第2話「赤い目」パート2「盗賊団」

 賊がクロに襲い掛かる。アイニィはテレパスで指示を出す。

「クロは応戦、馬車はカーテンが閉まっているから実力をある程度なら出しても問題ない。一人一人武装解除していこう。バーグとシロは後ろと側面から誰も来ないか見張っていて。賊は僕とクロで片づける。」

 賊の装備は皮鎧に槍や剣、ナイフも差してある。まずは槍で4人同時にクロに突きを繰り出してきた。クロは大剣の一振りでそれをなぎ払い、バランスを崩し前に出てきた2人に返す刃の腹を打ち付け、昏倒させた。あっという間に賊2人が戦闘不能である。

「こ、こいつ…やりますぜ!」

「ふん、だがあの大きさの大剣…動きがどうしても遅くなるはずだ。体力も長く続かないだろう…疲れさせて隙をつけ!」

 クロは少し前に出て、隙なく大剣を構えた。後ろでアイニィが倒れた賊の武装を解除し馬車の近くに奪った装備を放り投げている。

 賊は大人数で一斉に攻撃を仕掛けてもいなされるだけと判断し、少人数に分かれ手数を増やして攻撃をしてきた。

 1人目が浅く槍を突き出し、クロはそれを払い、賊はそれを予想していてすぐに身を引いた。槍を払った隙をついて剣を持った賊が、上段から剣を振り下ろす。クロは無理に大剣で剣をいなすことはせず、体さばきで軽く躱しながら賊の身体に大剣の柄頭を打ち込んだ。賊は衝撃にバランスを崩し、よろめいてからあわててクロの方を向き態勢を立て直そうとした所で、背後から後頭部にアイニィがショートソードの腹を強く打ち付け、賊は気絶した。これで3人目。アイニィは手早く倒れた賊の武装を解除する。

「クソガキが…調子に乗るんじゃねえぞこらぁ!…くそっあれを使え。」

 賊は大声を出すがクロを警戒し踏み込めずにいた。そこで賊は奥の手を使うことにした。毒針を仕込んだ吹き矢である。

 残りの賊のうち5人が吹き矢を取り出す動作に入りアイニィたちへの注意が一時薄まった。その隙をアイニィは見逃さなかった。

「ファイアレイン!」

「なに!?」

 小さいながらも多数の火の玉がまだ戦闘可能な賊全員に向けて放たれた。火に驚き何とか消火しようと悪戦苦闘している隙にクロとアイニィが賊を次々に気絶させる。吹き矢を取り出そうとした5人全員戦闘不能である。残りはリーダーらしき男とその補佐の男のみ。

「まだ、やるの?おじさん。」

「くっ…今回は油断しただけだ!覚えてやがれ!」

 賊2人は全力で逃げていった。残された気絶している賊を縛り上げ、一人に水をかけて目を覚まさせる。

「あなたたちは何者ですか?ただの名もなき賊ですか?」

 バーグが感情のない声で質問する。

「お、俺たちは…レ、レッドアイ盗賊団だ。今に見ていろよ…お、お前たちが何を敵に回したかわかる時が、く、く来る。もしここで俺を殺しちまえば、間違いなく報復が行われる。わ、悪いことは言わねえ…俺たちは逃がした方がいいと思うぜ…へ、へへへ…。」

「ふーん…そうだねぇ…うん、やっぱり騎士団に引き渡そう。」

 どのみち命を奪うつもりはないのだ。賊を武装解除してから、一度キルトアに引き返し、騎士団に突き出す。

 

「冒険者の皆さん、盗賊を捕らえてくださったんですね!この街の者を代表して感謝いたします。特にレッドアイ盗賊団には我々騎士団も手を焼いているのが現状でして。こうして引き渡してもらえれば、尋問もできますし本当に助かります。これはわずかですがこの度の謝礼金です。どうぞ、お受け取りください。」

