第5話 「どんな魔法を使ってみたい?」②

「だけど私はね、真島くんの特性は、それじゃないと思うの」


「それじゃない?」


「うん、それじゃない」


 どう言うこと? 杏野さんの言ってる意味がよく判らない。


 そんな僕の困惑を察したのか、


「それならさ、真島くん。ちょっと両目をつぶってみてよ」


 杏野さんが笑顔で提案する。


 しかしながら、両目を瞑る…


 昨日の羞恥を思い返し、安易に「ハイ」とは言いにくい。


「えっと、その…」


「ほら、早く、早く」


 とは言え、彼女のこの素敵な笑顔に、逆らうことなど出来やしない。


 僕は、恐る恐ると目を閉じた。


「先ずはリラックス。ゆっくり大きく深呼吸」


 言われるがままに実行する。


「それじゃ、想像してみて。真島くんの周りに浮かぶのは、何千何万という、白銀に輝く水のしずく白雨しろうの名が示す通り、真珠のような雨粒の魔法」


 何とも不思議な感覚だった。


 杏野さんの発する声はとても心地良く、身体の芯にまで染み込んでいく。


「その雨粒のひと粒ひと粒には強い魔力が込められていて、攻撃防御、自由自在に操れるの。


 一度ひとたび攻撃に移れば無数の雨粒が相手を貫き、防御に徹すれば誰もその身に近付けない。


 慣れないうちは、全ての雨粒にひとつの命令しか出せなかったけど、慣れてくると一部を攻撃、一部を防御と自在に操れるようになってくるわ。


 そうして真島くんの、最強を冠する名声は徐々に広がっていって、やがて【ヴァイスリーグン】の二つ名を…」


 そこで杏野さんの声がプツリと途切れた。


 何となく教室全体も、静まり返っているような気がする。


 そのとき、


「おい、真島。朝のホームルームより杏野の方が魅力的なことはよく判るが、そこまであからさまだと先生も悲しいぞ」


 少し気怠げな中年男性の声が、僕の耳に飛び込んできた。


 驚いて目を開けると、正面には杏野さんの澄ました横顔。慌てて身体を机に向けると、既に先生が教壇に立っていた。


 クラス全体から、クスクスと小さな笑い声が聞こえてくる。


 杏野さんもクスクスと笑いながら、最後にコチラを向いて、チロリと舌を出した。


 その仕草が可愛くて悔しくて…


 この状況から逃れる方法など僕には無く、


 泣きそうになりながらも、羞恥に耐えることしか出来なかった。

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