第7話 「このあと何か用事ある?」②

「本当に、人が少ないのね」


 杏野さんが不思議そうに、遊園地の場内をくるりと見回す。


「でも、全く居ない訳でもないから、まあいっか」


 それから少し照れ臭そうに微笑んで、僕の手を引いて歩き出した。


 やって来たのは、ジェットコースター。


「あの…?」


 もちろん待ち時間なんてものがある訳もなく、


 あれよあれよと、先頭座席。


「魔法使いを、探すんじゃ?」


 ガタガタとレールを上昇しながら、僕は隣の席の杏野さんを見た。


「これなら園内を、一気に回れるかなあと思って」


 しかし返ってきたのは、無邪気な笑顔。


 言ってる意味は判らなくもないが…、


 そんな余裕が、


 ある訳ないだろおおおおおおお!


 突然の急降下で、一気に地面が迫ってくる。


 正直に白状すると、僕は絶叫系が得意ではない。


 全く駄目って訳ではないけど、出来れば避けたいと思ってる。


 大声で叫べば怖さもまぎれると聞いたことはある。だけどそんな姿を杏野さんには、何となく見せたくなかった。


「自分で飛ぶのとは違って、スリル感あるね」


 降り口に着いて、明るい笑顔の杏野さん。


「……そうですね」


 相変わらずの独特なコメントだけど、杏野さんが楽しかったのならそれで良いか。


 〜〜〜


 次に入ったのは、お化け屋敷。


 ズンズンと先を行く杏野さんは、


「そっかそっか。ここは不意打ちの緊張感を疑似体験する施設なんだね。初めての場所ではサーチを使っちゃう癖を改めないと」


 どうやら、お化けが苦手ではないようだ。


 言ってる意味は判らないけど…。


 そうして今度は、フリーフォール。


 こればっかりは断りたかった。


 しかし、


 僕の手を引く杏野さんの、白くて細くて柔らかい手を振りほどくなんて事、出来る訳がない。


 どうにかこうにか地上に生還して、


「落ちるのはダメ落ちるのはダメ。見習い時代に飛行魔法に失敗した時のことを思い出す…っ」


 初めて見る杏野さんの狼狽うろたえぶりに、僕は思わず吹き出した。


「杏野さんでも、失敗した事あるんですね」


「その一回だけ! その一回だけなんだから!」


 予想の斜め上を行く反論に、たまらず再び吹き出してしまう。


「あー、真島くん、信じてない。ホントに勘違いしないでよね」


 ムクれて頬を膨らませる杏野さん。


 そんな仕草を見せつけられたら、


 本当、反則だな、この人は…

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