第4話 「どんな魔法を使ってみたい?」①

 杏野さんの朝は早い。


 僕も早い方だけど、杏野さんより早かったことは一度もない。


 僕が登校してくる頃には、いつも一番後ろの窓際の席で、ひとり寂しそうに外を眺めていた。


 そのとき、僕のカバンを置く音に気付いたのか、


 杏野さんがコチラに振り返る。


「あ、真島くん、おはよう!」


 毎朝、挨拶は交わしていたが、こんなに笑顔で出迎えて貰ったのは、今日が初めてだ。


「あ、うん、おはよう」


「さっそくだけど、真島くん。昨日は私も言ったけど…」


 ん? 昨日?


「冷静に考えてみたら、魔法使いを探すのは、やっぱりちょっと難しいと思うの」


 ……でしょうね。


「だからね、魔力を認識する訓練も、同時に進めていこうと思うの」


 …杏野さんは一体、朝から何を仰っているのだろうか?


 同時に訓練?


 まさか、魔法使い探しと並行して?


 とは言え、杏野さんの期待に満ちた大きな瞳。このキラキラと輝く美しい瞳に、一体何が言えるというのか…


「訓練って…、そんな方法、知ってるんですか?」


「知ってる訳ないじゃない」


「…………」


 いきなり梯子はしごを、はずされた気分だ…


「だけどね、どんな事でも、イメージが大事って言うじゃない? だからね、イメージトレーニングをしようと思うの」


「イメージトレーニング?」


「そう」


 とても晴れやかな笑顔で頷く杏野さん。


 彼女のこんな笑顔を見せつけられては、話を断ち切ることなんて出来るはずもない。


「真島くんはさ、どんな魔法を使ってみたい?」


 どんな魔法?


 …どんな魔法、か。


「……そうですね」


 まあ僕自身、こう言う話が嫌いって訳でもない。もしも魔法が使えたらなんて妄想、一度や二度なんてものじゃない。


「やっぱり、炎ですね」


 アニメやゲームで魔法なんて、それこそ星の数ほどある。空間魔法なんて便利な魔法も山程ある。


 それでも僕の中では、一番の花形は炎だと思う。


「そっか、炎か」


 ナルホドね、と頷く杏野さん。


「だけど私はね、真島くんの特性は、それじゃないと思うの」


 そう言ってジッと見つめてくる杏野さんの瞳は、まるで僕の全てを見透かしているかの様だった。

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