推ししか勝たん!

もとだはろる

第1話 私の推し 

小さいころから、人を好くことに疎かった。

なんで他人を好くことが自分の幸福になるのか、理解できなかった。友人たちがこれかわいいよね、とか、私の推ししか勝たんわ、とか言うたびに、そうだねと適当な相槌をうっていた。皆の言うことが、理解できなかった。

そんな日々を送っていたとき、「推し」に出会った。

可愛らしいウサギの耳を付けた、いわゆるイケメンというべき顔面を持った20歳くらいの歌い手。友人にスマホで見せられた瞬間、私は今まで感じたことのない感情に満たされた。なんだろ、この感じ。可愛いというか、カッコいいというか、すべてが整っていて。そのあとその人の声を聴いた瞬間、あぁ、綺麗だな、好きだな、って思えた。あんなに人を好くことが理解できなかったのに。なんでこんな簡単に魅せられているのだろうか。

この日、私に初めての推しができた。


「ただいま」

家に帰ると、すぐにリビングにおいてあるパソコンでGoogleを立ち上げた。彼の名前、所属しているグループ名、好きなもの、嫌いなもの、ファンの多さ。調べれべ調べるほど、彼のことが好きになった。歌を聴くたび、カッコよさが増してきた。

「うわぁ、なんでこんなに遅くに知ったんだろ…。ファン多すぎだろ…。」

味蕾‘みらい’という彼は、5年も前から活動しており、Twitterのフォロワーは70万人をゆうに超えていた。こんなにファンがいたら、なんだかんだ言って認知してもらえてないファンが何万人といるんじゃないかとまで考えてしまう。

「ねーちゃん何してんの?」

しまった。完全に終わった。なんでこんなとこで堂々とYouTubeで爆音で音楽聞いてしまったんだろ。こんなクソガキにバレてしまったら…。

「ねーちゃん、そんなん見てたっけ?え、なに、すきなん?」

「う、うるさっ!勝手に決めつけんな!」

このクソガキ…。しつこいんだよなあ。

「なあなあ!なんでなんで?この人好きなんだ!?」

弟のうるさい声に耳を傾けることもなく、スルーし、二階の自分の部屋にもどった。これが、推しを見つけた初日の出来事だった。

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