第9話 僕には全く関係ない ①

「しろーくん」


 いつのまにか、


 杏野さんの呼ぶ、僕の呼び方が変わっていた。


 遊園地の後からのような気もするけど、ハッキリとは思い出せない。


 それとは関係ないと思うけど、


 今日は珍しく、目覚まし時計より早く起きた。


 別にのんびりしてても良かったんだけど、


 何となく、杏野さんより早く行こうと、いつもより早く家を出る。


 毎日使う通学路だけど、道行く人たちの顔触かおぶれが違っていて、何だか新鮮な気分だ。


 そうして校門をくぐった時、


 前を歩く、とある後ろ姿に気が付いた。


 杏野さんだ。


 ここで声を掛けるべきかを悩んでいたら、


 ひとりの男子生徒に、先に声を掛けられた。


 二言、三言、言葉を交わして、


 そのまま二人で、校舎裏の方へと歩いていく。


 別に杏野さんが、誰と友好関係を築こうが、僕には全く関係ない。


 もしかしたら告白かもとか思うけど、


 だったら尚更、関係ない。


 関係…ない。


 そう、関係ないんだけど、


 何なんだ、この、モヤモヤ感は?


 そして僕は、


 何で校舎のかどに張り付いて、向こうの様子を伺っているんだ?


 勿論、回答など得られる訳もなく、


 軽い罪悪感を抱きながらも、息をひそめて聞き耳を立てる。


 どうやら相手は、三木先輩だ。


 サッカー部の主将でイケメンと言う、リア充のお手本のような人だ。


「復学したのなら、すぐ俺に、伝えるべき事があるんじゃないのか?」


「……? 何のことでしょう?」


「頭でも打って忘れたか? お前が去年に保留にした、この俺からの告白の返事だ!」


「……確かに、そう言う記憶はありますね」


「お前のせいで、当たって砕けた男と、仲間内で笑い者になってんだぞ!」


「…そうですか」


「何だ、その態度は!」


 三木先輩は、温厚で気さくで優しい人だと、噂を聞いたことがある。


「顔だけは良いから告白してやったのに…っ」


 本当に噂通りの人なら、杏野さんにとって、これ以上に良い話はない。


「隠キャなら隠キャらしく、ふたつ返事でオッケーしとけよ!」


 だから僕なんかが、口を出して良い話じゃない。


「それを勿体ぶったその日に交通事故だ? ふざけるのもいい加減にしろ!」


 なのに何だ?


 この、心を黒く塗り潰すような感覚は…?


「しろーくん、ダメ!」


「え⁉︎」


 突然の、杏野さんの静止の声に、思わず大きな声を出してしまった。

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隣の席の杏野《あんの》さんは、僕のことを魔法使いにさせたがってる⁉︎ さこゼロ @sakozero

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