「わお!お金までいただけるとは思いませんでした!ありがとう騎士のお姉さん!」

「…ありがとうございます。」

 アイニィとクロが礼を述べる。レッドアイ盗賊団は賊の当人たちの口ぶりや、この騎士団の対応を見てもなかなか厄介なことで名の通った盗賊団なようだ。

 さて、もう一度旅支度を整えて、今度こそラカカ村に向け、改めて出発だ。


 ラカカ村へ向かう道中。

「ふぅ、やっぱり。なーんかありそうだとは思ったんだよねぇ。」

「そうですね、賊の見張りがあちこちに潜んでいます。今仕返しをするつもりはなさそうですが…。」

「さて、どうしたものか…。まぁ、今回は見逃しておこう。手は出してこないだろうし。」

「私も異論ありません。」

 アイニィとバーグは不穏な空気を感じながらも、馬車列はようやく無事にラカカ村に到着し、仕事は完了した。

「おう、ご苦労さん!思ったより遅かったみてえだが、何かあったのか?とにかくみんな無事でよかったぜ!」

「ジーンさん!途中盗賊に襲われまして、捕らえた奴らをキルトアの騎士団に引き渡すため、一度引き返したんですよ。それで少し遅くなってしまいました。」

「なんと!賊を捕らえたって!?やるじゃねえか流石だなぁ、おい!ははは、どうだ、飯奢ってやるよ!うちの店に寄らねえか?」

「いいの!?わーい!あ、でも用事あるからご飯食べたらまた出発だねー。」

「おうアイニィちゃん今日も可愛いねーって、そうか忙しいな。よし、とびっきり美味いもん食わせてやるよ!」

(賊の見張りが村まで来てるからね。今夜にでも何か動きがあるかもしれない。そうなったら村に迷惑だからね。いいね、みんな?)

(まぁ、しょうがありませんわね。クロ、シロ?)

(御意に)


 その夜、ジーンの店でたらふく満腹幸福なアイニィ達は村を出発し、キルトアまでの道中で野営することにした。火を囲むアイニィたち4人。互いに目配せをし、アイニィが頷いた。

「みんな…気付いてるね?数は5、背後から近づいてきてる…あと5秒くらいかな」

 予想通りのタイミングでレッドアイ盗賊団の者と思しき刺客がアイニィの背後から現れた。

「うごく…うっ!?」

 動くな、と言うつもりだったのだろうが、アイニィに投げられ言葉は途切れた。残り4人の刺客は自分たちはまだ気づかれていないと判断し、一斉にアイニィたちに襲い掛かる。そして一斉に昏倒させられた。

 投げられた刺客は受け身をとり、悪くない動作で構えアイニィと対峙したが、まもなく仲間が倒されたことで負けを悟り、武器を手放し両手を上げ降参した。

「…まいった。俺たちの負けだ。強いな…あんたら。」

「おっちゃんも悪くなかったよ?」

「へ、おっちゃんか…そのおっちゃんから一つ忠告だ。これ以上俺たち、レッドアイ盗賊団に関わらない方がいいぜ。今、あんたらはレッドアイ盗賊団に目をつけられてる。俺たちから武器を盗った奴らがいるってな。今日は無事でも、次、その次って段々とやばい刺客が送り込まれる…だから悪いことは言わねぇ。キルトアを離れて遠くへ行きな。」

 レッドアイ盗賊団としても、自分たちの縄張りに舐めた連中がずっといるのは気分が悪いということだろう。このまま事を構えて損害が出るのは、アイニィ側も盗賊団側も望んではいないわけで。アイニィたちが賊の縄張りから去ることで全て水に流し、手打ちにしようという申し出だ。

「ふうん…なかなか面倒そうだね?忠告ありがとう。」

「わかってくれたか…ついでだが、俺たちを無事に返してくれたら、盗賊団の連中に一言伝えて、次にあんたらを襲うタイミングを遅らせてやることはできると思うぜ…。」

「ふむふむ…まあいいでしょう。おっちゃん、お願いするよ。」

「案外話が分かるじゃねぇか。それじゃ、もう会わないことを祈ってるぜ。…いつまで寝てんだ、いくぞ。」

 気絶していた仲間たちを起こし、刺客たちは静かに去っていった。今回襲ってきた刺客たちは初めに金目の物を置いていけと言っていた連中より、明らかに練度の高い者達だ。刺客のおっちゃんの口ぶりでは更に上の使い手たちが控えているというのだから、なるほどそれなりの力がある盗賊団なのだろう。そんな組織に目をつけられている…。

