第2話 「魔法ってあると思う?」②

「ねえ、真島くん。毎日スマホで何してるの? ゲーム?」


「……え⁉︎」


 初めは自分に話しかけられたとは思わなかった。


 毎朝、軽く挨拶を交わす程度で、今まで話をしたこともない。


 でも彼女は、隣の席の杏野さんは、確かに『真島くん』と、そう言った。


 隣の席の杏野さん、こと杏野あんの麻里まりさんは、ひとつ年上の同級生。


 なんでも半年ほど前に交通事故に遭ってから、ずっと眠っていたらしい。


 そんな訳で、


 色白で、艶のある長い黒髪の綺麗な人だけど、クラスの皆んなが、彼女との距離感に戸惑っていた。


「聞こえてる? なんか固まっちゃってるよ?」


 気が付くと、目の前に杏野さんの綺麗な顔。


「わ、わあ! 聞こえてる、聞こえてます!」


 僕の驚いた素ぶりに満足したのか、杏野さんはニッコリ微笑んで姿勢を戻す。


「…それで? スマホで何してるの?」


「えっと、ゲーム、ゲームです」


「ふーん、どんなゲーム?」


「あ、えっと…」


 今は一体、どういう状況なんだろうか? 何だか杏野さんは、僕との会話を続けようとしてくれてるように感じる。


 一方、僕はと言うと、


 杏野さんの美貌に気圧けおされて、視線を合わす事さえ出来やしない。


「あの、冒険物で…、今は『狂乱の魔女』って悪者のストーリーをクリアしたところです」


「倒したの?」


「あ、はい、何とか」


「面白かった?」


「それは、勿論。それにエンディングで、彼女の未来を暗示させるような描写があって、良かったなって思ってます」


「良かった? 何で? 悪者なんでしょ?」


「まあ、悪者でしたけど、とても綺麗なキャラクターで、人気はあったと思います」


「なら、真島くんも?」


「あ、はい。好きでした」


「ふーん、そうなんだ。私より?」


「…………え⁉︎」


 いきなり聞かれた質問の意味が判らずに、僕は思わず顔を上げた。


「あ、やっとコッチ見た」


 そのとき見せた杏野さんの表情は、ゲームのキャラなんかにも引けを取らない、とても綺麗な笑顔だった。


 

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