第5話
森を抜け別邸に着き、古びたドアを開ける。
『お帰りなさいませ』
今まで出迎えた事など一度もなかった奴らが、待機していた。
どういう風の吹き回しかは知らないが、ようやく自分達の立場が分かったのか?
いや・・・・それは違うな。昼に同僚が殺されたことで、次は自分かもしれないと、恐怖しているのか。
「御苦労。風呂に入る。夕食の準備をしておけ」
『かしこまりました』
どれだけ忠誠を誓おうと、お前たちの運命は決まっているというのにな。
風呂に行き、着ていた服を脱ぎ投げ捨てる。この世界の風呂の文化は、前世と比べてもそこまで変わらない。違う所があるとすれば、魔石を使っているか、いないかである。
この世界では、灯りを付けるのも、お湯を沸かすのも魔石をエネルギーとして使っている。
ランクによって値段は変わるが、FランやEランクの魔石は、平民でも普通に買える。この世界では魔石は日常消耗品なのだ。
トントン
「着替えをお持ちしました」
「御苦労」
「失礼いたします」
「待て・・・・今後も励めよ」
「・・・・かしこまりました」
そう言うと着替えを置いて出て行った。
頭からシャワーを浴び、汚れを落とす。今日は豚どもの返り血も浴びて、居るからいつも以上に入念に流す。
ただでさえ豚共は臭いからな。体を洗いおえたので風呂へ浸かる。
「ふぅー。やはり殺した後の風呂はいいものだな。この後にワインがあればいんだが・・・・この別邸には何もないからな」
人であれ、魔物であれ、殺したあとの開放感は堪らない。これだけは、前世からの楽しみだったのだ。
「そろそろ出るとするか」
風呂から出た後、置いてある服に着替え食卓へ向かう。どうせ料理は不味いからな。食べなくてもいいんだが、腹が減り、間違えて人間を食べたら困るからな。
人間は食べれないことはないんだが、あまり美味しくない。それにくらべ、魔物の肉は案外美味かった。今日始末したゴブリンは不味いが、豚は焼くと美味かったからな。
食卓のある部屋に着くと夕食の準備がかされていた。米に、野菜のスープ、焼いた魚が置かれていた。
「本日はデザートも準備させて頂いております。食べ終わりましたら、お知らせください」
部屋の中にいた、俺を憎んでいるメイドに言われた。
「クククッ!デザートときたか・・・・フハハハハハハハハッッッ!!」
「・・・・」
「これはお前のアイデアか?」
「・・・・そうです」
「クククッ・・そうか。俺を憎んでいるのではないのか?」
「・・・・」
メイドは何も答えず、俺の目を見ている。
「フッ・・・・ 詰まらんな・・・まぁいい。俺を失望させてくれるなよ女」
「・・・・」
表情は上手く隠しているようだが、心の中までは隠せていないようだな。ほんの少しだが、右手に力が入っている。
「お前がどのような選択をしようと自由だが・・・・・・いや・・何も言うまい。さ、冷める前に食べるとするか」
まだ温かい料理を食べる。昼食よりは美味しいな。あの料理人は、肉料理よりも、魚料理の方が上手いな。
「おい女。料理長に今後は、魚の料理を多めに作れと伝えておけ。それとデザートを貰おうか」
「かしこまりました」
チリンチリン
メイドが鈴を鳴らす。
この世界で、デザートを食べるのは初めてなので、どの様な食べ物かは分からないが、美味しい事を期待しておこう。
トントン
「失礼します。デザートをお持ちしました」
別のメイドがデザートを運んで来たらしい。
「こちら、グレープのシャーベットでございます」
出されたグレープのシャーベットは、丸く黒い粒が並べられており、一つ一つから、冷気が出ている。
ふむ。美味しくなさそうだな。だが、見た目で判断してはいけない。
一口食べる。
「・・・・美味い」
口に入れた瞬間、凍っていたグレープが溶け、シュワーと口の中に広がる。ワインの摘みに合いそうだな。
「次からの夕食は、グレープシャーベットを準備しておけ」
「かしこまりました」
料理も不味いから、デザートも不味いと思っていたが・・・・予想以上に美味しく、新たな発見が出来たな。
「もう下がってよいぞ」
デザートを持ってきたメイドに、下がるように言ったが、中々下がらない。
「あ、あの・・・」
オドオドとしながら、何か言おうとしている。
「なんだ?」
「・・・・本邸よりお手紙が届いております?」
「なに・・・・・本邸から手紙だと」
今まで俺の事など、気にしなかった癖に何の用だ?生まれてから父親の顔は、一度も見た事がない。母親の顔は一度だげ見た事はあるが、その後は気味悪がって近寄って来なかった。
そんな奴らが、俺に手紙だと?バカバカしい。一
一体何を企んでいるんだ?
「寄越せ」
メイドから手紙を奪い取り、封を空け、中を確認する。
『次の週の闇の日、本邸に来い』
その一言だけが書かれいた。
この世界で一年は、365日あり、火の日、水の日、風の日、土の日、光の日、闇の日が一週間となっている。一日は24時間である。
今日は闇の日。つまり一週間後に本邸に来いということだ。
「クククッ。本邸に来いだと・・・・笑わせてくれる。俺を追放するつもりか?いや、それはないか。だとすれば・・・・」
今本邸に行けば、俺の力がバレる可能性もある。それは絶対避けなければいけない。バレるには、まだ早いからな。
問題はどう言い訳するかだが・・・・・・適当な事でも言っとくか。
「急いでペンと紙を持ってこい」
「かしこまりました」
適当な事と言っても、すぐバレる嘘を言っても意味がないと思うが、ここは敢えて、バレる嘘を言う。その後呼び出しがあれば、大事な話しと言うわけだ。何も無ければ、その程度の話しと言うわけだ。
「失礼します。ペンと紙をお持ちいたしました」
「御苦労」
ペンにインクを付け、紙に内容を書く。
『申し訳ございません。先日森で魔物に、襲われ、怪我をしましたので、其方には伺えそうにありません』
これでいいだろう。
「この手紙を本邸へ送れ」
書いた手紙をメイドに渡す。
「かしこまりました」
「全員下がれ」
部屋に残っていたメイドが全員出ていく。
「さて・・・・吉と出るか凶と出るか」
アキシオン領の端、そこに一件の豪邸がある。
その豪邸こそ、アキシオン侯爵が住まう本邸である。
本邸の中。当主のいる執務室。そこには、二人の人物がいた。
一人は、エンドの父親である、現アキシオン侯爵であるエリヤス。もう一人は、長年侯爵に執事として仕えているアベルである。
「侯爵様。別邸より手紙が届いております」
「・・・・そうか。読み上げろ」
「『申し訳ございません。先日森で魔物に、襲われ、怪我をしましたので、其方には伺えそうにありません』と書いてあります」
「・・・そうか」
当主であるエリヤスの表情は、変わらず無表情だ。何を考えているかは、長年仕えている、アベルにも分からない。
「よろしいのですか?単なる言い訳だと思いますが?」
「構わん。好きにさせてやれ」
「かしこまりました」
そう言うとアベルは退出した。
「・・・・エンド。お前が何をしようと、俺は何も言わない。好きな様にするがいい。
いずれ―――」
最後の一言は、闇の中へ消えていった。
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