 一番気を付けたいのはこの一件にラカカ村が関わってしまう事態だ。やはり、危険の芽は摘んでおくべきだろう。何かが起こる前に、こちらが動く。

 

 その後無事にキルトアに着いたアイニィたち。ラカカ村の馬車護衛の仕事中には急いでいたため、立ち寄れなかった例の武具店に寄り、盗賊団のならず者達から奪った武具を売り払った。

「わーい、おっ金、おっ金!」

「護衛の仕事に加え、賊の装備でちょっとした額になりましたわね。しかし…。」

「うん…ま、放っておくわけにはいかないでしょ、ね。いっちょ、やったるか~!」

 レッドアイ盗賊団…たちが悪い賊集団。アイニィたちは刺客のおっちゃんがくれた少しの時間を使い、賊の情報を集めることにした。

 まず街に出て情報収集…情報収集と言えば、酒場と決まっているが、騎士団までも手を焼く盗賊団とくれば、冒険者ギルドにもレッドアイ盗賊団がらみの依頼が来ているかもしれない。しかし、派手に情報収集などをすれば逆に向こうに何か気取られる可能性がある。アイニィ達の実力隠蔽のためには、盗賊団にも冒険者たちにもあまり知られたくない。つまり大事にはできないのだ。無論、大事になればラカカ村にも迷惑がかかる可能性も増すだろう。

「ふむ…まずはやはり、ギルドからにしておくかな…ね、バーグ」

「そうですわね」

 騎士団に一度賊を引き渡しており、ギルドにもアイニィたちが賊に襲われたことは伝えてある。ギルドの依頼での仕事中に賊に襲われたとなれば、その情報は今後どんな依頼をどんな冒険者に任せるかなど、様々なところで活用されるわけだ。アイニィたちが今回の襲撃を受けて、レッドアイ盗賊団の情報を少し尋ねたところで違和感は全くないだろう。つまり、酒場をまわって情報を集めるよりは目立たずに済むわけだ。

 よってアイニィたちは、まずギルドを訪ねた。

「いらっしゃいませ、アイニィ様、皆様」

「ギルドのお姉さん…レッドアイ盗賊団について、わかっていることを教えてもらいたいんだけど、頼める…かな?」

 アイニィは潤んだ瞳で上目遣いにギルドの受付嬢を見つめながら懇願する。そこまでする必要はないのだが、無駄に可愛い。

「も、もちろんです!冒険者の方々に対する情報提供もギルドの役割の一つですからね。レッドアイ盗賊団に関しては、こちらに情報をまとめてあります。どうぞ、ご覧ください。質問などにもある程度対応できますので、何かあれば仰ってください。」

「うん、ありがと!みんなで見てみるね!」

 アイニィが現在知りたいのはレッドアイ盗賊団の規模とアジトの場所だ。この二つに関しては、大まかなことがギルドの資料には記されていた。また、盗賊団が出没しやすい地域に関しては詳しく記されており、最近襲われた事案での賊の装備や人数についてまでもが書かれている。地図を見ながらアイニィにはなんとなく賊の規模とアジトのより詳細な場所の推測ができてきていた。

「ふむふむ、結構情報がそろってるね。アジトはこのぶんだと荒野の砂丘地帯周辺…かな。」

「同感ですわ。おそらく遺跡か何かがあるのでしょう。」

「うーん、まあ後は歩いて探すかな?なるべく探索魔法は使わずに、いけるかなぁ?」

「そうですわね…探索魔法使って、空から探して…といつものようにはいきませんものね。」

「まあ少し探してみるか、ダメならしょうがない、探索魔法使ってすぐに決着をつけよう。」

「そう…ですわね。ラカカ村には迷惑をかけないようにいたしませんと。」

 アジト探しがもし、賊側にバレてしまった場合、事が大きくなることが予想される。下手をすればラカカ村そのものを人質のような形で利用される可能性もある。よって、一度の探索でアジトを探し当て、賊との決着をつけるのが肝要となる。

 情報から推測するに、アジトは1か所、あるいは複数でも近くに固まっている可能性が高い。アイニィ達の能力なら複数アジトがあったとしても探知できる範囲内なため、一帯のアジトを討ち漏らすことは考えにくい。

