第3話 「魔法ってあると思う?」③

「真島くんはさ、魔法ってあると思う?」


「……え?」


「魔法使いになりたいって思う?」


 杏野さんがいきなり、美しい笑顔のままで、変なことを言い出した。


 たぶん、ゲームの話からの発展だろうけど、これはどう答えたら良いのだろうか。


 とは言え、僕なんかとの会話を続けようとしてくれる杏野さんのためにも、無下な答えをする訳にはいかない。


「えっと、さすがに無いとは判ってるけど、あって欲しいとは思います」


 よし! これは及第点だろう!


 と、思ったのに…


「何で? なんで無いって思うの?」


「え、何でって…」


 あ、あれ? 対応間違えた? 杏野さんの凄く残念そうな表情かお。何も悪い事をしてないのに、心がギュッとえぐられる。


「えっと、その…」


「皆んな、使い方を知らないだけで、ちゃんとるんだよ。この世界にだって、その片鱗は確かに存在してるのに」


 もしかして、超常現象的な話だろうか…


 超能力者とか霊能力者とか、全部嘘で片付けられない事象も確かにある。


 ある…けど、


 それらを魔法に関連付けるってのは、やっぱり少し暴論のような気がしてならない。


「認識さえ出来れば、魔法は誰でも使えるんだよ。特に真島くんは、その才能がズバ抜けてる」


「…え⁉︎」


 …てな事を考えてたのに、杏野さんにこんな事を言われては、何故だか悪い気がしない。


「でも、認識って言っても…」


「そうね…、普通は訓練を繰り返して、ゆっくりと認識していくものだけど、ひとつ、手っ取り早い方法があるわ」


「手っ取り早い…?」


「簡単よ。使える人に魔力を吹き込んでもらうの」


「…吹き込む?」


「そう、吹き込む。試してみる?」


 そう言って杏野さんが、ゆっくりとコチラに身を乗り出した。


 徐々に近付く、杏野さんの綺麗な顔。


 吹き…込む?


 吹き込むってまさか、そう言うこと⁉︎


 目の前にある杏野さんの綺麗な顔は、もう10センチと離れていない。


 心臓がバクバク大暴れして、今にも口から飛び出て来そうだ。


「少しだけ、を閉じてて貰える?」


「あの…あ、はい」


 僕は杏野さんに言われるがまま、両目をギュッと固く閉じた。


 そして……


「髪に糸くず、付いてたよ」


 フッと離れる杏野さんの気配。


「…………え?」


 僕は思わず、両目を見開いた。


「だから、髪に糸くずが付いてたんだって」


 …………え?


 僕の心臓は、未だにバクバクと大暴れしている。


「糸…くず?」


「そう、糸くず」


 やがて、


 勘違いによる羞恥に耐え切れなくなり、僕は机の上に突っ伏した。


「真島くんの早る気持ちも分かるけど、先ずは魔法が使える人を探さないとね」


 言いながら杏野さんが、僕の肩をポンと叩く。


 こうして僕のつつましやかな日常は、


 隣の席の杏野さんによって、


 大きく変わっていく事になる。


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