる」

「ご主人様。こんな敏感なものを付けて歩いているとは、人間の男性は欠陥品なのでは?」

「まあ、正直普段は邪魔だよねえ、これ」


 自分の身体からなくなって久しいそれをつんつん指で突くと、メイが「ひぅっ」と声を上げる。心なしか演技ではなく真に迫った声。

 可愛い、と、掛け値なしに思う。


「……ちょっと楽しくなってきたからいろいろいじってみようか」

「ご主人様? 目が怖いのですが?」

「大丈夫大丈夫。痛くしないから」


 その夜は、珍しくメイの悲鳴が室内に響き渡った。

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