 あとは盗賊団の主力や頭の情報も必要だ。賊の頭や賊の主力を討ち漏らせば報復にラカカ村が巻き込まれる可能性もある。要は無人のアジトに攻め入っても良い事はないというわけだ。

「そうなんだよなぁ…アジトの場所はともかく、一網打尽にするためにはなるべく賊全員がアジトに居てくれないと困る。少なくとも頭は抑えないと。」

「そうですわね…おそらくですが、賊も組織であるなら、なるべく全員を集めた集会が開かれるはずです。そのタイミングを利用するのが得策でしょう。」

「そうだねぇ…うむうむ。資料からある程度の推測はできるけどって感じかぁ。…よし、騎士団の所に行こう。直接賊に聞いてみる。」

 そう時間は経っていないので、騎士団にはつい先日引き渡した賊がまだいるはずだ。ギルドの情報から推測した大まかな日取りと賊の証言を照らし合わせて、可能性の高い日取りにアジト襲撃を行う。これがアイニィの考えだ。

 そうと決まれば善は急げ、時間もないのですぐに騎士団の詰め所へと向かった。

 

「…よお。俺はまだ帰してもらえないのかねー?」

 賊はまだ牢に閉じ込められていた。妙に自信がありそうな、ふてぶてしい態度は相変わらずである。すぐに殺されないことがわかって安心しているのか、レッドアイ盗賊団という組織を信じているのか…またはその両方か。アイニィの見立てでは、特別何か力を隠しているということはなさそうだ。

「さあてねぇ?あたしにはわからないよ、そういう事は騎士団の人に聞いて?それより、あたし知りたいことがあるんだよねぇ?」

「ああ?知りたいことだぁ?まさかそれを俺に聞きに来たとでもいうのか?だとしたらウケるな!俺が言うわけないだろうが。」

「ほーん…チャリ。」

 アイニィはチャリ、という音とともに「あるもの」を取り出し、賊に見せびらかした。

「なんだぁ?…金っ!?なるほど話が分かるぜ!で、いくら出せるんだ?」

「まずはそちらの情報から。その情報が、こちらが掴んでいる情報と照らし合わせて信憑性がありそうなら、前金で…これくらい。」

「ま、前金!?じゃあ、更に出してくれるのか!?」

「情報が正しいことがわかれば、更に…この額払うよ?」

 指で額を示すアイニィ。可愛く可憐なアイニィだがお金の額を訳知り顔で指を立てて示す様はいつもと違う魅力があるように、バーグには見えた。この姿を正面の特等席から見ている賊が羨ましい…と顔には出さず、いつもの涼し気な表情でアイニィを見つめるバーグであった。

「乗った!!いや、まだ俺が話せる情報かわからねぇが…とりあえず何が知りたいか言ってみな!」

「レッドアイ盗賊団でも集会くらいはやっているでしょう?なるべく大きな集会の日取りを教えてくれる?頭や主力のメンバーが同時になるべく沢山集まっている日。」

「なるほど、集会の日取りか…何を企んでるのか知らねぇが、大した話じゃなくて安心したぜ。大きな集会となると、丁度でかい集会が割とすぐに控えてるな。日取りは…。」

「ふむふむ、なるほど、こちらの情報とも合うね。いいでしょう、ほら前金だよ、とっときな。」

 チャリチャリーン。

「ありがてぇ。残りはいつもらえるんだ?まさかこのままトンズラなんてことは…」

「集会が実際に開かれたことが確認できてからね。つまりその集会の後に払うってわけ。」

「なるほど、そういうことか…くくくっ集会の日取りだけでこの額、美味い話もあったもんだぜ。」

「じゃ、今日来た理由も片付いたし、あたしたち帰るねー。ばいばーい。」

「おう、残りの金…待ってるぜ。」

 これで賊の規模、アジトの場所、集会の日取りなど、必要な情報は揃った。それから賊の監視の視線を感じることはあったものの、刺客のおっちゃんが頑張ってくれているのか、はたまたキルトアから特に外に出ることがなかったためか、賊のアジトへ乗り込むその日まで賊の襲撃はなかった。

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