第9話 ゲーム

 最初は、ちょっとした息抜きのつもりだったそうです。


 彼女は男児が生まれたばかりで、その世話にかかりっきりでした。

 真夜中でも子どもが泣きだすと起きなければならないので、気が休まる暇がありませんでした。

 その旦那さんも育児に協力するとは言っていましたが、実際に生まれてみると大して役に立ちません。ほとんど彼女に任せっきりです。

 日増しにその不満は溜まっていって、旦那さんにもきつく当たるようになりました。

 そんな時、ふとしたことから学生時代の友人に電話したところ、とあるスマホアプリのゲームを勧められました。

 これならちょっとした空き時間でできるから、そう言って勧められたそうです。

 確かに、スマホのゲームならゲーム機やPCのゲームと比べると手軽で短時間にできます。ちょっと遊びたいという人にはいいかもしれません。


 それからしばらくの間、彼女には前よりも余裕ができたように感じたそうです。

 そのスマホのゲームを息抜きにすることによって、精神的余裕が生まれたのでしょう。

 旦那さんにきつく当たることもなくなり、子育てにも熱心で、絵にかいたような幸せな家庭だったそうです。


 しかし、ある時から変わり始めました。

 旦那さんへの対応はおざなりになり、夕食はカップラーメンだけのことも多くなりました。他の家事、育児にも手抜きが目立つようになり、再三夫婦喧嘩となりました。

 原因はあのゲームでした。

 ゲームに没頭するあまり、他のことに手が回らなくなったのです。どんな時もスマホが手放せなくなり、もはや中毒でした。

 子どもは餓死し、彼女は保護責任者遺棄致死罪で捕まりました。


 彼女がしていたゲームは、ゲームだったそうです。

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掌(てのひら)に収まる物語 異端者 @itansya

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